小娘
馬車に乗って、やっと緊張から解放された。
「はー、今日は特に疲れたー!」
「お疲れにゃ」
「ユメちゃん、退屈だったでしょう? 最後までありがとね」
「お菓子とグラタン食べただけにゃ」
「ユメちゃんが見守っていてくれたから安心だったのよ」
「良かったにゃ」
いくら貴族がいない世界で育ったとはいえ、王族に相当する国民の象徴は元の国にもいらしたので、さすがに王族の対応はしたくない。
不敬とか良くわからないもの。
まあ、さすがに今回限りだろうし、よし、私頑張った!
「ユメちゃん、お腹はすいてない? 帰ったら何か食べる?」
「葛切りが良いにゃ」
「ユメちゃん葛切り好きねぇ。わかったわ、帰ったら作るわね」
「ありがとにゃ!」
馬車が到着し、マーレイから洗ってあるココットを渡された。
食べ終わった分は洗って返されたようだ。
白い容器は店売り分だから、返却はありがたいわね。
そういえば、言ってくるの忘れてたけど、色つきや、模様つきのココットは、アルストロメリア会専用にしようと思ってたのよね。
お店では使いにくいし、一石二鳥よね。
ドアに手をかけると鍵が開いていた。
ソウが帰ってきてるのかしら?
「ソウ? 帰ってるの?」
「小娘にゃ」
小娘? って、誰?
「ユリ様!」
「リラちゃん? どうしたの?」
あれ? ユメちゃんの言う小娘って、リラちゃんのこと? リラちゃんの方が大きいような? ・・・ま、そんなことは置いておいて、リラちゃん、いったいどうしたんだろう?
「勝手に入ってごめんなさい」
「それは良いけど、何かあったの?」
「この前の、イエローこうしゃく家のライラック様が家まで来て、良くわからないけど、私がユリ様と呼んでたからって、難しいことを色々言われて、よくわからなくて、怖くて、ここに来て隠れていました」
「えー! 何もされてない?」
「はい。見つからなかったので」
「そっか、何もなくて良かった。怖かったでしょ。マーレイさんもまだ外にいると思うから呼んでくるわね」
「ありがとうございます」
外に出て、簡単に説明しマーレイを呼んできた。
「リラ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「マーレイさん、そのまま帰ったら鉢合わせしないかしら?」
「え! まだいらっしゃるでしょうか?」
「リラちゃん、どのくらいここにいたの?」
「お昼過ぎからです」
もう夕方だし大丈夫かなぁ。
「さすがにもういないかな。でも、マーレイさん、少し休んでいってください。リラちゃんとおやつでも食べましょう」
「わー!ありがとうございます!」
「お気遣いくださりありがとうございます」
「ユメちゃん、どのくらい食べる?」
「この前と同じくらいにゃ」
「ユメちゃん???」
リラが不思議そうにユメを見る。
あ、説明してないや。
「もしかして、黒猫のユメちゃんですか?」
「そうにゃ」
「わー! 凄い! 可愛い! リラです仲良くしてください!」
「わかったにゃ」
さすが子供は柔軟だわ、理解が早い。
あれ?マーレイさんが今更ながら驚いてる。あー理解していた訳じゃなかったのね。
カランカランカラン。 ソウが外から帰ってきた。
「お!勢揃い?」
「ソウ、お帰りなさい」
「ただいま。なんかあった?」
「ライラックさんが来て、リラちゃんに何か言ったらしいのよ」
とりあえずユリはお湯をわかしに行った。
裏漉し済みの葛粉は冷蔵庫にある。
「リラ大丈夫だったのか?」
「はい。ここに隠れていました」
「何て言われたんだ?」
「難しいことを色々言っていたので良くわかりませんでした」
厨房から戻ってきたユリは疑問を口にした。
「何で毎度同じ曜日にくるのかしら?」
「え?」
「これで3回目だけど、毎回同じ曜日よね?」
あ、お湯が沸いたわー。
ユリは厨房に戻っていった。
「はい。私が会った2回ともEの日です」
「全部同じにゃ」
「もしかすると、イエロー公爵がいない日に来ているのかもしれないな。ここのところ毎週末集まってたし」
「ならー、明日はライラックさん来ないわねー」
厨房からユリが聞いてきた。
「おそらく・・・ 。リラ、もし又来たら俺に言え」
「はい。ありがとうございます」
「ユメ、もしもの時は頼むな」
「任せるのにゃ!」
ユリはトレーに器を5つと重ねた小鉢と黒蜜を乗せて戻ってきた。
「葛切りができましたよー」
「うわー! 美味しそう!」
「マーレイさんも食べてね」
「恐れ入ります。いただきます」
「食べるにゃー!」
「いただきます」
「いただきまーす」
「はい、どうぞ」
ユリはすぐに席を立ち、厨房に戻っていった。すこしして、おかわり用らしい葛切りをボールに沢山持ってきた。
「ユメちゃん、おかわり持ってきたわよー」
「おかわりするにゃ!」
「はい、どうぞ。リラちゃん、おかわりあるわよ。マーレイさんも食べられるならおかわりどうぞ」
「ユリ、俺もおかわりして良い?」
「え? もちろん良いわよ? なんで?」
「俺だけ呼ばれなかったから」
呼ばれなかった?
ユリは自分の発言を良く思い返す。
「?・・・。あー! もともとユメちゃんに作る約束をしていたのよ。マーレイさんもリラちゃんも言わないと遠慮するでしょ? それだけよ?」
「なるほど、いや、ちょっと、最近太ったって色んな人から言われてて・・・」
ソウに「最近少し太りました?」と声をかける人は、本意というよりやっかみである。
元の世界の同僚や知り合いだ。
ソウのユリ大好きは、ユリ本人以外の共通認識だ。この国においてさえも。
「痩せたって、太ったって、ソウはソウよ。健康に影響があるほどは困るけど、少しくらい太ったって、問題ないわ」
「ソウは痩せすぎにゃ」
実際ソウは大分スリムだ。
もう少しウエイトをあげた方が、体重と同じだけ持てる、荷物を持った転移も楽である。
ユメがたっぷり黒蜜をかけたのを見て、リラも自分の器に黒蜜を足していた。
「この黒いの、とっても美味しいですね」
「黒蜜にゃ!」
「くろみつって言うんですか。ユメちゃんは物知りですね!」
なんかとっても仲良くなったみたいで微笑ましいわ。
リラちゃんはさぞや怖かったのではないかしら。
おやつ食べてユメちゃんと仲良くして、落ち着いたかしらね?
食べ終わり、少しするとマーレイとリラは帰っていった。




