4 再会の可能性
ショーは続いていたが、夕食の時間が終わりそうだったのでナツミはチーム・レイブンクローと一緒に旅館に帰った。メンバーの男の子と女の子ひとり、トムとマキシー、ミカエラは「アルコールパトロール」と宣言して飲み屋横町に向かってしまったが。
「やれやれ、今夜の売り上げもほとんど残らないな」テッドががぼやいた。
ラウンジはだいぶ繁盛していて、ナツミたちはひとつだけ空いていたテーブルに陣取った。ナツミはウェイトレスにミールチケットを渡した。
「夕食は魚介盛りかチキンステーキになります」
「それじゃあ魚介盛りでお願いしようかしら。お魚なんて久しぶりだから」
「ロドリゲス、おまえキャラがぶれてるぞ」
「キャラってなんだよ、あたしはあたしよ」
「話題をアカデミックに振りすぎるんだよ。もっとエンターテイメントを心がけねえと客が飽きちゃう」
「うー……そうかなあ……」
「ロドリゲスさん?」ナツミが言った。「わたしもむかし、ロドリゲスって名前のお友達がいたのよ。ジョー……たしかジョアン・ロドリゲス」
アナは笑った。
「それあたしのママの名前。まあよくある名前で……」アナは首をかしげた。「でも偶然ね。ママも日本に知り合いがいてさあ、今回の旅はそのツテを頼ってきたの」
「あらそう!」
「ええ、サメジマ・ヨシキ。知り合いっても地球にいた頃のチャットとSNSだけだけど」
テッドが首をかしげてナツミを見た。
「それって、きみとおんなじ……」
「ヨシキって……わたしの次男の名前だわ」
「――アレ?どゆこと?」アナも戸惑っていた。
「あなたジョーの娘!?何十年も前にお誕生日の挨拶した……」
「はあ」アナはぎょっとした。「えっ、それじゃあなたあのサメジマ・ナツミ!?龍の巫女さま!?」
「はあ?」テッドが目を丸くした。「龍の巫女ってまさか、あのLo-Diの?」
「あらら、ずいぶん懐かしい呼び名だこと」
「ちょっちょっタイム!そんなはずないよ、龍の巫女はここに来られないんだってママ言ってたよ?それに若すぎるよ。今ごろ100歳くらいのはずでしょ!?」
ナツミはうなずいた。
「わたしそのくらいの年齢よ。なぜだか会うひとみんな、わたしが若いって言うんだけれどねえ……」
「いや若すぎですよ、ママとチャットしてたときのあなたはもうちょっと、その……」
「だってここには鏡が無くてねえ、ちょっと実感沸かないのよ」
「あの……それってつまり、リ・インカーネイションしたってことなんですか?」
「わたしに聞かれてもねえ」
ナツミは手を振った。
「――それよりも教えて、あなたたちわたしの息子と会う約束しているの?あの子たちここに来るの!?」
「ええ、その約束です」
「そう……」
ナツミが胸に手を当て目を瞑ったので、会話が途切れた。ちょうど夕食が届いた。
しばらく食事に専念したが、不意にアナが笑った。
「そうそう思い出した。ママがあたしを紹介したら、あなた「ゲイなのに結婚したの?」って訊ねたんだってね。それでママは「ゲイでも子供産めるよ!この原始人め!」って」
「そう、怒られちゃったの。懐かしいなあ……わたしにとっては70年近く前のことなのよ」
テッドがうなずいた。
「ここに来ると何十年も前に別れた人が若くてぴんぴんしてるから、新規さんはみんな驚く。こんなことならもっと早く来れば良かったって、たいがい後悔する」
「そうねえ」
ナツミもようやく実感した。
マサキとヨシキは生きてる。別れたときからほとんど歳を取っていなくて、元気だ。
だからほかのみんなもいる……ママもパパも、妹もユリナちゃんも、タカコも。
サイも――
サイ。
会えるかもしれない……!
ナツミは涙ぐんでしまった。
「――ごめんなさい食事中に。わたし、もう誰にも会えないものと、諦めてたから……」
アナが手を伸ばしてナツミの手を叩いた。
「良かったねナツミさん。きっと龍翅族アマルディス・オーミが気を利かせてくれたんだよ。あんたは功労者だもん」
テッドが言った。
「本当にあの龍の巫女なんですか?世界じゅうにポータルを開通した?」
「なんだよ、あんた疑ってんの?」
「いやそうじゃなくて……だって凄いひとだぜ?あのエリア51の最終戦争に参加した大魔道士のひとりだぜ!?」
ナツミは手をひらひらさせた。
「わたしは魔法なんかぜんぜん使えなかったのよ。戦ったのはアナのママも所属していたチーム・アンバーと、メイヴさん、それにサイファー……」
「レジェンドネームがそろってる……!」
テッドは感激していた。
「ねえねえ、マジであの戦いの場に?本当に世界じゅうの神とルシファーが降臨したの!?」
「うん」
「すげー……」
「TT、あんたガキみたく興奮しすぎ!行儀悪いよ」
「だってさあ!あのとき起こったことはどこにも正式な記録が無いんだぜ!?核ミサイルの件も世界じゅうの銃と大砲の火薬が土くれになっちまったことも政府が隠蔽して……」途方に暮れたように頭を抱えた。「あーあ、あいつらもこっちに居りゃあこの話聞けたのに」
「なにTT、あんたたちあたしのママの話は疑ってたの?」
「いやあ……ひとりだけの証言じゃね……悪かった。アナのお母さんマジで凄かったんだ」
「そう言ったでしょ!伊達に魔法の絨毯マスターじゃないんだから!」




