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41 ガーデンパーティー4

 

 「さて」

 ベータがデカい剣を地面に突き立てて胸を強調するように柄に寄りかかった。

 

 カオリがめざとく言った。

 「ちょっとあんた、その胸はなんなの!」

 「あん?」

 「本人の断りなく改変しないでいただける!?」

 「細かいことを」

 ぶつくさ言いながらもベータは胸をダウンサイジングした。

 ヨシキは密かに失望した。

 「あんたアルファなの?」

 「アルファにしてオメガ……その間もすべからくわたし」

 「なに言ってるのか分からない」

 「ところでさあ」ベータは言った。「カオリさんさ、バァルまでわざわざ挨拶だけしに行ったのかな?」

 「なに疑ってるんだか」

 「だってさ……サイファー・デス・ギャランハルトが行方不明だって話じゃない。あっちではメイヴ・ウィンスターとデスペラン・アンバーが彼……いや彼女のこと探してるんでしょ?」

 「まあたしかに、相談を受けには行ったけど……」

 ヨシキは戸惑った。

 「世界王討伐の英雄が行方不明?」

 カオリとベータが同時に頷いた。

 「疲労困憊してどこかに隠居してるだけじゃ?」

 「それなら騒がれない。いくら探してもこの世界のどこにもいないのが問題なの……バァル記憶大聖堂の司書官などが多いに心配していてね。因果の捻れの最後のピースが元に戻らないから……最悪の場合サイファーが第二の世界王やギルシスになってしまう……」

 「まああんたくらいじゃたいして役に立たんわな」

 「ありがとう」カオリは素っ気なく言った。それからあらためて言った。

 「ところで作戦会議って?」


 「ああそう本題に戻るね。グランドスラム作戦阻止および人質奪還」

 ヨシキが面食らった。

 「ちょっと待て、人質奪還てなんだ?」

「アナ・ロドリゲスがここに拘束されてるから奪還しなきゃでしょ?」

 「なんだと!?」

 「ここから50メートルくらい」ベータがプールサイド奥にそびえるプレジデンタルスイートを指さした。「あの二階、照明を落とした部屋の中だよ」

 「あそこにアナがいるって?なんで!?」

 「知らないよ。アメリカ人の下品な会話の端々をつなぎ合わせてやっと把握しただけなんだもん」

 「さっそく助けにいかなきゃ――」

 「待って、あわてんぼ。それはわたしがもう手配したから……あんたはグランドスラム作戦に集中しなよ?」

 「ああ……で、なにがわかった?」

 「まだよく分からないのよ。なんせ昔と違ってネットワークになんでも残してくれないからね……奴らは口頭と簡単な紙の文書でやりとりしてるのよ」

 「奴らって誰?」カオリが尋ねた。

 「アメリカ人。どうやらここの政府機関を乗っ取ろうとしてるようだね……」

 「なんだって!?」

 「そのために核弾頭を持ち込んで日本のお偉いさんたちを恫喝してんだよ。だけど片桐って女が駆け引きしてるんだ。それでサム・スペイドっていうアメリカ側のおじさんがじれてる」


 「核弾頭ですって!?」カオリが目を見張った。「たいへんだ……!」

 それからヨシキに顔を向けた。

 「ヨシキクン……それをあなたが阻止するって言うの?」

 「え?いや」ヨシキは困惑気味に頭を掻いた。

 「どうなんかな……もう俺なんかじゃ手に負えない事態な気がする……」

 「なに言ってんだよ!」ベータがヨシキの肩をぴしゃりとどやした。

 「この事態はあたしらがなんとかしなきゃならないんだよ!地球人とハイパワーがね!イグドラシル人たちは入植初期にはボランティアに来てくれたけど、あとはどんなゴタゴタが起こっても地球人の自助努力に任せるつもりなんだから、もう助けてくれないと思って!」

 「でも、俺が?」

 「あんたとあたしと魔女っ子おばさんでなんとかするの!」

 「マ魔女っ子おばさんて失礼ね!」カオリが言った。「――でもまあ、わたしたちでなんとかしなきゃいけない、というのは同意するわ」

 「けど俺どうすれば良い?」

 「ヨシキはパーティーに戻って。片桐って女が接触してくるはずだよ。話を聞いてもっと様子を探ってよ。わたしはアナを助けてから、もうちっと偵察する」

 「わたしもいろいろ当たってみましょう。とくに核弾頭を見つけなければ」

 ベータが尋ねた。

 「見つけたら核を無効化できる?」

 「プルトニウムを土くれに変える程度はできる。サイとメイヴさんが昔地球でやったように……ただ、わたしのレベルでは対象物を目視しないと」

 「それじゃあ在処が分かったら知らせるね」

 「だけど核兵器を持ち込むなんて、どういう連中なの?」

 「CIAじゃないかな。あたしらハイパワーにも昔からちょっかい出してた連中だよ」

 「アメリカの情報機関が?なんと思いきったことを……」

 「いろんな国で同じことして、世界じゅうをアメリカの支配下に置こうとしてるんだろうね……」


 「それを阻止しなきゃならないのか」ヨシキは溜息を漏らした。「兄貴の手を借りてもできるかどうか……」

 「態度デカい割にけっこう現実的ねえ」

 「俺は謙虚なんだ!自分の能力に幻想なんか抱いちゃいない。ガキん頃からそう叩き込まれたんだよ!」

 「じゃ、今夜はその能力とやらを180%くらい発揮して。さ、お邪魔虫が来たので解散」

 「え?」


 「ヨシキく~ん!」


 タカコの声だ。


 ヨシキはその声のほうに振り返り、最後の言葉をかけるつもりでまた顔を向き直ると、カオリとベータは姿を消していた。


 「ヨシキ~?声が聞こえたぞ~」

 「ここだよ!」

 ヨシキが物陰から進み出ると、タカコはホッとして、それから不審げな顔であたりを見回した。

 「誰と喋ってたの?」

 「あ?いやべつに、誰ってほどじゃ……」

 「そ~お?」

 「もう行っちゃったし」

 「ま、いいけど……」タカコはヨシキの腕を取った。「さ、戻ろうよ。ヨシキクンさっきおっかないガイジンに絡まれてたよね?あたしてっきりビビって帰っちゃったのかと思ったよ~」

 「ちょっとビビったけど、あそこで突然暴力振るうほどバカじゃないだろ?」

 「バカじゃないって点は疑問だわね。むしろここってバカばっかしってカンジ……ヨシキクンは別だけどさ」

 「わりと辛辣だな」

 「まあそれなりに、お歳によって、オホホホ」


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