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営業が終わる頃マーレイとリラが来たので少し待ってもらった。
バニラはアングレーズソースを使うので、いきなり作れないからだ。
店売りの残ったアイスクリームをリラに出したら震えるほど感動し喜んでいた。
「ユリ様!雪が美味しいです!美味しい雪です!」
「これは、アイスクリームというのよ」
「ユリ様は魔法使いみたいです!」
「うふふふふ。リラちゃんは素直に喜んでくれるから食べさせがいがあるわぁ」
「こんなに美味しいものを食べて喜ばない人がいるんですか?」
「喜ばない訳じゃないんだけど、貴族の人たちは反応が薄いのよね」
「貴族の人・・・」
「あ、ライラックさんも仲良くしてくれれば良いのにね。同じ花なんだし」
リラはユリの言葉の意味があまり良くわからなかった。
マーレイは、ユリの名前が花の名前らしいと知っていたので、花どうしなんだからという意味でとらえた。
「アイスクリーム作るにゃ?」
「あ!ユメちゃんだ!」
リラが嬉しそうにユメを呼んだ。
「ユメちゃん、今から作るわよ。見ていく?」
「見るにゃ!」
「さて、アングレーズソースが冷えたからアイスクリーム作るわよ!」
アイスクリーム専用真冬箱は長くて言い難いので、ユリがアイス箱と名付けた。
「このアングレーズソースと生クリームをアイス箱にいれて、魔力を充填し、上のハンドルを回します」
魔鉱石の魔力はすっかり空になっている。
ユリは手をかざして魔力を充填し、皆の方を見た。
マーレイもリラもユメも真剣に見ていた。
「しばらくは軽く回りますが、そのうちハンドルが重くなってきます」
うんうんと頷きながらリラが言った。
「ユリ様は魔力も有って、美味しいものも作れて凄いですね!」
「美味しいものは練習すれば作れるようになるし、魔力はリラちゃんも有るでしょ?」
「え?」
「何故にゃ?」
リラとユメが何で?という顔をしてこちらを見た。
マーレイがユリに説明をする。
「ユリ・ハナノ様、魔力は貴族と、まれに平民にも魔力持ちが居ますが、限られた人にしか有りません」
「あれ?だって、花の名前の女の子は魔力が有るのでしょ?」
「そうにゃ」
「リラちゃん、ライラックさんと同じ花の、外国語というか、とにかく、花の名前よ?」
ユリ以外、そうなの? といった、いまいち理解していない顔をしている。
「アイスクリーム作ってる?」
帰ってきたソウが声をかけた。
「あ、ソウ! ライラックとリラって、同じ花よね?」
「え? うん、そうだね。で、何の話?」
「リラちゃんに魔力があるかどうか」
「あー、そういえば、リラも花の名前だな。魔力、有るんじゃないか?」
「えー!わたし、魔力が有るんですか!?」
リラもマーレイも、ものすごくビックリしている。
するとユメが歩いてリラのそばに行った。
「リラ、手を貸すにゃ」
「はい、ユメちゃん」
リラは両手を出した。
ユメはリラの手を握り質問した。
「何歳にゃ?」
「13歳です」
「練習すれば良いにゃ」
「何の練習をすれば良いですか?」
「魔力を使う練習にゃ。魔鉱石に充填すれば良いにゃ」
「練習すれば魔法が使えますか?」
「魔法と魔力は別にゃ。練習すれば魔力が増えるにゃ」
そうなんだ!
