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38 ガーデンパーティー2

 

 ヨシキとタカコを乗せた絨毯はホテルニュートウキョウの客船のような屋上ラウンジに向かって降下した。


 タカコはビビりつつも初めての魔法の絨毯に感激していた。

 「昔のダチがよく使ってたんだけどさあ。なんだかんだで乗せてもらう機会がなくて」

 そう言いつつヨシキの背中にぴったりしがみついている。魔法の絨毯を使う知り合いがいた、という言葉がちょっと引っかかった。

 「やだ……パーティー会場に直接降りようとしてる!?」

 「ああ、派手に参上するぞ」


 絨毯がプールサイドに着陸すると、ヨシキたちは見物人に取り囲まれていた。珍しい見世物に感心したり喜んでる人間は半々……

 噂通り、ここの人間は魔道士アンチが多いようだ。旧世界のの悪癖だった持たざる者のそねみ……他人の才能を妬んでも自分がそれを手に入れるために何もしないネットの有象無象タイプがまだ大勢いるのかもしれない。


 「タカコ~!」何人かの女性が手を振ってる。お友達か。

 ヨシキの手を取って立ち上がったタカコは、ヒールを地面に置いて履くと、そちらに掛けよって陽気に飛び跳ねながら抱き合った。


 ヨシキのまわりには冷やかすような笑みの男たちが集まった。そのひとり、ボーダーの長袖シャツと毛糸の帽子、あごひげを生やした痩せた男が、絨毯を丸めているヨシキの背中にせせら笑いながら言った。

 「魔法の絨毯でご登場ってのは初めて見たぜ」

 ヨシキは立ち上がり、平静にうなずいて言った。

 「少なくとも今日は初めて経験したことがあったわけだ」

 「それどういう意味なん?」

 「気にすんな」

 「つーかおまえさ、なにモンなん?」

 「招待客」

 「そりゃあたりめーだろバカなん?名前だよ名前!」


 「おい、待てよ」

 べつの、白いサマージャケットの男が言った。「彼、片桐センセの招待客だ。な?」

 「ああ。鮫島ヨシキだ」

 「ようこそ鮫島君、僕は樋浦セイヤだ」

 「片桐先生の関係者?」

 「あの人のご意見番というところかな……コンサルをやってる」名刺を取り出してヨシキに渡した。

 「コンサルタント業?それはすごい……具体的に、どういうことをするのだろう?」

 樋浦セイヤは周囲を抱くように両腕を広げた。

 「この街のグランドデザインに関わっててね」

 「ホントにすごいじゃないか」

 セイヤはなんでもないというように手を振った。

 「恐竜動物園は僕のアイデアなんだ」


 「なるほど」

 ヨシキはさっきから腕組みして真面目な顔で頷き続けていた。

 未知の場所に放り込まれたらまず様子見することだ。それにはまず喋らせること。

 「Tレックスは観た。しかしイグドラシル憲章に抵触していないか?」

 「いやいや!逆だよ……僕はいち早く保護を願い出たのだ……恐竜たちを放置するのは現実的じゃないよ。そう思うでしょ?通学児童が恐竜に食い殺されてからじゃ遅いんだ。いまから飼い慣らしたほうが、彼らのためにもなるからねえ」


 最初に声をかけたチンピラとそのお仲間は、いきりたってなにか絡むきっかけを待っていたのだが、ヨシキとセイヤ両方にシカトされて立ち去った。飽きっぽい連中だがまた絡んでくるのは時間の問題だろうとヨシキは思った。

 

 セイヤに案内されて、ヨシキは何人かと挨拶を交わした。みな曖昧な笑顔で素っ気ない対応だ。ヨシキはメジャーリーグ級とは見做されていないようだ……無理もないが。


 いっぽうで、樋浦セイヤもマイナーリーグらしい。

 年配の女性に紹介されると、「あ、樋浦クンもういいから」と追い払われてしまった。


 「ヨシキクン?わたし実原レイカ。ご存じかしら?」

 ヨシキはうなずいた。

 「以前……テレビでお見かけしました」

 元女優で、その後風水占いで名を成し、野党から出馬した女性だ……なぜ与党議員のパーティーにいるのか。

 「片桐さんに呼ばれたのよね?魔道士なんでしょう?」

 「はい」

 「すごいわねえ。なんでも、魔導律とかいうのを会得すればそのうち歳を取らなくなるそうじゃない」

 「まあ……そうです」

 「あら?だれか、ヨシキクンに飲み物を渡してあげて。飯島?」

 「ただいま」

 飯島と呼ばれた男はたしか元変身ヒーロー役者ではなかったか。ほかにも数人、若いタキシード姿のイケメンが実原レイカのまわりに控えていた。


 ヨシキの手にシャンパンが渡り、実原レイカは軽く乾杯した。

 「片桐さんは、あなたとお兄様がこのへんで一番の魔道士だと仰ってたわ。わたしも修行で高位精神術を体得したのだけど、あなたの分野にもたいへん興味があるの……是非お話を伺いたいから、いちどわたしのおうちにもいらしてちょうだい」

 そう言ってドレスの胸元から名刺を差し出した。漆黒に金箔押しで名前が印刷されていた。

 「ヨシキクンは若い子同士のほうが楽しいわね、またべつの時間にお目にかかりましょ」 「はい」

 ヨシキはお辞儀してその場を辞した。

 ほとんど手つかずのシャンパングラスをテーブルに置いて、会場をうろついた。 


 プールサイドでは何人か酔っ払いが水に落ちてはしゃいでいた。

 タカコがヨシキの姿を認めて、おいでおいでというように手招きしたので、そのグループに加わった。

 「彼がヨシキクンよ!」

 「魔法の絨毯の人?あたしも乗せてよ~!」

 「いいよ」

 「キミ若いねえ。カノジョいる~?」

 ヨシキはタカコをちらっと見た。タカコは人の悪い笑みで人差し指をそっと口元にそえた。ヨシキはかすかにうなずき返し、首を横に振った。

 「サイタマの人なんでしょ?あたしもっと……垢抜けない人と思ってたわ」

 「失礼だよアカリ!」

 「だってさあ……」

 「さっきいきなり鬼頭のバカに絡まれてたでしょ。あいつ乱暴だから気をつけな?」

 「鬼頭っていうのかあの……なんてったっけ?ヤンキー?」

 女性たちはアハハと笑った。

 「ヤンキーっていたね~?むかしの渋谷とか」

 「いまだっているよ。半分くらいここに」


 ヨシキは女子トークの合間にまわりを観察し続けた。

 半分くらいは政治経済関係だろう……それにやたらと「コンサル」を名乗る奴らが多かった。

 そして元芸能人が3割。テレビ放送の再開をひたすら待ちわびながら、人脈かヒモでも探してるのだろう。

 そしてヤクザ……経済人のボディガードか?会場の片隅のテーブルに寄り集まってただ酒をあおっている。

 それから白人の一団がいた。

 みな身長180センチ以上……私服だが軍用ブーツ。黒人はいない。会場には何人か、むかしの六本木か上野あたりに居てそのまま転移したような黒人もいたが、まったく接触する様子がない。

 その白人の一団にひときわ体格が大きくスキンヘッドの白人が加わり、ヨシキのほうに顔を向けた。

 ヨシキはさりげなく視線を逸らしたが、周辺視野で様子をうかがい続けた。

 

 やはり気のせいではなかった。あいかわらず、ヨシキに注目しながらなにか話し合っていた。


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