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21 終の棲家で



 「エー!?」ユリナは両手で頭を抱えて叫んだ。「ナニ……チョットナンでみんな巨大化シテるのヨォ!?」


 「あんたがちっちゃくなったんだぞ」

 

 そう。

 ユリナは子供になっていた……2~3歳のちっちゃい子供に。


 「ウソ……ふにゅっ!」

 ユリナはもつれた衣服とスニーカーに躓いて倒れてしまった。


 「ちょっと危ない!」

 ナツミはあわてて姪に駆け寄った。

 だぶだふになったTシャツごとユリナを抱え上げた。

 「ユリナちゃん……!こんなちっちゃくなっちゃって……」

 「チッチャクッテどういうコトナノヨー!?」

 アナが言った。

 「だから、あんた三歳くらいのがきんちょに逆戻りしちゃったんだってば」

 「ウッソ~!」

 「ど、どうしよう?」ナツミがアナに尋ねた。

 「呪い解いてもらわなきゃ!」

 「でもでも、あの猫のヒト行っちゃったし」

 「追いかけるよ」ベータが言った。

 「どうやって!?」

 「わたしのお仲間が追尾してる。さっ行くよ!」


 そう宣言すると同時に彼女の背中からバサッとコウモリの羽が生えた。


 「ユリナをしっかり抱っこしなよ!」

 ナツミはあわててユリナの衣服を拾い上げて籠に押し込め、小さな姪っ子の体を抱いた。


 ベータがひらりと舞い上がり、次いでナツミとアナの襟を掴んで軽々と持ち上げた。

 そして空に舞い上がった。


 「きゃぁああああああああ――ッ!」

 ナツミとアナとユリナがそれぞれ叫んだ。

 「うるさい!」

 そんなこと言われても恐怖は収まらない。

 しかしナツミたちは単に襟を掴まれていただけではなかった。腰にストラップみたいなものが回り込んで体重を支えているようだ。落下の心配はなさそうだ。

 「だーいじょうぶだから、ユリナだけしっかり抱えてな!」

 「シャムリスのニケはどこに向かってるの!?」

 「すぐ近くだよ」



 ナツミたちは川を越え、公園道路沿いに広がる対岸の住宅地上空を飛んだ。

 数㎞進むと学校らしき建物とグラウンド、ほかにもやや大きめの建物がや倉庫が建ち並ぶ地域に変化した。

 その奥、小さな丘陵地帯に、カントリークラブふうの平たい建物が建っていた。

 どうやらそこが目標のようだ。

 「あの建物って?」

 「ヨーゴしせつダヨー」ユリナが言った。

 「養護施設って……」

 「ミヨリがなくてカラダのフジユーなお年寄りノタメのシセチュよ」

 「ああ……つまり、老人ホームね……」アナが言った。「魔法でもどうにもならない寝たきりのお年寄りのための施設。アメリカにもある」


 養護施設の手前、坂道から駐車スペースに向かうあたりでベータは大きく羽ばたき、ナツミとアナを下ろした。そしてコウモリの羽をしまい込みながら着地した。

 建物の玄関に木製の看板が掲げられていた。「ツルガシマひかり園」。


 「おろしテヨ~!」ユリナがナツミの懐でジタバタした。

 「下ろしてっても……あんたスッポンポンだし裸足だよ」

 「いいモン!」

 仕方なく地面に下ろすと、ユリナはぷりぷり怒りながらTシャツのあちこちを縛ってなんとか体裁を整えた……整えられたかどうか怪しいが。


 アナがなだめ口調で言った。

 「ねえ、やっぱり抱っこしてあげるから、ね?」

 「コドモあちゅかいシナイで!」

 「赤ちゃん言葉でいわれてもねえ……一回抱っこさせてよ~」

 「やー!」

 「ねーねー、どうでもいいからもう建物に行こうよ」

 ナツミたちはベータの意見に従った。ナツミはユリナと手をつないで、養護施設の玄関をくぐった。


 「ごめんくださ~い」

 玄関ロビーの奥の廊下から職員の人が駆け寄ってきた。

 「ああ!あなたがたご面会……」女性は一行の出で立ちをしげしげと見た。「――じゃなくてレンジャーさん!?」

 「ああ……その。さっきここに身長2メートルくらいの猫が来ませんでした……?」

 職員さんは激しく頷いた。

 「ええ、ええ!」

 「その人どちらに?」

 「あ、あっちへ……」

 職員さんが震える指先で右の廊下を指した。

 

 ナツミたちは廊下沿いの個室を確認しながら進んだ。個室にドアはなく、ベッドが置かれた室内は柔らかい間接照明だった。


 (ホスピスだ)ナツミは思った。(終の棲家だわね……)


 寝たきりのお年寄りをひとりだけ見かけたが、ニケの姿はなかった。

 廊下の突き当たりの部屋でようやく見つけた。


 ニケはベッドの傍らに立っていた。

 ベッドには、おばあさんが横たわっていた。マンチカンが枕元でそのおばあさんの頬を舐めていた。


 「このものがおまえの大事な人間かい?」

 「ニャア」

 

 ナツミたちの背後に職員さんが追いついた。

 「あ、あの――ひと、何をしているの?」


 「シー」アナが人差し指を口に当てて言った。



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