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49  フィールドパーティー2

  

 マサキは手持ちの手ぬぐいで口を拭って立ち上がった。

 「行かないと」

 「マーくん、気をつけてよね?」

 マサキはうなずいた。

 「母さん、ヨウコさんもここにいて。暴走族が接近したら二階に上がってろ」

 「そうも行かないでしょ。けど――」


 ラウンジの川岸に面したほうでラウンジを照らすように光が走り、モーターボートが何艘も走る音が聞こえた。

 「ゴムボート……?」マサキがいぶかしげな顔でつぶやいた。

 タタタタタッ!という乾いた打擲音が聞こえると同時にマサキが素早くテーブルを回って、ナツミとヨウコを床に押し倒した。

 「みんな伏せろ!」

 それからありとあらゆるものがバリバリ割れる音がラウンジいっぱいに満ちて、同時に悲鳴が上がって一面混沌状態となった。


 「伏せてろよ!」

 マサキはそう言って立ち上がり、おもてに向かって走った。

 川岸に面した旅館の展望テラスはテーブルも柵も銃撃で木片と化していた。マサキは根元から折れた日除けパラソルの影に身を潜めて川を見渡した。

 銃架を載せた黒い大型ボートが旋回して、再度銃撃を浴びせようとしている。


 マサキは立ち上がって魔導律を両の掌に集中した。

 「砕けろ!」

 川面にズバッと衝撃波が走り、4艘のボートに到達してそのまま真っぷたつにした。2艘が爆発炎上した。

 乗っていた連中が何十人も投げ出されたようだが、川の沖は流れが速い。誰か知らないがここには泳ぎ着かないだろう。

 炎のおかげで川面が明るくなり、マサキは桟橋に出てほかの動きを探した。

 下流の方向に目をこらすと中型の輸送船がサーチライトを幾筋も川岸方向に向けていた。曳光弾の光の筋も伸びている。


 「くそっ」

 マサキがラウンジにとって返すと、ナツミとヨウコが床に横たわった男性に手当を施していた。ヨウコは負傷者の肩の銃創に治癒魔法を施していた。

 「今度の奴らは単なる暴徒じゃない!銃で武装してる」

 「そっそれじゃみんなを避難させなくちゃ!どうすればいいの?」

 「いちおう避難マニュアルはあるはずだが……」

 「マサキくん!」ヨウコが治療しつつ言った。「ここはわたしたちがどうにかするから、レンジャーさんたちの様子を見に行って」

 「ああ、そうする……頼む、気をつけて、ツルガシマ方面の街道か森のほうに待避するようみんなに伝えてほしい」

 「うん!」

 「マーくん、気をつけて!」

 「分かってるよ!行ってきます!」



 マサキは広場に出ると魔導律で跳躍した。

 高さ10メートルに達すると前方で火災が起こっているのが見えた。そのまま屋根に着地してまた跳躍した。

 火災はニュータウン郊外の住宅地あたり……数㎞離れている。

 もう一度跳躍すると小さなプロペラ機と衝突しそうになった。

 「ドローンだと!?」

 灰色の小型機だ。

 翼に米軍のスターズ&ストライプスが描かれていた。

 「マジか!?」

 マサキはドラッグストアの平らな屋根に着地した。

 「光あれ!」

 右の拳を頭上に突き上げると、頭上にまばゆい光が灯った。

 空を飛び回っているおびただしい数のドローンが照らし出された。

 (ミサイルで街を攻撃するつもりか?)

 マサキはナイフを抜いて魔導律を切っ先に集中させ、ドローンめがけて放った。稲光に似た脈動する光が一閃してドローンを直撃した。

 ドローンはなにごとも無く飛び続けているように見え、マサキはがっかりした。

 (雷よりずっと弱い電気じゃ無理か……)

 しかしドローンはコントロールを失っていた。まっすぐ飛び続けて対岸の崖に衝突して爆発した。

 マサキは同じ要領で10機あまりのドローンを片付けた。しかしその間にニュータウンも爆撃され、建物が何棟か炎上してしまった。

 街の通りが慌ただしさを増していた。

 マサキは街の端まで急いだ。

 

 街道には土嚢と木杭でバリケイドが築かれていた。レンジャーとボランティアが街道脇の河原の土手に集結している。

 町長がマサキの姿を認めて駆け寄ってきた。汗だくだ。

 「マーくん!来てくれたか!」

 「どんな様子です?」

 「ひどいもんだよ!」前方の戦闘と背後の街の火災、どちらに目を向けようか迷っているように何度も見回した。「ありゃあ暴走族なんかじゃない!軍隊をけしかけてきたんだ!」

 誰が?と言うのはいまは意味がない。

 マサキは前方を指さした。

 「先遣隊がいま戦ってるんですね?」

 「ああ、最初は、バイク集団と遭遇したと無線で知らせてきたんだ……だが突然川から攻撃を受けて……無線が途切れちゃったんだよ」

 「分かりました。相手は民間ボランティアの手に負える相手じゃないです。ここを死守するのは諦めて、街の人に避難指示してください」

 「しかしだね――」

 「急いで!上流か森に逃げるようみんなに言ってください」

 「分かった……」町長は何度もうなずいて袖で汗を拭った。「分かった!悪いがそうするよ!マーくんはどうするんだ?」

 「奴らを阻止します」


 マサキは土手を駆け上がってバリケイドを超えた。

 駆け足で戦場に向かった。

 

 半㎞ほど行くと、バイク集団とおぼしきけたたましい爆音とクラクションが聞こえてきた。住宅地の火災が拡大している。

 先ほどサーチライトを灯していた輸送船が岸に停泊しているのが見えた。船腹のハッチが開け放たれて、迷彩柄の四輪駆動車が上陸していた。

 輸送船は一隻だけではない。沖には元海上保安庁のパトロール船と思われる、黒塗りの船もいた。

 船首機関砲が岸に向けて発砲していた。

 

 「ざけんなっ!」

 マサキはありったけの魔導律を船に向けて放った。

 輸送船の船首が跳ね上がって船体が直立した。ハッチから出ようとしていた四輪駆動車が宙を舞って地面に叩きつけられた。船二隻がそのまま横倒しになり、水面に激突して盛大な水しぶきを上げた。

 マサキは横倒しになった船体に飛び乗り、次の跳躍でパトロール船まで一気にジャンプした。

 操舵室の上に着地して、ナイフを天井に突き立てた。真下の操舵室が爆発して窓とハッチが吹き飛び、炎が噴き出した。続いて服に火のついた船員がよろめきながら現れ、そのまま川に飛び込んだ。

 マサキは横倒しになった輸送船にふたたびジャンプした。


 船体の上に立って住宅街を見渡した。

 いくつもの建物が燃えていた。土手の数百メートル奥のあたりで暴走集団が暴れ回っているようだ。それ以外にも空で動きがある。スーサイドドローンが投入されているようだ。


 (上陸した暴徒の注意はじゅうぶん引けたかな?)


 マサキは片膝をついて、次の動きを待った。


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