永別
12月31日(Eの日)
「今日は何日にゃ?」
少し遅く起きてきたユメが、ユリに日付を聞いてきた。
「今日は12月31日よ」
「わかったにゃ」
ユメはそのまま引き返し、部屋に戻ってしまった。
「なんだったんだ?」
「なにか予定している事があるのかしら?」
「キボウ」
「なーにー?」
「キボウ、ユメについていてやってくれないか?」
「わかったー」
キボウが迎えに行くと、ユメは戻ってきた。
「ユリ、これ受け取ってにゃ」
「え?」
「ソウ、これ受け取ってにゃ」
「なに?」
「私の日記に書いてあるのにゃ。12月31日に、ユリとソウに渡す。ってにゃ」
紙袋を渡された。キボウも紙袋を持っている。ユリとソウは、急いで中身を確認した。
なんと、今まで渡したもの全てが、紙袋の中に入っていたのだ。
「その日記に書いてあるままを伝えるにゃ。
私はこの時代に生きるべきではないが、あまりにも心地よい。しばし、ユリとソウに甘えよう。そして去り際には、痕跡の1つも残すことなく、潔く旅立とう。にゃ」
「え、ユメちゃん、どこか行っちゃうの?」
「どこにも行かないにゃ。本来あるべきところに帰るのにゃ」
「私はずっとユメちゃんと一緒に居たいよ」
「ユメ、俺はユメは家族だと思っているよ」
「今日1日頼むにゃ」
ユリが泣きそうになり尋ねたが、ユメは達観した笑顔で微笑むだけだった。
世界樹様から告げられた期限は確かに今日迄だが、ユメが自発的に居なくなる想定はしていなかった。ユリはむしろ、お店を休みにして、迎えに来るであろう何かを追って、世界樹の森まで追いかける気でいたのだ。
「ユメー、ごはん」
「キボウ、お腹空いたのにゃ?」
「あ、ご飯にするわ。ユメちゃんも食べるわよね?」
「ありがとにゃ」
昨日みんなで作ったパンと、コーンスープを並べた。
「美味しく出来て、良かったのにゃ」
「ユメちゃんとても上手だったわよ」
「ユメの作った黒糖クリームパン、旨いな」
「だれー?」
「キボウ君、それはリラちゃんが作ったコーンとほうれん草のパンね」
「おいしー」
緑色が入っているところが、ポイントが高いらしい。
ソウは、ピザっぽいパンをユメにすすめていた。
「ソウ、いろんな味がして美味しいにゃ」
「そうか。そりゃ良かった」
「ユリが作っていたパンも食べたいにゃ」
「どうぞ。クルミとメイプルシロップを巻き込んであるわ」
「どーぞー。キボーのー」
キボウが作ったパンを、ユメにすすめていた。
「それは、イチゴジャムを巻き込んで、イチゴ味のアイシングがかかっているわ」
「みんな美味しいにゃ」
「作って大正解だったわね」
「リラに感謝なのにゃ」
パンを食べた後は、ユメの希望で、トランプやボートゲームをすることになった。
カードゲーム等にめっぽう弱いユリは大敗したが、ユメがほどほどに勝ち、楽しそうだったので、ユリは嬉しかった。
お昼ごはんには、ユメが喜んでいたカルボナーラを作り、少しだけ皆で散歩に行き、夕飯の後は、再びゲームに興じた。
21時を過ぎた頃だった。
「少し疲れたのにゃ」
「ユメちゃん?」
突然ユメが立ち上がった。
「ユリ、ソウ、キボウ、いつも一緒にいてくれてありがとにゃ。おかあさま、私を生んでくれて ありがとう」
そう言ったユメは、淡く発光して黒猫になり、眠ってしまった。
迎えを警戒していたユリだったが、ユメは黒猫で眠ったままだった。
暫くすると、黒猫の体からキラキラと光が立ち上がり、その光がユメの姿になった後、光のユメがニコッと微笑み、すうっと空の彼方に消えていった。そこに黒猫の姿はもう無かった。
「ユメちゃーん!!!」
ユリが転移をしようとして、ソウに手をつかまれ止められた。
「ユリ、一緒には行けないんだ!」
「ユリー?」
ユリが声をあげて泣き、ソウが抱き締めて、更に泣いた。キボウも心配そうにユリを見ていた。
ユリが暫く泣いていると、頭の中に響くような声が聞こえた。
『ユリ、ソウ、連れて行ってあげるよ』
キボウからの特殊な以心伝心が届き、ユリとソウはどこかに転移した。




