機器
今日はお休みだが、朝から訪問者があった。
魔動力機器コニファーの店の二人が試作品を試して欲しいと訪ねてきたのだ。
自分達では使い方が良くわからないので、改良点そのものがわからないという。
確かに、何に使うのかいまいち把握していないものを作るのは大変だろう。
できあがっているアイスクリームをまずは提供し、何を作っているのか知ってもらい意欲を高めてもらおうと思う。
「これがアイスクリームです。これは真冬箱を使って手で作ったものです」
二人は恐る恐るアイスクリームを口にした。
「何ですか!? これは! こんな素晴らしいものが作れるのですか!? 美味しいー」
「これは素晴らしい。革命的だ!!」
アイスクリームを実際に食べてみて、更なるやる気に火がついたようだ。
凍らせる直前の生地を作って、実際に試してみることにした。
家内用にと作ってあったアングレーズソースと生クリームを用意する。
魔鉱石に手をかざし、魔力を充填する。
手がスッと冷える感じがしてすぐに魔鉱石が淡く輝く。
ユリは嬉しかった。本当に簡単だった。
但し、横で見ていた二人は、ユリのあまりにも早い充填に、言葉無く驚いていた。
充填の半分以上は手伝うつもりだったのだ。
試作品は予想より大分大型だった。
立ってハンドルをにぎって回すのにちょうど良いくらい大きい。
そのため出来上がりに近づくにつれ、ハンドルを回すのが力業になる。
「もう少し小型に作れますか?」
「はい。可能です。どのくらい小型化すればよろしいでしょうか?」
「内容量が、今の1/3~1/4です」
「小さすぎませんか?」
「貴族に売るのですよね? 商売と違って、大量に出来上がる必要がありませんし、力業では女性が使用できません」
「なるほど・・・」
「私はこのくらいでも大丈夫ですけどね」
「あ、でしたら、そちらはこのまま置いていきますので、お使いになってください」
「ありがとうございます」
出来上がりを試食してみると、いつものよりも滑らかで美味しかった。
転移前の世界で食べたアイスクリームに近い味である。
「味が違う!?」「なめらかだ!」
「これが冷やしながら混ぜられる強みです」
ユリはニコニコとしながら説明した。
「なるほど!これは開発する意味がありますね!」
更なる闘志を燃やして鼻息も荒く、目が輝いている。
そんな二人を見てユリは嬉しく思った。
なにか協力したい!
「そうだ、配合要ります?」
「良いのですか?」
もう、目からビームでも出すんじゃないかってくらい二人の目が輝いている。
「実際に作ってみた方が、改良しやすいですよね?」
「ありがとうございます!!!」
「加熱等の手間がないものが良いですよね・・・」
ユリは、果汁と砂糖を凍らせるだけのシャーベットの配合と、ブルーベリーアイスクリームの配合を渡した。
双方卵が入らないので手間が少ない。
「いつでもいらしてくださいね」
「はい!今度は営業しているときに来てみたいと思います!」
「よろしくお願いします」
まるでスキップでもするかのように飛び跳ねるように帰っていった。
「おはようにゃ!」
「あ、ユメちゃん、おはよう。アイスクリームあるわよ」
「見てたにゃ」
「あら、じゃあ説明は要らないわねー。ふふふ」
ユリは試作器の中のアイスクリームをよそってユメにだした。
「なめらかにゃ!」
「このアイスクリーム専用真冬箱で作ったからねー」
「凄いにゃ!」
「これは大型だけど、小型化したのが出来上がればユメちゃんでも作れるわよ」
「作れるにゃ?」
「ええ。材料入れて、ハンドル回すだけだからね」
「凄いにゃ!」
ユメはニコニコしながら美味しそうにアイスクリームを食べていた。それを見てユリはとても嬉しかった。作るのは楽になるし、しかも美味しくなるのだ。
「ただいま」
「ソウお帰りなさい。アイスクリームあるわよ」
「お、アイスクリームメーカー! デカくない?」
「小型化をお願いしたわ。うふふ」
「やっぱりなめらかになるの?」
「なるわね。そして楽だわ。週明けからのアイスクリーム月間がとても楽だわ。うふふ」
「でも、その機械を売り出したら、アイスクリーム売れなくなるんじゃないの?」
「家庭で作るには面倒な配合は売れると思うわよ?」
「成る程」
「卵の加熱は、アルストロメリア会で教えた人以外できないだろうしね」
「あー、料理人が作る訳じゃないのか」
「そういうこと」
当初どっぷりはまっても、そのうち作るのに飽きるし、面倒になるからね。
明日の店売り分でも仕込みましょう。
ユリはなぜか予約が入らないチョコアイスクリームを店で出してみることにした。