ユリは声にこそ出さなかったが、魔力の増やしかたや、魔力が有っても魔法が使えるということではないと、はじめて知った。
魔法が使えるソウやユメちゃんは凄いんだなぁ。と、ユリはしみじみ思った。
まあ実際は、使おうと思わずともユリは、癒しの魔法を使い続けている状態なのだが、本人は理解していない。
「美味しくなあれ」と思いながら作っている、それこそがユリの魔法なのだ。
このことをソウとユメは把握している。
「アイスクリームできましたー。お手伝いお願いします」
「あ、はい!」
「手伝うにゃ!」
「俺も手伝ってアイス貰おうっと!」
「握力がある人がデッシャーですくって、他の人は器に詰める係でお願いします」
「ココットにしっかり詰めたのを50個、大デッシャー小皿盛りが90個、中皿盛り中デッシャーが50個、出来上がり次第冷凍庫にいれてください」
「よし、まず俺が大デッシャーで、マーレイが中デッシャー。リラとユメはスプーンで詰める係と、冷凍庫に入れる係な!」
「はーい。お皿持ってきます!」
「わかったにゃ」
「かしこまりました」
出来上がったアイスクリームをボールにあけ、次のを作る。
さすがに作る方が遅いので、皆手持ち無沙汰になる。
「あ、じゃあ、ハンドル回して貰おうかな。その間にアングレーズソース作るわ!」
リラとユメがハンドルを回すらしい。
力が足りなくなったら男性陣が変わるでしょう。
んふふ。
何度か作った時、ソウが声をかけてきた。
「次くらいで言われた分が出来上がりそうだよ」
「わかったわ、ありがとう。あとはシャーベットを、えーとさっきは何回作ったかしら?」
「8回です!次が9回目です!」
「リラちゃんありがとう、シャーベットは2回ってとこね。中皿盛りに足します。残ったのは家内分なので、適当にココットに詰めてください。終わったら食べて良いですよ」
「わーい!」
「凄いにゃ」
「よーし!」
「楽しみですね」
最後のアングレーズソースを持ってきた。
あとはお任せなので、ユリはシャーベットの用意にとりかかる。
できたあとすぐに食べないシャーベットなので、アイス箱で作るがイタリアンメレンゲを加えることにした。
厨房の業務用ミキサーで、イタリアンメレンゲを作る。
100%オレンジジュースとイタリアンメレンゲだけでオレンジシャーベットを作るのだ。
業務用ミキサーで卵白を少量のグラニュー糖を加え泡立てる。
そこへグラニュー糖と同量の水を加え、糸が引くまで煮詰めたシロップをミキサーの羽にかからないようにボールの端から加えていく。
シロップがしっかり混ざったらイタリアンメレンゲの完成だ。
良く洗ったアイス箱にオレンジジュースを入れ、少し凍りだすまで混ぜる。
イタリアンメレンゲを加えて更にまぜる。
しっかり凍ったらできあがり。
「中デッシャーで、中皿盛りに足してください。残りは家内用です。適当に詰めてください。食べても良いですよ」
ユリは洗い物をしながら楽しそうな皆の声を聞いていた。
「ユリー、お店の分は全部できたよ。シャーベット一緒に食べよう」
「はーい、今行きます」
一旦しまったシャーベットをリラが出してきた。
5カップある。あれ?皆1カップずつで良いのだろうか?
不思議に思っていると、ユメが教えてくれた。
「アイスクリームはたくさん食べたにゃ。シャーベットはユリと一緒に食べるのにゃ」
なるほど。待っていてくれたのね。うふふ。
皆で食べ出した。
「うわー!これもおいしいー!これはさっぱりしているんですね」
「美味しいにゃ」
「うん、シャーベットもうまいな」
「さっぱりして美味しいです」
「家内用のは好きなだけ食べてください。後で温かいお茶を入れましょう」
いくら夏で暑いと言っても もう夜なのでアイスクリームの食べすぎは寒いと思う。
そろそろ温かいお茶が恋しくなるだろうと思うくらい、3人は食べまくっている。
温かいお茶を出すと、少し震えた3人がカップを手に抱え込むように持つ。
たぶん寒いのだろう。
少しあきれた表情のマーレイと顔を見合わせて笑った。
「明日からの 来月一ヶ月間、営業している日に毎日作ります。来られる時だけで良いので、できるだけ手伝いに来てくれるとありがたいです。7種類を3回、その後に2種類、最後にチョコを大量に作ります」
「はい!明日も明後日も毎日来ます!」
「リラちゃんありがとう。頼りにしていますが、無理だけはしないでね」
「はい!」
「私もなるべく来るように致します」
「マーレイさんありがとう。お願いしますね」
「明日も手伝うにゃ!」
「ユメちゃんありがとう。頼りにしています」
「俺もできるだけ手伝うよ」
「ソウ、ありがとう。無理しないでね」
「ユリ様、明日は何を作るんですか?」
「明日はイチゴアイスクリームよ」
「わあー!楽しみです!」