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52 フィールドパーティー4

   

 マサキが戦いに向かってまもなく、旅亭一階の食堂ラウンジに人が集まりはじめた。


 広場にも心配した住人が集まりだしていた。

 ナツミとヨウコはそのあいだを走り回って上流方向に退避するよう呼びかけていた。

 「しかしねえ……店をほったらかして逃げるのは」

 「迷ってると時間がなくなりますよ!あくまで一時的な措置ですから!」


 住民の多くははしぶしぶという様子で、ようやく半数が上流、ツルガシマ方面に向かいだした。だが残りはじきに好転するものとたかをくくって動こうとしない。


 雰囲気が様変わりしたのは、10分ほどしてからだった。

 街の横町、森の方向がにわかに騒然とした。怪我人が大勢雑木林を抜けて現れたのだ。

 「助けて!」怪我人たちは悲痛な叫びを上げた。「住宅街から逃げてきたんだ……道路は塞がれて、森を突っ切るしかなかった」

 避難者は次から次に現れた。住宅街の数千人が逃げてきたのだ。


 「たいへん……!」ヨウコは通りが人々で埋め尽くされてゆく様子を見て困惑した。

 「これじゃあ身動き取れなくなる……」

 重傷者の搬送が優先されていた。数人掛かりで役場と旅亭に担ぎ込まれ、すぐに満杯になってしまった。


 避難者たちが町長に訴えていた。

 「暴走族が森から追ってきてる!あいつら銃を持ってる!」

 「とにかく、歩ける人はツルガシマ方面に向かってくれ!ここで固まってちゃいけない!早く!」


 危機感を新たにした人たちが、ようやく大勢動き始めた。

 しかし、遅きに失した。


 横町で悲鳴が上がり、何人かが恐慌状態で広場に駆け込んできた。その後を追って猟銃を構えた男たちが現れ、先頭の男が宙に向けて一発放った。

 鋭い銃声に町民たちはぎょっと頭をすくめ、それから徐々に騒然としてきた。

 パニック寸前だ。

 

 「やかましい!」猟銃の男が叫んだ。「うっせえ!黙りやがれっ!すわれ!」

 町民たちは素直に従い、その場にうずくまりだした。

 

 ナツミとヨウコも旅亭の入り口近くでうずくまった。


 男の仲間がどんどん姿を現し、まもなく通りを塞いでしまった。

 多くは鋲打ちした皮の上下やデニム姿……暴走族だった。しかし中にはいっけんユニクロふうのポロシャツ姿の者も混じっていた。知っている人が見れば分かるが、囚人服だった。

 いずれも銃や鉈で武装していた。

 

 「ようし、何百人もいるな」

 猟銃の男は広場を見渡して満足げに言った。太鼓腹でひげ面、袖なしのデニムの上着にブラックのヘビメタTシャツ。猟銃の銃床をもって肩をとんとん叩いていた。 


 「てめーらヘタな真似するとぶっ殺すかんな!このピクニックの責任者は誰ですかぁ?ハイ素直に立って!」

 しばしの間があって、町長がゆっくり立ち上がった。

 「わ、わたしだ!」うわずった声で言った。

 「良い子ちゃんだ!おいこっち来いや!」

 町長は夢遊病者みたいな足取りで男のほうに向かった。

 

 「見てられない」ナツミはつぶやいた。

 「ナツミさん!?ダメですよ――!」

 ヨウコの制止を振り切ってナツミは立ち上がった。


 「おい姉ちゃん勝手に立つんじゃねえ!」

 ナツミは無視して、うずくまる人たちの間を縫って男の前まで歩いていった。

 「わたしも責任者」

 「ああそう!じゃあそいつの隣に立ってろや!」

 銃の先を町長のほうに降った。

 ナツミは町長の横に立って、その二の腕に手を触れて話しかけた。

 「しっかりしてくださいね?」

 「あ?ああ……」


 ナツミは猟銃男のほうに顔を向けて言った。

 「わたしと町長さんが人質になるから、それでいいでしょう?」

 「ダーメ!」男は舌を出して言った。

 「この前の仕返ししなきゃなあ!俺らだいぶ気持ち傷つけられたんでな!10倍返しくらいじゃ釣り合わねえや。これから楽しませてもらうかんな~」


 猟銃男はあらためて広場のうずくまる人たちを見渡した。武装した連中とは10メートルほど距離を置いていくつかの集団で固まっていた。みんな固唾を呑み成り行きを伺っていたので、静かだった。男の銅鑼声が響き渡った。

 「さーて……とりあえず10人選んで見せしめにすっかな~。おいてめえら!」手下に言った。「テキトーにチョイスして引っ立ててこいや!」

 「へ~い」

 武装した男たちがうずくまった人たちのあいだをのし歩いて髪の毛や襟首を乱暴に掴んで無理矢理立たせた。悲鳴と、泣き叫び懇願する声があちこちで上がり阿鼻叫喚図となった。

 町民のあいだで恐慌が高まると同時に暴徒たちもより一層血をたぎらせてゆく。

 

 「も――もうやめて!」ナツミが叫ぶと、猟銃男が銃床をナツミの腹に叩き込んだ。ナツミはウッと呻いて地べたにくずおれた。

 「やめらんねーよくそアマ!オレ様は今日という日をずーっと待ち望んでたのよ!こんなクソ世界に転居させられてよう!どこもかしこも田舎もんばっかでクソ面白くもねえわ!てめえらのチョー健全な生活なんざ反吐がでらぁ!ぜんぶまとめて燃やしたるかんなぁ!」

 「そっか……」

 ナツミは腹を押さえながらゆっくり上体を起こした。

 「この世界が気に入らないんだ……だったらわたしを恨めばいいよ」

 「あーん?」

 ナツミは男を見上げた。

 「わたしがポータルを開いたんだもん。だから恨みはわたしにぶつけりゃいいでしょ」

 「なんだあ?」

 猟銃男はにんまりした。「てめえ、あの巫女様かよ!こりゃおったまげだ!おい見てみろヨおまえら、このお嬢ちゃんあの巫女様かぁ?」

 「あー?チッと若すぎじゃね?……ま、たしかに似てるけどよ」


 「まあどうでもいいか!そんじゃ処刑第一号決まりな!」

 猟銃男は懐からガラケーを取り出し、ボタンを押して耳に当てた。

 しばらく発信音に耳を傾けていたが、やがてガラケーを耳から離して睨むと、折り畳んでしまった。

 「あのくそったれアメ公応答しやがらねえ。いったいどうなってんだぁ?」

 「いいじゃないすかボス、とっとと始めちゃいましょ!」

 「撮影してえとかなんとか言ってたんだよ!めんどくせえな~」

 猟銃男は長髪をボリボリ掻いて顔をしかめていたが、やがて言った。

 「よっし!かまあねえからやっちゃおっと!」

 猟銃男はナツミの服を掴んで乱暴に立たせた。

 「みんな見てろ~」


 そのとき、カン!という聞いたことのない音が響いた。

 もう一度。

 そしてバリバリと木造家屋が倒壊する轟音が響き渡った。

 

 猟銃男は音の響いてくる方角、街の下流方面を凝視していた。

 「なんだ、ありゃ……」

 ナツミもそちらに首を巡らせた。


 青紫がかった夜の空を背景にして、漆黒の球体がふたつ、浮かんでいた。それぞれ真っ赤な光をふたつずつ灯している。

 よく見ると動いていた。細長い脚が球体の底から生えているのだ。


 広場に向かって歩いてくる。


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