糖酒
リラは遅刻せずきちんと来た。
疲れが出て遅刻するかもしれないとユリは考えていたのだ。
今日のランチメニューを書いたものを貼ったボードを、外のイーゼルに乗せてきてもらおうとリラに頼んだら、板を持ったままリラが慌てて戻ってきた。
「ユリ様!大変です!行列してます!」
「え?」
二人で、なぜ並んでいるのかを聞いて回ると、ラムレーズンの当日売りが目当ての客ばかりだった。現時点で既に現定数(19)を越えている。
慌ててユメを起こしに行き、朝からラムレーズンを仕込むことになった。
「本当に並んでるにゃ・・・」
ユメは外を見に行って帰ってきた。
とりあえず朝ごはんは要らないと言うので、パウンドケーキを渡した。
まだ開店には1時間くらい有るのに30人以上並んでいるのである。
リラには既に並んでいる人に今有るものを売ってもらい、3回分仕込むことにした。
予約券を持っている人もいて、買い足す予定だったらしい。
3回分仕込んでも現状の回復にしかならず、予備はない。
そもそも持ち帰り用は50しか作っていないのだから、2つは買うであろう今並んでいる人数分も既に足りていない。
「50個売っちゃったらあとは並ばせておいて良いわ!」
「はい」
「良いのにゃ?」
「出来立てを少し凍らせないと持ち帰れないからね」
「にゃるほどにゃ」
今まではランチタイムに引き換えに来た人はいなかった。この分だと、おやつタイムも事前に並ばれるのだろうか?
それとも、おやつタイムまで並んでいるつもりだったのだろうか?
仕入れを持ってきたマーレイが、列を見てギョっとしていた。
「ユリ・ハナノ様、今から手伝いましょうか?」
「本当!助かるわ!ダメな時間は抜けて良いからね」
「今日は、この後ホシミ様の配達のお手伝いがありましたが、ユリ・ハナノ様が大変そうなときは優先するようにと言い付かっております」
「そうなの? 助かるわ!お願いしますね」
ユリは、アングレーズソースを作りながら安堵していた。
ハンドルを回す人が居るのと居ないのとでは、出来上がる時間が大きく変わる。
リラとユメでは、仕上げまで回せないのだ。
外の販売が一区切りついたリラは、マーレイと持ち帰り用ココットを用意してくれていた。
ユメはスプーンやデッシャーを用意し、準備万端だ。
「アングレーズソース冷えたわ!1回目作ります!」
まずはユメがハンドルを回す。
ユリは、ラムレーズンを用意し、再びアングレーズソースを作りにいった。
ユメが疲れたらリラに交代する。
5分ほどでマーレイに交代し、状態を見てユリがラムレーズンを加える。
ボールにあけ、3人でカップに詰める。
ユリが次の分を作り出す。
そうして朝から3回分のラムレーズンアイスクリームを作った。
開店時間ギリギリだった。
「アイスクリーム、1個入り600☆、2個入り1100☆、3個入り1600☆、4個入り2100☆ これ以上は受け取らないでね。ただ、一度断っても渡してくる場合はそのまま受け取って良いわ。揉めると面倒だからね」
「はい」
1順目のランチを出すと少し落ち着いた。
当然のごとく、全員がラムレーズンのアイスクリームがついたセットを注文だった。
メニューにはカボチャアイスクリームも書き添えたが、注文はない。
「ユリ、大丈夫か?」
「え?ソウ?」
マーレイが待ち合わせに来なかったので、ユリが大変なのだろうと様子見に戻ってきたようだ。
「朝から行列してたの。マーレイさんが手伝ってくれてすごく助かったわ!」
「そうか。今日はラムレーズンだからいつもとは違うんだろうな」
「そうなの?」
「ここで食べる以外の持ち帰りは妻子への土産だけど、ことラムレーズンに関しては、自分用らしいぞ?」
「成る程・・・。じゃあ、おやつタイムも大変かしら?」
「そうかもな」
お土産だけを買いに来た人は、座らず入り口に立ったままで居るので分かりやすい。
リラが対応してくれて本当に助かった。
これが1人だったと考えると、想像だけでパニックになりそうだ。
「もう少し仕込んでおいた方が良いかしら?」
「なんとも言えないけど、余ったら食べるから、ははは」
確かに。余っても試食要員は沢山居るのだから、足りないよりは余らせる勢いで作った方が皆気持ち良くいられるかしらね。
「もう4回仕込みます!」
「はい!」
「作るにゃ!」
「かしこまりました」
「俺も手伝うよ」
「ソウもマーレイさんも無理しないでね。でも助かります。どうもありがとう!」
ユリは、ランチを作りながらアングレーズソースを仕込み、アイスクリームは完全に任せた。
いつもならランチタイムのおやつ持ち帰りは対応していないけど、リラが居るので客の方も言い出しやすかったらしく、ランチでのお持ち帰りおやつが結構売れた。
怒濤のランチタイムを終了し、みんなに食べたいものを聞くと、ユメが葛切りで、リラがカレーライスで、ソウとマーレイはみんなにあわせるということだった。
なので、カレーライスを提供した。
食後に葛切りを作ろう。
「溶けるチーズトッピングする?」
「とっぴんぐってなんですか?」
「あー、のせる?」
「美味しいにゃ?」
「辛いのが少しマイルドになるかな」
「のせます!お願いします!」
「のせるにゃ!」
「ソウとマーレイさんは?」
「俺は辛い方が良いから要らないかな」
「あ、では、少しだけお願いします」
ユリは量を調節しやすいように、大きなココットにトングを添えて細切りのとろけるチーズを持ってきた。
ユリに習ってユメとリラもチーズをかけたしていた。
チーズのかかっていないところと、かけたところを食べ比べて、リラはチーズを足していた。
ユメは大分熱いものも食べられるようになったらしく、少しだけふーふーしてから食べていた。
「ユリ様、葛切り作りたいです!」
ユリが葛切りを作るために席をたつと、リラが一緒に来て葛切りを作りたいと言った。
「みんなの分、作る?」
「はい!」
「じゃあ、お願いするわね」
ユリはお湯を沸かし、リラは葛切りの用意を始めた。




