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61 決戦

 

 「ヨシキクンは無事かしら……」タカコが絨毯の端から身を乗り出して言った。


 魔法の絨毯は、地上300メートルくらいに浮かぶ空中戦艦の周囲を旋回している。

 接近すると、家くらいの大きさの四角い構造物の上でヨシキとスペイドが対峙していた。

 スペイドの部下の大半も奇跡的に無事……とは言え、ほぼ全員負傷して地べたに這いつくばっている。


 よく見るとヨシキから10メートル離れてるだけの艦橋の根元で、実原レイカがハッチを叩きながらなにかわめいていた。

 「あのおばさんも案外タフだ」アナはカオリに首を巡らせた。「助けてあげたほうが良くない?」

 だが言ってるうちにハッチが開いて、レイカは空中戦艦艦内に倒れ込むように姿を消した。


 空中戦艦がゆっくり旋回して、巨大ロボに艦首を向けた。

 「戦う気だ……」

 「あの片桐アズサという人が、操っているのか……」カオリが言った。

 「家柄は古いけど、旧日本では駆け出し与党議員にすぎなかったのに……おそらく魔導律に目覚めて野心を新たにしたのね」

 「わたしら〈ハイパワー〉の技術も寄せ集めてね!まったく!これからはもっと厳しく取り締まらないとわが種族の恥だわ!」

 「それはともかくこれを切り抜けないと……だれか妙案お持ちで?」アナが尋ねると、カオリとベータがうなずいた。

 「ま、力押しはできる……けど現状だとどれほど被害が出るか」

 「ええ、市街戦は避けないと」

 「いま〈ハイパワー〉の船三隻がこちらに急行してる。20分で到着する」

 「わたしの援軍もまもなく現れると思うけど……」カオリは立ち上がって言った。「ベータ、あんたはあの船に乗り移ってヨシキクンを援護しなさいよ」

 「あたしだけ!?」

 「わたしは絨毯を飛ばさないとだし」

 「人使いが荒いなあ」

 カオリはポカンとしていた。

 「だれが「人」だって?」

 「へいへい、そんじゃ行くかね」


 絨毯がふたたび艦橋付近を航過するタイミングを見計らって、ベータは助走を付けて飛び降りた。

 「ベータいっきま~す!」



 

 「とんでもねえ隠し球があったもんだぜ」

 スペイドがなかば呆れて言った。

 ヨシキもアメリカ人たちも突然のビル崩壊を命からがら逃げ切り、全身白っぽい煤に覆われていた。

 スペイドの意見にはヨシキも賛成せざるを得なかった。


〈ハイパワー〉のからだを構成するナノフェイクマターは大学と自衛隊技研によってある程度解析され、電圧によって様々に形態を変える流体疑似金属を生み出した。

 半導体と生物の細胞組織の構造を併せ持ち、本来は超伝導によって完璧な生態金属――装甲であり駆動系であり人工頭脳でもある完全物質になるはずだが、とりあえず、常温超電導技術をまだ確立していなくても電源さえあれば、ある程度運用可能だった。

 その技術はヨシキの父を通じてシャドウレンジャーの強化にも利用されている……ヨシキのスーツもそれでパワーアップしているのだ。

 だが浮遊要塞(ヨシキの立ち位置からでは船だと分からない)を街の真ん中で密かに建造していたとは。

 (東京を再建できるほどあったはずの政府予備費が、底をつくわけだ……)

 首謀者は片桐アズサに違いない。つい先ほど壮大な野望を語ったときと比べてさえ、ずっとヤバい女だった。

 

 要塞がゆっくり向きを変えて、尖った先端を迫り来る巨大ロボットに向けた。

 「どうやら、この要塞であんたがたの巨大ロボと戦うらしいぞ?」

 スペイドも背後に接近する巨大ロボットを一瞥した。そして自嘲気味にせせら笑った。

 「なんか楽しくなってきたぜ、な?そう思わんかジャップ?」

 「ああ」ヨシキは両足を肩幅にひろげ、低く構え直した。「愉快だ」


 細かいことを切り捨て、目前の戦いに生きがいを見いだした者の奇妙な絆らしきものが、ふたりのあいだに生じていた。決して相容れない相手同士ではあったが、ある種の純粋思考の境地に辿り着いた者だけに生じるシンパシーだ。

 ただ 殺るのみ。


 スペイドが上着の袖をまくり、右腕に装着したガントレットを叩いた。ギュン!という金属的な音と共にスペイドの全身が漆黒のアーマーに覆われた。


 ヨシキとスペイドは同時にダッシュした。

 構造物のちょうど真ん中でふたりは交差して、紫色の火花を散らした。ふたりとも人間には到底なしえないスピードだ。

 パワーは拮抗していた。



 ベータが飛行戦艦に飛び降りたのは、ヨシキとスペイドが交戦状態になったその時だった。

 「あらら~始めちゃったよ」

 ベータはヨシキの支援を言い渡されたが、直接支援だけが能じゃないと判断した。〈ハイパワー〉の技術を剽窃した兵器の存在も看過しかねる。

 ベータ自体がドローンであるため、むしろそちらを優先せざるを得ない。ベータのセンサーを通じて10光秒圏内に存在するすべての〈ハイパワー〉が今回の件に注目している。

 

 その気になれば、地球人がいい気になって作った〈ハイパワー〉盗用技術を無効化するのは造作もない。

 彼らはなりふり構わずフェイクマターの構造をコピーしたにすきない。それはつまり〈ハイパワー〉のからだを新しく作った、というだけのことだ。

 本来の持ち主が既得権を主張すれば地球人は文句を言う余地もない。フェイクマターの疑似遺伝子コードを丸々コピーした祭、巧妙に織り込まれているバックドアまでコピーしてしまった事実を、地球人は気付いていない。

 だからベータはフェイクマターに対して〈我に従え〉とコマンドを出せば良いだけの話だ。

 すぐさまそうしなかったのは劣化コピーの粗悪品だからだ――からだの一部に出来損ないを取り込むのはさすがにぞっとする。

 (それに教訓的でもないし……)


 巨大ロボットのほうは別働隊が動いている。

 なので、まずは飛行戦艦内部に侵入してコントロール機能を奪取することにした。巨大ロボと相打ちさせるにしてもあの片桐という女は戦いの素人だ。ベータがコントロールしたほうがずっとうまく戦える。

 ただしひとつだけ問題があった。魔導律結界を張られていたらコントロールコアに近づけないかもしれない。地球人は〈ハイパワー〉に対してひとつだけイニシアチブがある――最新テクノロジーに魔導律を掛け合わせていることだ。

 (カオリが一緒に来てくれれば問題なかったのに……)


 とにかく、ベータは身体を平らにして隔壁のわずかな隙間から艦内に潜入を果たした。


 艦内通路に出ると、隔壁に手を這わせて超振動で見取り図を探った。

 核融合炉と管制室の位置を掴んだ。制御システムはAIが統合していて、乗組員は少ない。20人中半分以上はベータのように無断侵入した白人グループの生き残りだ。残りは片桐アズサのボディーガードで、艦橋周辺に集中していた。


 コントロールはやはりアズサ本人が行っていた。



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