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25 子の心なんとやら

 

 ちょうどヨシキも帰ってきたところだ。

 「遅かったなヨシキ」

 「ああ、街で野暮用で」


 ヨシキは皿に肉と野菜を盛ると、足下をちょこまか駆け回る見慣れない子供をいぶかしげに見下ろしながらナツミとアナのテーブルに来た。


 ナツミはまだヨシキとのあいだにぎくしゃくしたものを抱いていたのでやや緊張した。


 「バーベキュー、口に合うかな?」ヨシキがアナに尋ねた。

 「うん、美味しいよ」アナは言って、笑った。「だいたい冒険者らしい生活だから食べ物はなんだって食べられればありがたいんだけどね」

 「だよな……この世界じゃ長旅でどこかのコンビニかマックに寄るって訳にはいかないもんな」

 「でもなかなかスリルあるよ。あした食事にありつけるかなーって考えながら旅するのって」


 ナツミはヨシキにどう話しかけようか迷っていたが、アナと息子の距離感がどうにも気になりだしていた。

 間の悪いことに、突然お母さんアンテナがビビッときてナツミは考える間もなく口を開いてしまった。

 「ヨシ君香水の匂いがする」

 言った瞬間、余計なひと言だと悟ってナツミは舌打ちした。

 「ウエッ!?」ヨシキは牛串を噴き出しかけた。

 「あ、ホントだ……」アナがつぶやいた。

 「こっこれは!」ヨシキは口を拭って言った。「や役場の女の人がその、香水がきつくて」

 「あ、そうなんだ、ごめん変なこと言って……」

 

 (親子の会話、最悪のスタート……!)

 

 「そっそういえばアナさん彼氏いないんだってよ」

 (またまたなに言ってるのよわたし!)ナツミは額に汗が噴き出すのを感じた。


 「エー……そうなんだ」ヨシキは神妙な顔でアナを見た。アナが苦笑気味で片手をあげつつこくんと頷いた。

 「なっなんだかお母さん変なこと言ってるわね!」

 「ちょっとテンパってるかもな。まだこっちに来たばかりなんだからさ……楽に構えろよ」

 「そ、そうね、ありがとう」


 ヨシキはやれやれというように首を振ると、おかわりをもらいに立ち上がって行ってしまった。


 ナツミはガクッと首を落とした。

 (男心ってわかんない……)


 アナがその肩を叩いた。

 「どんまい」

 「なんか変に緊張しちゃって……ごめんね」

 「ナツミさんはもうちょっと順応に時間かかるかな。ユリナはあっという間に子供に戻ったけど」

 ナツミは憂いをふくんだ顔で微笑んだ。

 「自分がなんなのか、いまいちよく分からなくて……これからどう振る舞えばいいのかも見えてこないし……」

 「そうだよねえ~、これからずっとここで過ごすってのも……」アナは肩をすくめた。

 「養護施設でシャムリスのニケに尋ね人してたじゃない?あれ追求するのってどう?」

 「あー……」ナツミはまたしょげて頭を掻いた。

 「わたしなんであんなこと聞いちゃったのかな……もちろんサイにはもう一度会いたいけれど」

 「なんであれ自分の願望に素直に従ったほうが良いんじゃない?」

 「そう言ってもマー君やヨシ君がどう思うか……」

 「ママはふしだらな女だって?そんなの気にしないでよ!あの子たちだってもう大人だもん。お母さんという立場にこだわる必要ないって!」

 さすが女性の自立についてあれこれ議論の賑やかなアメリカ人らしい、はっきりした考えだ。

 とは言え……難しい。



 食事が終わって、みんなは広い庭でおしゃべりを続けた。


 新しい家は岸壁に面していて、夜景がすばらしかった。見下ろすと階段の先に船着き場まであって、ボートが何艘かつながれていた。


 ユリナは家政婦さんの子供たちと遊んでいたが、9時になると子供たちは家に帰ってしまった。それで、ユリナはナツミに頼んで子供服をタンスから引っ張り出した。


 「オー」

 ユリナは子供服を試しては鏡の前で眺めていた。いまは縞々の赤ちゃんレギンスとひらひらのワンピース姿で楽しそうにポーズをとっていた。

 ナツミはプリキュアのちびTを見つけた。

 「あーこれすごい昔にわたしが買ってあげた服だわ」

 「さしゅがにソレはハズカシーナ」

 「昔は平気で着てたじゃない」

 「アノトキはママがカッテニえらんでたんダヨ」

 「まあそうよね……」

 「ユリナ~!」ママが言った。「散らかさないでよ!誰がそれ片付けるの」

 「アトデちゃんとかたじゅけるモン!」

 「それよりお風呂入って!」

 「ハーイ」

 「ひとりで入れる?」

 「入れるモン!」


 ユリナがお風呂場に行ってしまうと、ユイはハ~と溜息を漏らした。

 「……なんだかもうひとり赤ちゃん欲しくなっちゃった」

 「そうねえ」ナツミは笑った。「ちっちゃな子って可愛いよね」

 「死ぬほど大変だった思い出しかないのにねえ」

 ユイは立ち上がった。

 「ホントにひとりで湯船に入れるのか見てこなきゃ」

 そのとき廊下の奥から声が聞こえた。

 「ママ~!」

 「えっどうしたの!?」

 「お湯につかったら元に戻った~」

 たしかに声が大人に戻っていた。

 「なんだ……」ユイはややがっかりして言った。「もうお仕舞いか」

 「ママ~!下着とパジャマ用意して~!」

 「ハーイ!」

 

 ナツミは散らばった子供服を畳み始めた。


 ちびTを眺めながら、ナツミは先ほどの妹の言葉を反芻していた。


 (もうひとり赤ちゃんかぁ……)


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