分包
馬車を降りると、いつものメイドさん達による揃った挨拶だ。
「ようこそいらっしゃいませ、ユリ様!」
次にアルストロメリア会のメンバーの挨拶がある。
「お待ちしておりました。ユリ先生!」
「おー。これがうわさの」
ソウが感想を言いながら馬車から降りてきた。
「ソウ・ホシミ様!」
「オブザーバーだから構わなくて良いよ」
ソウは慌てたローズマリーを制止し、メイドたちと移動して行った。
「ローズマリーさん、ちょっとご相談があるのですが」
「ユリ様、どのようなことでしょう?」
「ローズマリーさんは、会をしきったり、運営したりで大変だと思うので、誰か私の助手をしてくれる人はいないでしょうか?」
「補助でしたら、サリーでも料理長でもお好きに使ってくださって構いませんが、アルストロメリア会のメンバーの前に立つのでしたら娘はいかがでしょう?」
「良いですか?ラベンダーさんにお願いできればと思ってました」
「サリー、ラベンダーは居るかしら?」
「本日はお部屋にお一人でいらっしゃる予定です」
「ユリ先生の助手として呼んできてちょうだい」
「かしこまりました」
「本人の意思は確認しなくて大丈夫なんですか?」
「参加したいと我が儘を言っていたくらいですので、むしろ飛んでくると思います」
「それならよかったです」
「ユリ先生、紹介させてください」
「はい」
「こちら、ネイビー侯爵夫人、コスモス様、
こちら、ピンク侯爵令嬢、サフラン様、
こちら、クリムゾン侯爵令嬢、コルチカム様、
こちら、マリンブルー伯爵令嬢、ストック様、
こちら、チャコールグレー子爵夫人、バイオレット様です」
各人から挨拶があった。が、既に覚えきれない。
チャコールグレーって、どんな色?
(スーツに使うような濃いグレーである)
「2回目以降のメンバーは、サンフラワー様、カメリア様、カーネーション様、私と、マーガレットです」
「はい、皆さんよろしくお願いします」
専用厨房に移動すると、既にラベンダーがサリーと一緒に待っていた。
「ラベンダーさん、無理言ってごめんなさいね」
「え!とんでもございません。お願いしたいくらいでした!」
「私、先週聞こうと思っていたら話を中断してしまいましたので」
「そうでしたね」
「今日はヨーグルトゼリーです。二人組で作業をしてください」
コスモス&ローズマリー
サフラン&マーガレット
コルチカム&サンフラワー
ストック&カメリア
バイオレット&カーネーション
で、組むらしい。
新人さん同士の組がなくてありがたい。ローズマリーが気を使ってくれたのだろう。
「ではまず、容器を確保してください。1人4つ必要です。洗ってはありますが、軽く洗ってください」
「ユリ先生、8こ用意すれば良いでしょうか?」
ラベンダーがたずねてきたので任せてみた。
「はい、お願いします」
「お嬢様、洗うのはお任せください」
サリーが、洗うらしい。
王宮からもココットは返却されたらしく、割りと数が戻ってきていた。
手が空いたらしいラベンダーが、次の仕事を聞いてきたので、助手らしい仕事を頼む。
「今日は個包装のゼラチンではないので、5gずつを6つ量っておいてください」
「かしこまりました!」
上皿天秤で、分銅を使って量ってくれた。
学生時代に理科室でしか見かけたことの無い『はかり』だ!
ユリはクッキングスケールと呼ばれる、500gまで量れるはかりを持参していた。
持ち込み規制でデジタルはかりが使えないと思って持ってきたが、ソウがあっさりデジタルはかりを持ち込んだため、お店で余っていたのである。
「ユリ先生、これはなんですか?もしかしてはかりですか?」
「料理用のはかりです。天秤ほどは正確ではありませんが、薬を調合するわけではないので、10gを越えるようなものを量るには充分なのです」
「使ってみても良いですか?」
「はいどうぞ」
ラベンダーだけでなく、サリーも興味深そうに手伝っていた。
洗い物が終わり、全員にメイドの補助が付き、計量を始めた。
「ゼラチンを配ってください」
「かしこまりました」
サリーが計量をしている間、ラベンダーが量ったゼラチンを配りに行った。
ユリは皆の方を見て声をかける。
「先に、ゼラチンの5倍の冷たい水に、ゼラチンを入れておいてください」
「はい」
次に鍋を火にかけるのだが、火を見る人が見当たらない。
「サリーさん、今日は料理人の方は来ないのですか?」
「この後も教えていただくので、火の番はメイドに交代するそうです」
「あ、成る程。そういうことなのですね」
料理長や副料理長が居ないのは取り決めがあったらしい。
メイドが見るなら問題はないとユリは先に進めた。
「鍋に水と砂糖を入れ温めてください」
計量を手伝っていたメイドが、火かげんも見てくれるらしい。
「砂糖が溶けたら熱源から遠ざけ、熱いうちにレモン果汁を加えます」
鍋にレモン果汁を入れて見せる。
基本的に、いつものメンバーが鍋をおさえ、新しいメンバーがなるべく作業できるようにしてくれているようだった。
「水でふやかしたゼラチンを加えよく混ぜてから、裏ごし網を通し、あら熱を取ります」
ユリは指示をするだけにして、サリーが網とボールをおさえ、ラベンダーが裏ごしをしている。
「ヨーグルトと生クリームを新たにボールにあけ、混ぜます」
特に難しい手順もないので任せたまま進行する。
「あら熱のとれたゼラチンを加え、よく混ぜます。ここであまり冷やしすぎると、固まってしまって上手に出来上がらなくなります」
生地を少しだけゼラチンに入れ、混ぜてから戻す。ゼラチンはユリが加えて見せた。
「型に流し入れます。良く冷やしてできあがりです」
1つだけやって見せ、残りをラベンダーに託した。
「食べるときに、好みでジャムを添えて提供してください」
話している間に全員ができあがり、冬箱にしまい終わった。
「ラベンダーさん、ゼラチンを40gずつ分包できます?」
「はい。いくつ作りますか?」
「まだある?」
「え?あ!もうないです」
「じゃあ、12包お願いします」
「はい」
「あ、11包と30gかな。500g入りを持ってきたはず」
「はい」
サリーも手伝って、少し大きめの油紙のような紙に40gずつ包んでくれた。大きな薬包だ。
「ゼラチンをお配りしますので、なにか作ってみてくださいね」
ラベンダーと手分けして配り、ラベンダーにも1包を渡した。
ラベンダーは嬉しそうに受け取った。
「これ、30gだけど、よかったらどうぞ。要らなかったら料理長にでもあげてください」
サリーに渡すと物凄く驚いていた。
指示をあおぎたかったらしくラベンダーの方を見ていたが、「受け取っておきなさい」と言われ嬉しそうに受け取っていた。
「ユリ先生、どうもありがとうございます!」
揃った声で言われて一瞬ビクッとなった。
いったい誰が指揮をとっているんだろう?
この辺りが、ローズマリーが人を集めたりがうまい所なのかもしれないとユリは思った。
アルストロメリア会の指導が終了し、次はハンバーグだ。
サリーが、残りの片付けを他のメイドに任せ、案内に来た。
「少し休まれますか?」
「ありがとう。すぐで大丈夫よ」
「今回は見学してもよろしいでしょうか?」




