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55 シャドウレンジャー 鮫島マサキ

 

 先ほどまでの晴天の夜空が、急にたちこめた暗雲によって冥さを増してゆく。

 低くのしかかるような雲のあいだに雷光が走り、重い雷鳴が轟きはじめた。



 「は?シャドウレンジャーだあ?」

 「なにあれ……コスプレ?」

 「ふざけやがってよ~あれじゃあたいら悪者みたいじゃんか」

 対峙している魔道士女ふたりは当惑半分、嘲笑半分で言った。

 「なんでもいーや!ぶっ殺せ!」


 女ふたりは魔導律障壁を張って突進してきた。

 だがシャドウレンジャー漸炎に変身したマサキの機動力は生身の比ではない。一瞬で10メートルの間合いを詰めたマサキは向かって右の女のゴス衣装を掴んでちから一杯投げ飛ばした。

 女は長々と悲鳴の尾を引きながら旅亭の建物を超えて川まで飛んでいった。

 「テメエよくも――」もうひとりが文句を言い終わるまもなく、マサキの渾身のパンチを顔面に受けて、暴徒の群れまで30メートルあまり吹っ飛んだ。


 それが合図かのように暴徒が一斉に襲いかかってきた。


 マサキはサッと腰をかがめ、右手の掌を地面に押し当てた。

 「サイズミックパルサー!」

 マサキの掌から五本の衝撃波が発生した。扇状に高速伝播する衝撃波はレンガの地面をズバッと切り裂いて一瞬で広場の端に達した。

 100個の地雷が一斉に炸裂したようなものだった。

 衝撃波が暴徒たちを足元からすくい上げ、はじけ飛んだレンガに打ちのめされ――土くれの煙幕が収まると、広場は倒れて血を流しうめく暴徒だらけになっていた。


 「すっスゴいです!突然現れたヒーローが、ええと、暴徒をなぎ倒しました」

 ナツミたちの脇で女性リポーターが実況していた。カメラクルーが担いだカメラを回しているようだ。



 奇跡的に無傷だった10人あまりは呆然と立ち尽くしていた。その中には黒革の男もいた。

 「てってめっズルしやがって、汚えじゃねえか!」

 マサキは男に指を突きつけた。

 「貴様らに公正な戦いするつもりなんかない」

 「正義の味方ヅラしてる奴の言うことか!?」


 「戯言を」マサキは右腕をサッと振り下ろした。

 手首からまばゆく脈動する光が発生して、剣のかたちになった。「おまえたちはあまりにも不愉快な連中だから、滅殺するだけだ」


 「テメエふざけんなよ!」黒革の男は上のほうを指さした。

 「分かんねえのかよ!?もうすぐあのバケモンが暴れ出すんだよ!テメエら諸共な!エセヒーローごっこなんざ付き合ってらんねーよ!」

 マサキは首を倒して言った。

 「死にたくなければとっとと失せろよ……」

 「そうしまーす!」


 黒革の男は武器を捨てると回れ右して街道に向かって走り出した。残りの無傷な者と比較的軽傷者もびっこを引いてあとに続く。

 だがまだ終わりではなかった。


 『攻撃再開まで、あと1分』機械音声が告げた。


 マサキが振り返って二台の暴動鎮圧ロボットを見上げた。

 その黒いタマネギ頭の上に、魔道士女が立っていた。川に投げ飛ばされたほうだろう。


 「あたいはまだくたばってないよ!」

 女はタマネギの上から跳躍すると、キックの体勢でマサキに襲いかかってきた。つま先に魔導律を集中させて赤熱した光が宿っていた。

 マサキは一歩退いてキックをかわした。女が地面を爆発的にえぐりながら着地した。間髪入れず女が横っ飛びでマサキの懐に迫る。マサキは両腕をクロスさせて打撃を防いだが、女の魔導律は先ほどよりパワーアップしているようだった。どす黒い怒りが女に力を注いでいた。


 「もうなんもかんも手遅れだから!」女が魔導律の籠もったパンチを繰り出しながら叫んだ。「オマエもあたいたちもろともみんな死んじゃえばいいんだ!」

 マサキは光の剣を振るって応戦した。しかし女の魔導律は打撃と防御を兼ねていた。ふたりは重傷の暴徒たちが累々と横たわる広場の中央で攻防を繰り広げた。

 「いい加減にしろ!」

 「テメーこそもう諦めろ!」

 マサキは突然横から打撃を加えられて10メートルほど吹っ飛び、地面を転がって体勢を立て直した。

 どうやらもうひとりの魔道士女も健在だったらしい。


 ふたりの魔道士が並び、片腕をあげて掌を重ねた。

 「あたいらがシブヤの覇権握ったこのワザを食らえ!」

 重ねた掌から光線が迸り、腕ごとマサキの胴体に絡みついてがんじがらめにした。

 「くっ……!」

 蛇みたいにのたうつ光が、油圧プレス機のごとき容赦ない締め付けでマサキの身体に食い込んでくる。

 マサキはもがきながら片膝を屈した。

 「ぐおおお――ッ!」

 

 (まさかこれほど強力な魔導律保持者が野に存在していたとは……)

 誰にも従事せず自己流でこれほどの魔導律を磨くのは、滅多にできることではない……よほどの気力か、深い闇を抱えていなければ無理だ。

 後者の場合は危険だ。凶帝ホスのような独善的な魔道士になる道だからだ。

 

 『攻撃再開、30秒前』

 

 マサキは魔導律の呪縛を振りほどこうとあがいたが、びくともしなかった。

 (だめか――!)


 そのとき右手が不意になにかを掴んだ。とつぜん掌になにかが実体化したのだ。

 見下ろすと、小ぶりな剣を握っていた。

 黒いガラス製の刀身。

 七支刀だ。

 

 まだ埼玉にいた頃、鏡と一緒に冥奉神社に奉納されていたその七支刀を見たことがある。汚れも経年変化の痕もないま新しげなその姿は、神器と言われてもピンとこなかったのだが――

 それは本物だった。


 ひときわ鋭い雷鳴が空に轟き、まばゆい雷が広場を照らし出した。

 マサキを拘束していた魔導律の光が、消滅した。マサキは立ち上がり、露をはらうように七支刀をひと振りした。


 『なんだこいつの――パワー……」魔道士の端くれだけあって即座にパワー差を見極められたようだ。たじろいだ女たちは数歩退いた。


 『10秒前』


 マサキは七支刀を上段に構え叫んだ。

 「シャドウレンジャー!フォーメーションB!」


 かけ声と共に、マサキの姿がぼやけて、変わってなにか巨大なモノが地面からせり上がった。

 巨人だ。

 曲面構成のメタリックブルーの巨体が、轟音と共に立ち上がったのだ。


 「ていうか、ロボ、です……」

 実況リポーターが呆然とその姿を見上げながら、つぶやいた。



 立ち上がったロボは暴動鎮圧ロボットより頭ふたつほど巨大だった。


 『グレートシャドウクラッシュ!横一文字切り――!』


 ロボは構えた巨大七支刀を一閃して、黒いタマネギ二台を真っ二つに切り裂いた。



 暴動鎮圧ロボはゆっくりと倒れ、川面に没した。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  今回はドラマ感の強いお話でした。正の側面では鮫島ウシオさんの心は子供に受け継がれ、負の側面ではいなくなったはずのハイパワーの思い通りに暴徒たちは動いているような気がしました。
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