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11 あらためて、再会


 翌朝。


 ナツミは寝心地のよいベッドで目覚めた。

 ややホッとした。(わたしまだイグドラシルにいる!)


 部屋に時計がないので洋服に着替えて階下に降りた。

 まだ六時半……ちょっと早起きしすぎたようだ。ラウンジはしんとしていた。 


 「おはようございまーす」昨日とは別のウェイトレスが挨拶してきた。ナツミのテーブルを拭いてお茶を置いた。

 「どうもありがとう」

 「ご家族と連絡取れまして?」

 「ああ、おかげさまで、息子と会えたんですよ」

 「息子さん?」きょとんとしていた。

 「えーとまあ……あまりお気になさらず」

 

 朝早いが表は人が行き交っていた。フロアの反対側の川岸も賑やかだった。ボートが何艘も出発していた。どうやら通勤風景のようだ。


 「お客さん?もうすぐ朝食タイムですけれど、ご用意しますか?」

 「はい、もう少し待つことにします。すいませんねえ」

 「承知しました。朝食はバターロールとハムエッグです」

 「昨日のお夕飯もおいしかったわねえ」

 「恐れ入ります」

 脂ののったサンマ(らしき魚)とエビフライ。ご飯はサフランライスのような黄色い雑穀だったが、すごく美味だった。

 

 テレビは点いていない。

 旅館のラウンジらしく新聞が置かれていたので読んだ。サイタマ日報(隔日)。たった6ページ。ニュース欄は3ページ足らずであとは求人広告と個人欄。


 地球産のお米と麦の大規模収穫は来年開けの予定。

 麦はもともとあまり日本では栽培されていなかったから、イグドラシル原産の代替穀物で事足りるのではないか?という意見もあって、どちらに重点を置くべきか思案中なのだそうな。

 農協は認めたがらないが、市民の間では野菜も穀物もイグドラシル産のほうが栄養価が高く美味しいとの声が……。


 ナツミが飲んでいる「お茶」も現地の茶葉に似た植物を乾燥させたもので、新たにカワゴエ名物として売り出してるらしい……テーブルの真ん中に置かれてる三角形の広告ペーパーにそう書かれていた。

 (たしかにすっきり美味しいわ)

  

 

 四コマ漫画の内容を吟味しているとフロント近くでこちらをじっと見ている若い男性に気づいて、ナツミは戸惑った。

 (わたしを見てる……のかね)

 視線を捉えて問いかけるように頭を傾けると、サッと顔を逸らした。その何気ない仕草が記憶の片隅をつついた。

 ナツミは立ち上がって言った。


 「ヨシ君なの?」


 彼は気まずげに視線を戻して、こくりと頷いた。

ナツミがおいでおいでと手招きすると、しぶしぶ歩み寄ってきた。

 「ヨシ君だわ!」

 「かーちゃんか?」

 「そうだよ!」

 「えーと……」ヨシキはやや長めに伸ばした髪をポリポリした。「よく来たな、かーちゃん」

 ナツミは笑った。「ヨシ君、座って座って」

 「あー、にーちゃんが役場に行ってるんだ、それで待ってんだけど……」

 「ここで大丈夫でしょ?」

 「まあ」

 ヨシキは向かいの席に腰を下ろした。

 Vネックの長袖のシャツとポケットだらけのカーキのズボン姿。日本にいた頃買った服で、かすかに見覚えがあった。洒落たペンダントを下げているところは初めて見た。

母と子は見つめあった。

 「……なに言ったら良いのか思いつかない」

 「だわねえ……」哀しげな笑みだ。「……元気してたかい?前より逞しくなったかしらね」

 「さあ……」


 素っ気ない口調だがヨシキは内心まごついていた。

 なによりも母親が記憶よりずっと小柄だったことがショックで、いろいろ訊ねるつもりだったのにすべて頭から吹っ飛んでいた。


 「あっ、そうだ!」ヨシキは袈裟がけにした鞄から黒い石版を取りだした。はがきサイズの、平たい黒曜石の板だった。

 「これ……前に新規転移者の人が日本から運んできてくれたんだけど、覚えある?」

 「あら、それはパソコン」

 「え?これが?」

 ナツミはそれを手に取った。

 「思い出した。パパが亡くなる前にね、形見になりそうな物をいろいろ詰めて移住者さんに託したの……あなたたちに届けてくれるようにね」

 「そうか……」

 ナツミはうなずいた。

 「これはねえ、アルファがプレゼントしてくれたコンピューターなのよ。アルファ、覚えてるよね?」

 「よく遊びに来てた綺麗な巫女さん?ああ」

 「最後のスマホが壊れちゃったから代わりにってね。それで溜め込んでいた動画や写真をみんなこの中に移したの……よかった、無事届いてたんだ」


 「動画」 ヨシキは胸騒ぎを覚えた。


 そのときマサキが現れ「もう会ったのか」と言ってヨシキの隣に座った。

 「母さん」

 「マー君、おはよう」

 「かーちゃんもうその呼び方、やめてくんないか?ガキじゃねえんだから」

 「エー?ダメ……?」

 「だめ」

 「それじゃあ……マサキさんとヨシキ君?」

 「なんで俺だけ「君」付け!?」

 「そうね、ごめん」

 マサキがナツミの掌の石版を指さした。

 「それ、なにか分かった?」

 「パソコンだってよ」

 「へー!どうやって使うのか見当もつかなかったけど」

 ナツミは恥ずかしそうに苦笑して頭をコツンと叩いた。

 「母さんうっかりしてた!認証が必要なんだったわ。やあねぼけっとしてて……」

 ナツミが石版の表面に指先を這わせると、ポロンと柔らかい音色と共に、宙に画面が浮かび上がった。

 「おわ、ホログラム!?」

 「アルファが千年保つって言ってたけれど、さすが使えるわねえ」


 画面が明るさを増して、楕円形の立体ホログラムになった。


 画面の片隅にアニメチックなマスコットキャラが現れた。


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