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35 逢瀬

 


 午後は無人タクシーでニューアカサカの名所を案内してもらった。

 とは言え、名所と言ってもここ一年くらいに造られたモノばかりだ。大半は屋内型の娯楽施設や、新国会図書館と言った、優先目的の箱物ばかりだ。


 「国立競技場までもう造ってるのか」

 「野球場もね……なんでも、高校野球の決勝大会をシンオオサカと奪い合ってるんだって。プロ野球だってまだ再開してないのにねえ」

 

 そもそも学校だって大幅に立て直しの途上だ。文科省は移転した2030年の感覚で小中高を再開しようとしたが、「未来人」の学習指導要領は多くの面で合理的に変化していた。そして古い連中がなぜ高校野球だけ優先しているのか理解できない。

 

 「やっぱ、生活立て直しそっちのけで税金を無駄遣いしてないか?」

 「まあだめよヨシキクン!」タカコは無人タクシーのコンソールにあごをしゃくった。「ここで批判的なこと言うのまずいから」

 「盗聴されてんの?」

 「どこにでもカメラとマイクあるからね!」

 「心配ないさ、この街の人口15万人くらいだろ?そのうちいったい何人がモニター監視を仕事にしてると思う?せいぜい多くても30人だ。24時間全員を監視するなんて1000人いないと無理だよ」

 じっさいの諜報活動はコンピューターが注意喚起ワードを抽出して警報が鳴り、それでようやく集中的な監視体制になるのだが、タカコを安心させるために適当なことを言った。


 「そういう難しい話は分かんないけど……反体制派が追放されたり行方不明になってるのは事実だから」

 「そうなのか……」

 

 新動物公園でティラノサウルスを観たときはさすがに呆れたが、匂いがすごいので早々に退散した。


 

 4時過ぎなのでヨシキはいったんホテルに戻りパーティーの準備をすると言ったが、驚いたことにタカコは部屋まで付いてきた。

 (おや、まあ……)

 ちょっと寂しがり屋な女性だとは感じていたが。


 兄やユイおばさんはヨシキがまだ童貞だと思っているが、さにあらず――


 学校でわりとモテモテながら結婚前提のお付き合いしかしないと決意している兄貴のおこぼれを、何度か頂戴していた。

 あと数年は特定の付き合いはしない、という点ではヨシキも同じだったから、ヨシキを「次点」とみなしている女性とはわりと気軽につきあった。おかげでカラダの関係を結ぶ際の面倒くささも含めてそれなりのスキルを磨けている。

    

 「俺シャワー浴びるから、冷蔵庫の中身は好きにしていいよ」

 「高いよー?」

 「支払いは俺じゃないし」

 

 シャワーを浴びていると、タカコがグラスを持ってバスルームに入ってきた。なにも着ていなかった。



 「ヨシキクンオンナ慣れしてんだね~意外だわ」

 「うちは、据え膳食わねば恥って家訓で」


  しばらくベッドでイチャイチャしながら時間を潰した。


 そのうちにタカコが「たいへん!もうこんな時間!」と叫んでベッドから飛び出し、忙しく身繕いをはじめた。

 ヨシキはテラス窓わきのテーブルで邪魔しないように座っていた。

 ドン、ドン、バタ、バタのどこかの時点でタカコの年齢をふと察して内心たじろいだが(最高記録と思われた)まえにもいちど30代の女性は経験している。思いのほか形のいいおっぱいが見えなくなって少々残念だった。


 「パーティーって、どんな連中が来るんだろ?」

 「ンー」タカコが小さな化粧鏡に向かいながら言った。「片桐センセってしょっちゅうパーティー開いて、政治家とか企業のシャチョーさんみたいな人と挨拶しまくってるからホント」

 「会場はどこ?」

 「あのホテルニュートウキョウの最上階だよ」

 「ふうん」


 その言葉だけでどんなパーティーなのか察せられる。

 ナイトプールでどんちゃん騒ぎ……

 

 両親は息子ふたりにいろいろな経験をさせようと、よく魔法の絨毯で出かけたものだ。 観光地はともかくピラミッドから南極、標高5000メートルの山まで……。

 父は政府機関のかなり重要な地位に就いていたので、パーティーも数多く出席していた。中には金持ち子息のお誕生会なんてものもあって、父は息子たちに挨拶させるため連れて行った。

 おかげでヨシキたちは早くから人脈めいたモノを築くことができて、そのうち「友達」から直接声がかかるようになった。

 同年代の集まりとなると、かなり羽目を外してる連中もみた。アメリカ映画でしか観たことないようなバカ騒ぎだ。


 父はそれを教訓と捉えて欲しいと思ったのか……いちど尋ねたことがある。


 「父ちゃんは俺たちがああならないよう願ってんの?」

 「いや」父は笑った。「おまえらがどんな道を選ぼうと勝手だ」

 「じゃあなんでこんなところに連れてきたの?」

 「どんな人間を見てもショックを受けないようにするためかな……」

 「俺たちのどっちかが半グレになっても気にしない?」

 「若いうちはいいんじゃないか?二十歳過ぎてアレだとただのバカだけど、俺だってしっかりした人生送りはじめたのは30歳くらい……ママと出遭った頃からだし」

 「俺が魔導律を磨いて自分の力を誇示するような奴になったら?」

 「もしおまえたちがそれで犯罪者や鼻持ちならない野郎になったら……」

 「ぶちのめす?」

 「ああ」父は恐ろしく真剣な顔でヨシキの目を見据えた。「母さんがな」


 それがどういう意味だったのか、ヨシキはいまただ分からずにいる。

 あのぽわっとした母親が? ぶちのめす?


 「龍の巫女」と呼ばれていたのはぼんやり覚えていたが、ヨシキが小学生になったときはそう呼ぶ人も居なくなって久しく、過去の記録からしても母が魔導律を使った形跡はない。



 ヨシキは洗面所に行くフリで鞄を掴み、洗面台でベータに話しかけた。

 「なにか分かった?」

 「うん、片桐ってオンナはホテルニュートウキョウのスイートに住んでる」

 「なるほど」

 「それにこの街には小規模のネットワークが張り巡らされてるんだけど、それがいま米軍のサーバーと繋がってる。サーバーは港の原子力潜水艦に搭載されてる。それでいまは古いNSAのファイルを共有しているの。そのファイルにはあんたたち兄弟やナツミの関係者の個人情報がすべて載ってた」

 「それで俺が招待されたのかな?」

 「関係あると思うよ。アメリカ人は『オーバーロード作戦』てのを展開してるみたいね」

 「その作戦の概要かなにか分からないか?」

 「まだ。だけど魔道士を集めて……「終焉の大天使協会」の誰かとコンタクトしようとしているらしいねえ」

 「はあ?」

 「まあもうチョイ待っててよ。それまで女の子としっぽりやってれば?」

 「うるさい」


 タカコが呼びかけてきた。

 「ヨシキくーん、用意できたー?」

 「いま行く!」



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