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57 天界の殺戮

    

 『龍翅族奥義――獄魔導十殺戒――!』



 ナツミがそう唱えて七支刀を高く掲げると、頭上にひときわ強烈な稲光が走って広場を真っ白に照らし出した。

 一拍おいて空を引き裂くような雷鳴が轟き、広場の暴徒たちは思わず首をすくめた。



 「な、なんでえ……脅かしやがって、この――」

 黒革の男が悪態をつこうとしたそのとき、足元から突然仔牛ほどの大きさの龍の頭が飛び出して、男を腰まで飲み込んだ。

 「ワ――――――ッ!?」

 男は甲高いうわずった悲鳴を上げながら宙に突き上げられ、龍が顎を閉じはじめるとひときわ悲壮な悲鳴を上げた。

 「痛え痛え痛えバカやめろっ!アーッ!」

 龍が男の胴体を嚼みちぎって、残った上半身が血しぶきを迸らせながらくるっと回転した。龍は口を開けてそれを受け止め、ばりばり咀嚼した。


 同じ光景が広場にいた暴徒の人数ぶん繰り広げられた。


 

 それから何百という龍が突然消え去り、龍に食い殺されたはずの暴徒たちが五体満足で立っていた。

 

 「あれ?」暴徒たちはしきりに身体を探った。

 「な……なんだよ……いまのは――」


 困惑する暴徒たちの足元から、今度は鋭い特大アイスピックが突き上げて串刺しにした。

 またもや、暴徒たちは激痛に悲鳴を上げ、あるいは鮮血と吐瀉物を迸らせもがき続けた。

 アイスピックは次から次に沸いて暴徒たちが絶命するまで肉体を突き刺し続けた。

 最後の悲鳴が途切れるまでの20秒間が永遠のように感じられた。

 やがて慈悲深い沈黙が訪れ……そして暴徒たちはまたもや無傷に戻った。


 「え……?」


 その憔悴しきった様子から、暴徒たちが激痛の記憶を引きずっているのは確かだった。汗びっしょりで両眼をしきりに泳がせ、「悪い夢だよな?」と言いたげに薄ら笑いを張り付かせていた。

 しかし、夢ではなかった。

 

 今度は暴徒たちの傍らに電柱ほどの太さの炎の柱がバッと立ち上がり、驚愕した暴徒たちは許しを請い、やめてくれと懇願したが、肺に熱い空気が流れ込んですぐに声を失った。

 広場はたちまち松明のように燃え上がりながらもがく暴徒たちで一杯になった。

 

  

そうやって殺されては復活させられ、暴徒たちの処刑が繰り返された。なにが起こっているのか彼ら自身悟っていた。復活したとたん狂乱の叫びを上げて逃げようとする……

 だがだめだった。もはや言葉にならない獣じみた絶叫と悲痛な泣き声を上げるばかりだ。



 カワゴエニュータウンの住民とテレビスタッフも、その恐ろしい光景を呆けたように眺め続けていた。


 

 「もっもう見てられない――」ユリナが口を押さえて顔を背けた。


 マサキも我に返り、あたりを見回すと母親の姿が消えていた。


 「龍翅族アマルディス・オーミの高等魔導律だろうな……」テッドがつぶやいて十字を切った。

 「今度こそ終わった。旅亭に行こう」マサキが言い、ユリナとヨウコもきびすを返し、惨殺が続く広場に背を向けた。



 食堂ラウンジでは先ほどまで横たわっていた怪我人が立ち上がり、せっせと後片付けに動き回っていた。

 「あれ、みんな直ったのか?」

 マサキたちを迎えたミカエラが言った。

 「ナツミさんがさっき訪れて、一瞬でみんな直しちゃったの……重体患者まで」言いながら背後のテーブルを指さした。ナツミが座って猫の餌をポリポリつまんでいた。

 

 「母さん?」

 マサキが呼びかけると、ナツミはあっけらかんとしていた。

 「マーくん!外が賑やかだけど、もう終わったの?」

 「あー……ウン」

 マサキが困惑しているのを見てナツミは苦笑した。

 「分かってる、またアマルディス・オーミさんがなにかしたんだよね?でしょ?」

 「うん、そう」


 技の名前通りなら、暴徒たちは10回殺されるのだろう。しかも残虐極まりない方法で、避けられないと悟ってつぎの殺害方法に怯えて……


 マサキはむかし父親と交わした会話を思い出していた。


 もし俺たちが魔導律にうぬぼれ増長するようになったら、母さんが許さないだろう……


 いままでその意味が分からなかったが、今夜知った。

 母親に取り憑いている龍翅族という種族は、本当にとんでもないスーパー魔導律を保持しているのだ。あれは単なる幻覚ではなかった。鮮血の生暖かい臭気が漂って足元まで血飛沫が飛び散ってきた。暴徒たちはじっさいに八つ裂きにされ死んで、生き返らされていた。


 もう亡くなっているはずなのに、あの骨……七支刀として残留しているだけなのに、そのちからはマサキたちの比ではなかった。



 慌ただしい中、食堂が業務再開した。飲み物を切望する客が大勢いたためだ。

 外で処刑を眺めていた人たちも次々と耐えられなくなって、慌てて洗面所に駆け込んだり、強いアルコールを頼んでいた。


 それから町長がナツミたちのテーブルに来て、何度も礼を述べた。

 「マーくん、本当にありがとう!このテーブルはわたしのおごりだ。好きなもの頼んでくれよ」

 「外はけりがつきました?」

 「ああ……」町長はぶるっと震えた。「終わったと思う。暴徒ども、地べたに転がって胎児みたいに丸まってすすり泣いててね……大の大人のあんな姿は二度と見たくないもんだ」

 マサキはうなずいた。あたりの邪気はすべて消失していた。

 「近隣のボランティアがこれから大勢やってくる。後始末は我々に任せて、君等は帰って休んでくれ」

 「お言葉に甘えて」

 「明日から街の復興と真相究明で忙しくなるよ……あの機械の怪物は明らかに、政府が開発したものだろう?中央集権派の仕業だとしたら度を超してる」

 「ですね。これで分裂は決定的でしょう……」


 「マーくん」ナツミが言った。

 「なに?」

 「上京したヨシくんが心配なんだけど」

 「ああ!そうか……」


 「アナも行ってるんだった」テッドが言い添えた。「すぐにでも出かけて連れ戻さないと……」


 「それじゃ、あんまりくつろいではいられないな」


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