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34 タカコ


 

 ヨシキたちはホテルニュートウキョウの高そうなレストランに案内された。


 ランチメニューはあらかじめ設定されていたコースだった。ウェイターが紙に印刷されたコースメニューを解説して、それからドリンクの注文を承った。

 ふたりとも、というかじっさいにはタカコがワインを選んだ。


 「あんたアルコールいいの?」

 タカコに尋ねられて、ヨシキは笑った。

 「俺そんなに若く見える?」

 「まあねえ」

 「気にすんなよ。だいたいそんな「法律」ここにあった?」

 「もうそろそろ新世界だから日本の法律は通じない、なんて理屈通らなくなってるから!警察がけっこう厳しく対処してんだから」

 「警察があるんだ」

 「警察も軍隊もあるよ。昔の日本で働いてた人集めててさ。まあ……経歴詐称してるヤクザまで雇ってるんじゃないかって言われてるけどね……めっちゃ柄悪い奴いるから」

 「そりゃおっかないね」

 

 ワインが来たので乾杯した。


 「タカコさんはここに住んでるの?」

 「ウン……」タカコは頷いたが、どこかしぶしぶといった感じだ。

 「あたしね、ポータルが開いて3年後にここに移住したのよ。家族と一緒にさ……ホントはアメリカのポータル使って移住したかったんだけど、「あれ」以来渡航制限が厳しくなっちゃったから。ほら覚えてる?レディーガガとかトム・ハンクスといっしょに大勢が移住したイベント……」

 「なんとなく」

 じっさいはヨシキはその頃赤ちゃんだったので知っているはずもないが、調子を合わせた。しかしアメリカの初期の移住計画はセレブや元大統領などに先導された、という話は読んで知っていた。


 タカコはワインをおかわりした。ややアルコールピッチが速いようだ。ヨシキはペリエに変えた。


 前菜が来て、食べ始めるとタカコが言った。

 「ヨシキクン若いのに作法がしっかりしてんのねえ」

 「行儀作法は親父にみっちり仕込まれたからね。どこに行っても恥かかないようにって……」

 「日向先輩から若い子を世話しろって連絡あったときはちょっと心配だったけどさあ。馬鹿な子や元YouTuberみたいなオラついたのが来たらどうしようと思ってたけど、安心だわ」

 「無作法な奴、多いの?」

 「そりゃ金持ちのボンボンばっかりだもん!たいがいいけ好かない奴だわよ。この前なんか城壁の頂上で外を眺めながらパーティー開いて……ゲラゲラ笑いながら酷いこと言ってたわ」

 「ここの生活が嫌?」

 「う~ん」タカコは考え込んだ。「けど……外の生活は不便で危険だらけって話だからね~……」

 「そんな言われかたしてるのか……」


 主菜が来た頃にはタカコはほろ酔い加減で、だいぶおしゃべりになっていた。うまいハンバーグもエビフライもあまり手をつけていない。


 泥酔されたら困るので、食事が終わると早々に店をあとにした。



 「ヨシキクンが話上手だったからあんま呑まずに済んだよ~」

 「普段は飲まないとやってらんないくらい?」

 タカコは自嘲気味に笑った。

 「仕事なんかしてないんだけどね……出番はパーティーの数あわせくらい」

 「優雅な生活なんだ」

 「いやいやぜんぜん優雅じゃないですって!この前なんかアメリカの親善使節をお迎えするってんで、あたしら大勢呼ばれたんだけどさ、あの人たち怖かったもん。みんなのっぽの白人で、むっつりしてて、あの金髪の角刈りに蒼い眼……」

 「軍人ぽいな」

 「あーそうそう!そんな感じ。だけどあたしがまえに知ってた人たちと違って、威張りくさってんの」

 タカコは盛大に溜息をついた。

 「――両親には結婚しろって毎日せっつかれてるし。たしかにあたし、そろそろ身を固めないといけないんだけどさ……ここじゃそれしかないの。女の役目は家庭に入って子供を産むことだって、はっきりしてんのよ……まるで昭和に戻った感じ」

 「なるほど、そういう価値観に戻ってるんだ」


 「あたしの話はもういいよ!それよりヨシキクンの話聞かせて。キミ県民でしょ。なんでここに来たの?」

 「片桐先生に招待されたから」

 「あらまあ!」タカコは驚いた。「なんで……だから日向先輩からお呼びかかったのか……」

 「俺もなんで招かれたのか分からないんだけどさ、ニューアカサカを見てほしいって言ってたよ」

 「そうなんだ~、それじゃあいろいろご案内しなきゃならないわけね。やだあたしワイン飲み過ぎちゃった」

 「案内できそうか?」

 「まだおねむな程じゃないけど……あら」タカコがハンドバッグを探ってスマホを取り出した。

 「メールだ。今夜ヨシキクンをパーティーにご招待するから用意してってさ」

 「パーティー?正式なやつかな?タキシードなんかもって来てないけど」

 「カジュアルなやつだと思うよ。ジャケットがあればいいんじゃない?ホテルで貸してくれるよ。それともどこかで買う?」

 「貸してもらおう。それより、俺の格好浮いてない?」

 タカコは笑った。

 「ああ、いま流行ってるベルボトムとかのこと?あたしはあれに比べたらあんたの服装やGUの方がマシだと思うけど。そんなこと言うとお婆ちゃん扱いされちゃうのよね……いやあね流行って」

 「アレは未来人のセンスなのか」

 「あんなカッコしてんのは2030年生まれ以上でここに2040年以降に移住した若い人だよ。お願いだから真似しないでよ?」

 「まあ……わざわざおカネ払って買うことはないと思うよ」


 ヨシキは通りの往来にあごをしゃくった。

 「年配は人民服着てるよな?なんでかな」

 「あれね、身なりが良いと「外」の人たちに追い剥ぎされると思い込んでるらしいのよね。ちょっとバカっぽいと思うわ」

 ヨシキはタカコの赤い水玉模様のドレスをみた。

 「ホントは派手な格好してても大丈夫なんだな?」

 「外の人を犯罪者扱いしてるのは超お金持ちだけ。本当は真面目に働きに来てる人ばかりだと思うよ。だけどわたしが襲われたら、ヨシキクンに守ってもらおっかな!」


 タカコは勢いでヨシキの腕に抱きついてきた。

 ヨシキは苦笑しつつ言った。


 「了解だ」



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