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24 パーティー


 ツルガシマひかり園での騒ぎがなかなか収まらず、ナツミたちは買い物もそこそこで家に帰ることとなった。

 ひとりは直接見ていたにもかかわらず、園の職員さんたちを納得させるのは至難の業だった。

 ナツミたちだって事情は断片的にしか知らなかったのだがいろいろ解釈を試みて、正式に「入居者失踪」扱いとなり、ようやくお役御免となった。

 まあ間違ってはいない。

 異世界なのでなにが起こっても不思議はない、というぼんやりした認識は誰もが抱いていたからギリギリ納得してもらえた、という程度だが。


 とは言え、家に帰っても事態はまだ収まっていなかった。



 「あんた、どうしたのそれ……」


 呆然と娘を見下ろしてユイが言った。


 「のろいにカカッテちーさくナッタダケだヨ」

 強気でママをにらみ返すユリナ。

 「もう!なにそれ呪いって!だからママ危ないことしないでってあれほど……!」

 「ゴメンナサイ」ぶすっと言った。

 「ゴメンナサイじゃないよまったくもう!」ユイはしゃがみ込んでユリナの頭を撫でた。「お転婆なおバカさん、こんなにちっちゃくなっちゃって……いくちゅくらいかな~?三歳かな」

 「チョっとママ……」ユリナは後じさった。

 「とりあえず抱っこさせて?ね?」

 「ママ!」

 「はいママでちゅよ~」

 ユイは逃げ出しかけた娘をサッと抱え上げると、ぎゅっと抱きしめた。

 「ヤメテヨ~!」

 「あーこんな時もあったわ~。プリプリプリティチビしゅけちゃん!」

 「モー!」


 ママに抱っこされて憤慨するユリナを見てナツミたちは苦笑した。帰るまでアナとナツミにかわりばんこで抱っこされつづけウンザリしてたのだが……。


 人によっては動転するところだが、予期した恐慌状態も訪れなかったのでアナは溜息のような笑いを漏らした。

 「ま、けっちょけちょに叱られなくて良かった。あたしのママだったら八つ裂きにされてた」

 「猫人間に遭遇して呪いにかけられて転生に立ち会ったって?」テッドがしきりに感心していた。「すげえな!」

 「まったく……とても勉強になったよ」

 「ユリナちゃんの失った体の100ポンドくらいはどこに消えたのかな。質量保存はどうなってる?」

 「さあねえ……一晩経ったら元に戻るらしいけど……生理的な影響はあるみたいだよ。若返った脳に引きずられて幼児退行しかけてるみたい。帰りながら突然歌い出したりあらぬ方向にかけっこはじめたり……」

 「ママも引きずられてるけどな」


 「あ、そうだお夕食用意してたんだった!ユリナはおかゆ作らないとかね?」

 「ゆいなもばーべきゅー食べるモン!」

 

 とりあえずユリナは許されたようだ。


 ナツミもほんわかした気分で溜息をついた。息子たちがいまのユリナと同じちびっ子だったときの感触が鮮明に蘇っていた。


 (おちょぼ口にちんまりした鼻、瞳に星をキラキラさせて……丸っこい掌で指をギューッと握ってくる頼もしい感触、腕と同じ長さのあんよにお豆のような足の指。

 レッサーパンダとペンギンのあいのこ,といった佇まいで、明らかに人間とは別種の愛嬌の塊のような生き物だったころ……)


 レイブンクローの面々といっしょに笑ってるマサキを見た。あんなにでっかくなって一日分の無精ひげも浮いてて……

 (なにかなあ……この切なさは)


 アナがナツミに言った。

 「とにかく、今日はイグドラシルの命のサイクルを直接この目で見たんだよ。そうでしょ?」

 「さあ……みんながみんな、猫の天国に連れてってもらえるのかしら」

 「要は死んでお仕舞いじゃないかもって実感できたことよ!それって素晴らしいことだと思わない?」

 「それはそうね」

 


 夜になって、アメリカの友人歓迎パーティーが始まった。


 「友人といっても、パソコンやスマホで何度か話したことがあるってだけなんだけど」

 アナが言った。

 「いいじゃないか」マサキが火加減を見ながら答えた。「魔法のおかげで外国人どうし自由に会話が通じるようになったんだから、活用しなきゃ」

 「だなあ」テッドが賛同して瓶ビールをラッパ飲みした。口を拭って続けた。

 「言葉が通じるってのがホント謎なんだよ……それも学者さんたちはまだ解明できてない。ただ脳の活動が前より活発になってることだけは分かってる……会話を録音してみると俺たちは英語、日本人は日本語を喋ってるんだが」

 「どこで翻訳されてんだ?って話よね」


 バーベキューピットの鉄板の上では早くも肉がジュウジュウ脂をしたたらせ始めていた。

 「アナたちはどうしてパーティー組むことになったんだ?」

 「ああ、何人かは収容所で出遭っただけ」

 「収容所!?」

 「あたしらがケープケネデイポータルをくぐったら,転移先でリストを持った警官が待ち構えてたんだ。それで米軍魔導大隊の関係者は家族まで隔離されちゃって……」

 テッドが肩をすくめた。

 「それで俺たち収容所で何ヶ月か過ごして……アナのママがけっこう凄い人だったから自然に集まった。そんだけ」

 「エー?彼氏彼女関係じゃないの?」

 「特にねえな~。俺アナより10歳年上だし」

 チームレイブンクローのメンバーはみんな歳がバラバラだった。男性陣はテッドがいちばん年上で、マキシーがいちばん年下の19歳。

 

 「お肉焼けた~」ユリナのママが宣言して、各自の皿にステーキとソーセージ、トウモロコシを盛った。

 夕食はみんなで、というのが慣例のようで、家政婦さんと家族も参加している。食料の長期保存が難しいので、なるべく残り物を出さないためだという。



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