生徒
お庭の木陰にあるテーブルにつき、紅茶とパウンドケーキが出された。
ラベンダーたちは座らないらしい。
フルーツが少し大きめで、入っている種類も違うようなのでうちのではない。ラベンダーが作ったのだろうか。
「お恥ずかしいですが、私達が作りました」
「いただきます」
もぐもぐ。結構良くできている。
充分商売レベルだ。
「美味しくできていますね」
「ほんとうですか!?」
「売れるレベルだと思いますよ?」
「おいしいにゃ」
パーっと笑顔になり、3人で喜びあっている。
育ち盛りなのかユメはグラタンの前にもお菓子を食べたはずだが、ペロッと平らげた。
「こちら、預かってまいりました」
そういって渡された袋は3つで、理由を訪ねると、まず、いつもの人数分の指導料10万☆、料理人への指導料8万☆、王家からの報奨100万☆らしい。
色々突っ込みどころがいっぱいで、アワアワしていると、
王妃は最初、1000万☆を渡す予定だったのを、おそらく嫌がりますからと言って100万☆に変更してもらったのだというのだ。
1000万☆も払われたら、怖くなって二度と来ない自信がある。
「断ってくれてありがとう。100万☆でも多いけど、というか、1人1万☆も多いと思っているのに、1000万☆も払われたら怖くなって来なくなるかも・・・」
「え、え、次回もいらしていただけますか?」
「はい、約束は守ります」
良かったと安堵したようで笑顔になった。
「そういえば、一度聞きたかったのですが」
「はい」
「その場の偉い、いや、身分が高いかな? そういった人がいる場合、他のかたには発言権が無かったりしますか?」
「そうですね。母が同席した場合、よほどの事がなければ、わたくしが意見を言うことはありません」
「やっぱりそうなのですね」
「問題がございましたか?」
「折角お菓子を習いに来ているのに、質問をしなかったら疑問が解消しないと思うのです」
「はい・・・」
「私の事を先生と呼んでくださるなら、私に対しては同じく生徒ということで、疑問などは誰でも発言できるようにならないでしょうか?」
ローズとピアニーが目を輝かせている。
振り返ったラベンダーは二人に意見を聞いた。
「あなたたちはどう思う?」
「はい。母が同席しても質問できるのならとても嬉しいです」
「わたくしも、姉が同席した場合も質問したいです」
「そうね。わたくしも母が同席しているので質問できませんものね」
「貴族同士の決まり事を壊したいわけではありませんから、難しいようなら各家1人の参加にするとか、割烹着を着ている時間だけ、生徒だからとルールをもうけるとか、なにか手だてが欲しいですね」
「母に相談してみます」
「はい、お願いします」
何か静かだと思ったら、ユメはテーブルに突っ伏して寝ていた。
このメンバーはユメ的に安心メンバーなのだろう。
「あ!そういえば、次回はどうするんでしょう?」
「そういえば、決めていませんね。母が言うべきかもしれませんが、パンプキンプリンか、ヨーグルトゼリーか、カスタードプリンか、ユリ先生に伺ってから決めたいと言うようなことを話していました」
「簡単というなら、ヨーグルトゼリーです。一番面倒なのは、パンプキンプリンです。カボチャを裏漉しするので、裏漉し用の網が必要になります。今日使ったようなザルではできません。あと、釜でも作れるのですが、お店では、プリン類を蒸し器で作りました」
「むしき? とはどのようなものでしょうか?」
「火の上に専用の鍋を置き、その上に、穴の空いた蒸気を通す鍋、もしくは、木枠の底板が簾状の箱を置いて、中の物を蒸気の熱で火を通します。それを蒸すといいます。これで作ると焦げないので、数が必要なときには楽なのです。お店では、300個作っていました」
「300・・・。凄い数ですのね」
「カボチャも蒸し器で火を通したので、茹でるより美味しくできます」
急にローズとピアニーが緊張したように見えた。
何かあったのかな?と振り返ると、ローズマリーとハイドランジアが歩いてくるところだった。
護衛もつれていないようだ。
ローズマリーはユリのところへ一直線に来て話し出した。
「ユリ先生、次回のお菓子を決め損ねてしまいましたから、と思いましたが、ラベンダーと何か話されましたか?」
「ヨーグルトゼリーか、カスタードプリンか、パンプキンプリンのどれが良いでしょうと言う話で、ヨーグルトゼリーは簡単で、パンプキンプリンは器具的に無理じゃないかと今説明していました」
「器具の不足なのですか?」
「はい。蒸し器が必要ですが、どうしても作りたければ、カボチャを蒸して持ち込みます。そうすれば、釜だけで作れます」
「次回はヨーグルトゼリーにしましょう。パンプキンプリンは器具を揃えてからで」
「わかりました。必要なのは、
プレーンヨーグルト(無糖)
生クリーム(乳脂肪低め)
グラニュー糖
ゼラチン
レモン果汁
好みのジャムです。
わからないものや揃えられないものがあったらまた聞きに来てください」
「来週もよろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いしますね」
「帰るにゃ?」
「はい、帰りますよー」
「王妃様、御前失礼致します」
「あら、ハイドランジアで良いのに」
「割烹着を着ているときだけ、お名前でお呼びします」
「わかったわ、生徒の時だけなのね」
「では、本当に失礼します」
ユリは頭を下げてから退席した。
少し先にサリーが待っていてくれた。
もし可能ならラベンダーに、話の途中でごめんなさい。と伝えてほしいと頼んだ。
うけたまわりました。と快く頼みを聞いてくれた。
馬車まで付き添ってもらい、何か渡されたと思ったら、洗ったグラタン皿だった。
大変、すっかり忘れてた。
良くお礼を言って、別れた。




