気狂隊との死闘4-2
「健斗を回収する。人工心臓の用意、及び手術準備。特殊車両で行うわよ。」
有無を言わせぬ玲子の迫力に晃は同意するしかなかった。
人工心臓の移植は無事成功した。あとは健斗の目が覚めるのを待つだけだ。
木野塚玲子は、日増しに強くなりつつあるテロリスト舟木隼人との戦いに憂鬱になるのだった。
リハビリに2か月かかった。どうにか負傷する前の動きが出来るようになってきた。
しかし、俺は憂鬱だった。死にかけたこと。そして人工心臓を移植されたこと。
あの日、俺はあの感覚を再び経験したのだ。幽体離脱を。
心臓を刺され呼吸ができなくなり意識が遠のいた時、確かに俺は自分が苦しんでいる姿を上から眺めていた。目の前で、晃が放ったレーザー砲が舟木隼人の右肩を吹き飛ばすのを見た。苦痛にゆがんだ顔で即時撤退の号令を出したのはさすがだった。
俺は魂として肉体から離れたことにより状況を冷静に観察できていた。
水木陽一氏が蒼い顔で駆け寄ってきたが・・・・そこで記憶がなくなった。
だが、最も大きな問題は・・・・。
明らかに舟木隼人に負けたのだ。次に戦ってもこのままだと勝ち目はない。
2030年6月15日13時40分
南陽町のテロ対策室にて玲子と晃を前に俺は切り出した。
「力を貸してくれ。このまま現場復帰しても舟木隼人には絶対に勝てない。このままでは勝機が見いだせない。玲子、何かほかに武器はないか。晃も知恵を貸してくれ。」
「なんの話かと思ったけど、そんなこと。私はてっきり、もう怖くて戦えないとか言い出すのかと思ったわ。」
「玲子さん、それはひどすぎ。まあ、玲子さん流の独特の励まし方なんだろうけどさ。」
玲子はニヤリと悪い顔をして言った。
「わたしを誰だと思っているの。天才科学者の木野塚玲子よ。」
玲子がコンピュータのボタンを押すと壁のシャッターが上がる。中にはポリマースーツが用意されていた。前回の戦いで舟木隼人の右腕と一緒にポリマースーツも回収した。この2ケ月間で同じものを開発することに成功したのだ。
「敵と同じポリマースーツを完成させたわ。強度はお墨付きだけれども、重量を考えれば黄色カプセルの効力では普通に動くのが精いっぱいだわ。そこで、ここに赤色のカプセルがあるの。一応作っておいたけど人間の心臓には負荷が大きすぎて使用できなかったのよ。人間の身体能力その他すべての能力を5倍に引き上げるのだけど。でも今の健斗君の体なら問題なくってよ。」
「ただし、効き目は最大1時間。効き目が切れたら1日ないし2日は意識がなくなるし、体は1週間は動かないはず。何度も使うものじゃない。それは絶対理解して頂戴。」
玲子さんは、最初は明るく説明してくれたけど最後のほうは涙声だった。
「わかった。ポリマースーツを着て通常の2倍強の力が出せるとの解釈で間違ってないか。それなら、奴を倒せそうだ。」
木野塚玲子は健斗に黙っていることがあった。健斗に埋め込んだ人工心臓の動力源は超小型核融合炉であり稼働が停止すると爆発する設定になっている。
グレートマザーの暴走を止めるため、最悪、相打ち覚悟の装備だ。
もともとこんな機能は想定していなかった。
ただ、玲子の研究は暗礁に乗り上げたまま遅々として進んでいなかったのだ。
人間の意識と機械との融合の方法がどんなに研究しても糸口すら掴めていなかった。
あの日、水木武郎が死に、残された書類に記載された近未来における人類滅亡の日。
その日を回避するためだけに研究を重ねてきた恩師とその研究成果を引き継ぎ今日まで取り組んできた私だが、
・・・・どうすればいいの、どうしたら、何をすれば・・・・
ただ、ひとこと言えるとすれば、この人工心臓を本当に使用する日が来るとは玲子自身が思ってもみなかったのだ。
某日、テロ対策室にて
柏木健斗は偶然、木野塚玲子の研究資料を目にした。そこには人工心臓の設計図が記されており、注釈とともにある装備を組み込むことが記載されていた。
おそらく俺が命を落とすとしたら、それは戦いの最中だろう。ならばこの装備がされても何ら不思議ではない。元々、木野塚玲子の人生の目的そのものが・・・・。
俺は気がつかなかったことにした。
木野塚玲子の独白
私は彼を死に追いやっている。認めたくないけれど間違いない事実。本当は死んでほしく
ない。いや、生きてほしい。私のために生きてほしい。でも、それは許されない・・・
トレーニング室の晃
車いすから床に降り、ゆっくりと右膝の曲げ伸ばしを行う。
あの日、獣人間に車に叩きつけられた際、肩、胸、腹部、左腕も強く打撲していたが、
一番ひどかったのが掴まれていた右足だ。膝が捻じれ十字靱帯が表裏ともに断裂しており長期間リハビリしても元に戻れるかどうか。焦ってはいけない。悔しいが一気に治せるケガじゃない。今できることをヤルだけだ。僕が戦えないことには健斗に負荷がかかる。1日も早く僕もポリマースーツを着れるようになるんだ。
人知れず筋力回復のトレーニングに励むのだった。
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