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8 デスボイス


 トムたちは口から猛烈な火焔を吐き出すナツミを、呆然と見つめた。


 あたり一帯は即席の地獄絵図と化していた。


 巨大な龍のようにのたうつ炎がバイク集団に襲いかかった。

 しかも突如として空に雷雲が立ちこめ、突風と共に激しい雷鳴がとどろき、土手がひび割れ川に崩落し、落雷が走行するバイクを直撃して、ライダーの悲鳴と共に火だるまになって川に飛び込んで……

 阿鼻叫喚。


 そんなのが一分ほど続いただろうか。


 火焔が消失してあたりが静まりかえると、賊は全滅していた。

 比較的無事だった賊はのろのろと立ち上がって、なにが起こったのか分からないという顔で森に逃げ帰った。


 残ったのは破壊された何十台ものバイクと、横たわってうめく10人あまりの賊と、ポカンと立ちすくむチーム・レイブンクローの面々。


 そして両手で口を押さえたナツミだった。


 「いまわたし口から火吐いた!?」


 「エー……」隣のトムが頭の上で手を組んで、言葉を探していた。

 

 アナとトムが急ぎ足で土手を登ってきた。

 「いっいまなにが起こった!?」

 「ナツミさんが、口から火を吐いてそれで……よく分からない」

 アナがナツミに尋ねた。

 「それってものすごく高度な魔導律じゃないの……?」

 「えーとね……」ナツミは頭をかいた。「もうアマルディス・オーミさんの力はないと思ったんだけどねえ……」


 「とにかく……」テッドがあたりを見回した。「要救助者も出てるようだし、どうにかしてやらないと」


 チーム・レイブンクローは火傷を負った者に応急処置をしたり川に落ちた者を引っ張り上げたり、忙しく動いた。仲間の二人も怪我していた。もうひとりの女の子、ミカエラは腕にかなりの裂傷を負っていた。


 そのうちに町から応援が駆けつけて本格的な救助活動が始まった。



 「奴ら、命に別状はないが何人かは重症を負ってる。医者か回復魔法できる者を呼ばないと」


 「12人もぶち込んだら町の留置所は満杯だよ!ウラワ県庁に連絡してくれ!」


 「バイクの残骸を片付けるのにもっと人手がいる……」

 


 自転車で駆けつけたカワゴエタウンの町長らしき人がチーム・レイブンクローの面々に事情を尋ねた。

 「暴走族を成敗してくれたのはありがたいのだが、奴らはいずれもっと仲間を連れて仕返しに来るかもしれない」

 「ですよね……」アナは頭を下げた。「責任は取りたいです」

 「しかしねえ、あんたたち外国の人に無理は言えないからね……だから早々に町から立ち去ったほうが良いんじゃないか?悪いけど」

 「でも……」


 「あの、町長さん」ナツミが言った。「彼らに責任はありませんよ。この件は大部分わたしが悪いので」

 「あんたどなた?」

 「はい、今日ここに来たばかりの、鮫島と申します」

 ナツミは深くお辞儀した。

 「鮫島?」町長はつられてお辞儀しつつ首をひねった。「あんた、マー君か川上さん家の親戚かい?」

 「あー……はい、そうです。川上はわたしの実家ですが、ご存じ?」

 「そりゃあね、このあたりじゃ有名ですよ。マー君とヨシ君はサイタマでもいちばんの魔道士だし。やはり魔導救助隊の司令官だったお父さんの能力を受け継いでるんですかねえ」


 「マサキとヨシキが?」

 日本に住んでいた頃はパパから魔導律をシェアしてもらったなんて一度も聞いてなかった。「――それは知らなかった……」

 「従姉妹のユリナちゃんもすごいけど、みんなトーナメント出場目指してるからねえ。そうか――」町長はパンと両手を打った。「分かりました、どうも込み入った話のようですな」

 「そうなんですよ。じつはアナ・ロドリゲスさん一行もマーく……マサキさんに招かれたので……」

 「なるほどねえ……」

 


 まもなく、ナツミがちょっと前に目撃した魔法の絨毯も飛んできた。

 

 絨毯から降りた男性が、一帯の惨状を見回しながらナツミたちのほうに駆けつけた。黒地にホワイトストライプのスウェットスーツだけど木刀を持っていた。身長180㎝――


 「いったいここでなにが起こったんです?」

 彼が訊いて、町長が答えようとしたが、ナツミが先につぶやいた。



 「マー君……!」

 


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