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62 決戦2

 

 スペイドが常人離れした機動力で打撃を繰り出してきた。

 軍隊仕込みだ。

 それに加えあり得ない角度で――いっけん何もない場所に脚を踏み込み、体を回し、拳と蹴りを間断なく打ち込んでくる。


 ヨシキは攻撃をブロックし続けた。


 甲板に降りて艦橋構造物を回り込んだ。スペイドは反対側の甲板に消えた。

 ヨシキは艦橋の影で跳躍した。複雑に突き出たマストに手をかけて角張った艦橋の頂上に達すると、スペイドと鉢合わせした。

 「チィ!」

 ヨシキと同様上を取ろうとしたようだ。

 ふたりは勢い取っ組み合いにもつれ込みながら要塞後部に落ちた。


 落下した先は平面だがゴツゴツした四角いハッチが並んでいた。ヨシキがふたたび突進しようとしたその時、一度に6列のハッチがバンと開いた。

 これはVLSだ、と悟った瞬間中からミサイルが発射された。バックブラストをかわすため体を伏せた。

 スタンダードミサイルだ。見る間に空高く上昇して、ゆるい弧を描きながら巨大ロボットに向かってゆく。

 (無理だぜ、片桐さん)

 ヨシキは内心独りごちた。案の定、ミサイル群は着弾直前に爆発してしまった。近すぎてじゅうぶん加速できず対空防御兵器に迎撃されたのだ。

 続いて巨大ロボットの胴体に鋭い光条が瞬き、猛烈な爆発音と振動で空中要塞が震えた。

 砲撃されたようだ。

 距離的にミサイル攻撃より正しい判断だった。

 黒煙がヨシキたちのいる後部に押し寄せてきた。

 遅まきながら、要塞は艦首を傾けて上昇しはじめた。

 速度も上がっていた。ようやく高度とスピードの利を生かす気になったか。

 しかし――

 要塞は……というかヨシキもそれが全長100メートルほどの、潜水艦的フォルムの空中戦艦だと気付いたが――ニューアカサカ上空からトウキョウ湾上に出た。緩やかに旋回しつつ高度千メートルあまりに上昇していた。

 だがまたしても先手を取られた。

 トウキョウ湾に停泊中の米海軍潜水艦から今度はミサイル攻撃を受けたのだ。やはりスタンダートミサイルだ。垂直に上昇してから空中戦艦に向かって飛来してきた。


 さいわい、今度ばかりは空中戦艦も対空防御を展開していた。

 緑色のギラつく光条が瞬いた次の瞬間、ミサイルが爆発した。レーザーのようだ。

 しかもやはり港に停泊中だった〈いずも〉級護衛艦が参戦した。

 おそらく巨大ロボット出現によって臨戦態勢を取っていたのだろう。港から出港しつつ甲板脇のCIWSがミサイルに向けて火を吹き始めたのだ。

 20㎜ファランクスガトリングガンの曳光弾が空を彩り、同時にヘルファイアミサイルが潜水艦に向かって飛翔してゆく。

 空中戦艦が船体を斜めに傾けはじめ、45度ほど傾斜したのでヨシキたちはしがみついているのがやっとになっていた。飛行速度はすでに時速200㎞を超えている。

 飛行戦艦は艦砲を巨大ロボットに向けていた。2連奏127ミリ砲が発砲をはじめた。

 ダン!ダン!ダン!連続した射撃音が続き、巨大ロボットに砲弾が殺到した。

 黒い胴体に爆発が生じた。巨大ロボットがぐらりと傾き、倒壊しかけた。

 港湾内はたちまち複数船舶による会戦状態になっていた。


 ヨシキはスペイドがハッチを蹴破って艦内に侵入するのを見た。対決を後回しにして破壊活動に切り替えたのだろう。

 (させるかよ!)

 ヨシキは後を追った。


 

 ベータにとっては揺れまくる艦内もなんのことはない。軽やかにスキップしながら艦橋に上がった。

 戦艦とは言えもとはホテル、通路は比較的広く、突起物もない。艦内じゅうに通路がもうけられているわけでもなかった。自動化を進めてわずかな人数で運用できるようにした結果、船体内は機械で埋まっている。人間が動き回れるのは艦橋周辺だけだ。

 ラッタルも無く、階上に登るにはエレベーターか非常階段しかない。

 非常階段を使った。

 3階ぶん駆け上がって司令所があるとおぼしきフロアに出た。

 スライム化して防護ハッチをすり抜けると、そこに勢揃いしていた。

 人間10人と猫10匹が。


 白人8人がベータに背を向け、フロアの奥に向かって立っていた。

 白人兵士たちの奥では片桐アズサが機械に囲まれた座席に収まっている。その傍らに実原レイカがすがりついていた。

 そして猫たちが気ままに床を徘徊していた。


 アズサのいるフロア奥は透明なシールドに保護されているらしく、白人兵士たちは打撃で打ち破ろうと苦闘していた。そのまんなかには復活した大男のジョーンズが仁王立ちしていた。

 アズサの視線が男たちの背後に泳いで、それで男たちは背後に立つベータに気付いた。

 「やあ」

 「テメエこのジャップのくそあまァ!」

 ジョーンズがたちまちキレた。

 先ほど核弾頭を投げられた恨みだろう。間髪入れずベータに襲いかかってきた。6メートル四方しかない狭いフロアだからあっという間にベータにつかみかかった。

 相手は身長160㎝、体重はせいぜい100ポンドだ。投げ飛ばして壁に叩きつけるつもりだったのだろう――

 だがベータは両手でジョーンズを受け止め、ふたりはがっぷり乙に組んだまま動かなくなった。

 ジョーンズが怒りの形相から困惑、焦りと豊かに表情変化した。

 「てっテメエ、〈ハイパワー〉かっ!?」

 見た目より察しが良かった。戦闘経験豊富で危機に際した直感が鋭いのかもしれない。

 「あんたが着てるアーマースーツもね」

 ベータは平静な口調だ。ジョーンズが渾身の力を込めて腕をわななかせているのに、ベータは余裕でピクリともしない。

 そのうちに氷が溶けるパリパリというような音がジョーンズの身体から聞こえ、漆黒のアーマースーツが溶解しはじめた。

 他の兵士のアーマースーツも同様だ。

 「くそっ!」

 ジョーンズは思わず飛び退いたが、溶解は止まらなかった。解けたスーツが足元に流れ落ち、ベータの傍らにずるずると集まって一個の塊により合わさる。

 そして――ピンク色の、マンガっぽい巻き糞に変化した。


 「きっ貴様ァー(ブルシット)!」

 ベータはやれやれと首を振った。

 「とことんうんち好きだねあんたら」

 「ふ、副隊長……」今度こそ完全に武装解除された兵士たちが所在なげに棒立ちしていた。

 「黙れ!俺たちの戦いはまだ終わっちゃいねえ!」

 「しかし――」

 

 その時、手狭になったフロアにまたひとり闖入者が現れた。正確にはひとりと一匹。

 いつのまにか男たちの背後にシャムリスが出現していた。

 「おや、いらっしゃい」ベータが挨拶すると男たちは一斉に振り返った。

 激高したジョーンズが叫んだ。

 「またテメエかこのバケモンが!このくそ異世界人が!なにもんなんだいったい!?」


 シャムリスは眼を細め、地球人でも分かる蔑みの表情を浮かべた。

 「わたしは――」


 そして、白人兵士たちは呪われた。


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