充填
朝10:00頃、執事と一緒にパープル侯爵まで来た。
てっきり執事だけが来ると思っていたユリは驚いたが、そういえば昨日ソウが手紙を持って行ったのだから侯爵も来たのかな?とユリは考えた。
「ユリ・ハナノ様、アイスクリームの試食とやらをいただきに参りました」
「呼び出しちゃってごめんなさいね」
「いえいえ、では真冬箱に魔力充填しますので少々お待ち下さい」
理由は違った。
真冬箱の充填が、執事だけではフル充填できないからだった。
「今から充填するんですか?」
「はい。一人では起動させる充填ができないので、なるべく開始が遅くなるようにと思いまして」
「じゃあ、私が充填しますよ」
ユリは2カ所の魔鉱石を触り、二人がかりでやっと、普通なら4~6人で行う充填を一人でなんなくこなした。
しかも早い。
「あ、一人では!」「ユリ・ハナノ様!」
慌てて声をかけた二人に、何かあったの?と言わんばかりにケロっとしたユリを見て二人はユリの魔力の多さを実感し、驚いた。
「なんともないのですか?」
「え? 何かダメだった、の、ですか?」
「いえ、真冬箱を一人でフル充填できるとは思わなかったもので・・・」
「そうなの? お店にあるアイス箱も一人で充填してるけど?・・・」
「この後充填するものがあるのですか!?」
「ええ、夕方ですが」
「これは老婆心ではございますが、ホシミ様に充填をお願いされた方がよろしいかと思います」
「そうなのですね。ご親切にありがとうございます」
充填した真冬箱を預かって、ラムレーズンのアイスクリームを入れてきた。
「8個しか入らなかったので、パープル侯爵と執事さんは今食べてくれます?」
「我々も良いのですか?」
「?」
「女性の意見が聞きたいと手紙にはあったので」
「料理人の皆さんも男性ですよね?」
「それはそうですが、いえ、いただきます。ありがとうございます」
「わたくしにもいただけるとは、来た甲斐がありました!」
なんだろう。この二人は、魔力だけ提供して食べられない予定だったのかしら?
そんな酷いことってあるの?
実際本当にその通りだったのである。
「どうぞ、お召し上がりください」
ユリはスプーンを添えて二人に渡した。
「う、これは!・・・素晴らしいです!」
「・・・何とも言えないうまさだ!!」
マーレイさんにも受けが良かったけど、皆お酒大好きなのかしら?
「そんなに美味しかったなら、アルストロメリア会で教えておきましょうか? 口頭ですぐですよ?」
「是非! 是非教えてください。娘に作ってもらいたい」
「旦那様、そこは『奥様』とおっしゃらないと・・・」
「勿論、ローズマリーにも作ってもらう・・・、ユリ・ハナノ様、今のはどうか内密に」
「はい、話したりしません。ふふふ」
二人は満足した顔で帰っていった。
サンプルはまだ3人だけど、これなら昼からでも出せたのかな?
ラムレーズン当日はランチから出そうかな。
とりあえず今日の準備しなきゃ。
ユリは頭を切り替えてランチの準備の続きをした。
ランチのイチゴアイスクリームも好評で、75食全てセット注文だったので、残りは25個になった。
おやつタイムのおすすめを書いて貼り出した。
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おすすめアイスクリーム
イチゴ&ラムレーズンの2色盛り 500☆(限定40)
◎お酒を含みます。ご注意ください。
イチゴ(大)のみ 500☆(限定25)
温かい紅茶セット プラス200☆
お土産
イチゴアイスクリーム 500☆(限定19)
◎真冬箱をお持ちください。
予約した方は、予約券をご提示ください。
◎きれいに洗ったココット3つ返却で、パウンドケーキを1カットさしあげます。
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やはり、予約だけ受け取って帰る人が多く、席が埋まりだすまでに時間がかかった。
そして、2種盛りは出ず、イチゴアイスクリーム単品の注文ばかりだ。
「おかわりで、イチゴ&ラムレーズンをください」
「はい。ただいまお持ちします」
「おまたせしましたイチゴ&ラムレーズンのアイスクリームです」
「せっかくだし食べてみようと思ってね」
「ありがとうございます!」
「どれどれ、・・・う! これは!!」
どうした?と回りが注目する。
「予約、予約できる?、ラムレーズンの予約2つ分!!」
「はい!できます。ありがとうございます!」
様子を見ていた回りの人たちも、食べるべきなのだな?という空気になったらしい。
「ご店主!こちらにもイチゴ&ラムレーズンのアイスクリームを!」
「こちらにもくれ!」
「こっちもだ!」
「私も食べるぞ!」
「皆様ありがとうございます!申し訳ありません。今おっしゃった方は、手をあげてください」
黙視で数えながらうなずき、あれ?15?
と思って良く見たら、最初にイチゴ&ラムレーズンを頼んでくれた人も手をあげていた。
うきうきと厨房からトレーに乗せて、イチゴ&ラムレーズンのアイスクリームを持ってきた。
「これは!!」
「なんだ!旨すぎる!」
「甘いのと酒がこんなにも合うなんて!」
「食べずにいた自分が馬鹿だった!」
「今日来て良かった!」
大変好評で、全員ご注文いただいた。
よし!半分売れた!販売分残り30!
喫茶でおかわりした人が何人もいて、16時頃には2色盛りは18、イチゴは10しか残っていなかった。
喫茶が終わる頃、ラムレーズンの予約も全て埋まり、販売分も全て売り切れた。
「まだ大丈夫かのう?」
食器屋のおじいさんだった。
「大丈夫ですよー。どうぞ。何がよろしいですか?」
「わからんから何かおすすめをもらえるかのう?」
「はーい」
店売り分は売り切れたけど、家内用で取り分けたアイスクリームは残っている。
温かい紅茶と、アイスクリームは、ラムレーズンとシャーベットとイチゴをミニデッシャーですくって持ってきた。
「おすすめの、アイスクリームです」
「これは見たこともない物だのう?雪か?」
おじいさんはラムレーズンアイスクリームの白い部分をすくって食べてみた。
「う!なんだ!」
他の味も一口ずつ食べてみる。
「何ということだ! 雪のようで、とても旨くて・・・よき冥土の土産になりそうだ」
ちょっと、ここで死なないでー!
生きてー!
ユリは笑顔のまま心の中で叫んだ。
「今月中はこのアイスクリームを毎日違う味で出していますので、良かったらまた来て下さいね」
「また来て良いのかね?」
「お休みの時以外、いつでもお越しくださいね。11:00~18:00まで営業していて、途中14:00~15:00は休憩時間です。大地の日とお日様の日がお休みです」
57000☆が入った小袋を渡した。
アルストロメリア会でいつも貰う袋にいれてみた。
「こちら、大きいココットのお代です。ちょうど大きいのが欲しかったので助かりました!」
「それは良かったのう。おいくらかね?」
「最初のココットをおまけしてもらっているので、今日はその分で。次回からお支払くださいね」
「良いのかい?」
「はい」
おじいさんはニコニコと帰っていった。




