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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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練物

昨晩リラが泊まったため、ユメが寝る直前までトランプやボードゲームを楽しんだ。


「リラちゃん、1月中に読むつもりの本は、下の休憩室に下ろしておいてね」

「良いんですか!?」

「構わないわよ。読めるだけ確保したら良いわ」

「ありがとうございます!」


リラは、ユメが寝てから本を選び、せっせと本を運んでいるようだった。ユリたちが居ないと言っても、リラもラベンダーに呼ばれていて、月の半分以上はこちらに居ない予定なので、本は吟味した15冊らしい。



今日の朝ごはんは、餅と卵焼きと肉じゃがだった。


「本当は、お餅はお正月に食べるんだけどね。帰ってきたら2月かもしれないからね」


桜花餅と、よもぎ餅と、普通の餅を選び、各人が好きなものを食べた。


「去年作っていた、お節料理は作らないのですか?」

「作っても、食べる機会がないと思うのよね」

「栗きんとんは習いましたが、ダテマキも教えて貰えませんか?」

「伊達巻? いいわよ。でも、材料がこちらで揃うかは、分からないわよ?」

「そんなに難しい材料なんですか?」

「白身魚の擂り身を使うのが、本来なんだけどね。私は家庭用にアレンジした、はんぺんというものを使った配合で作っているのよ」


「ユリ、私も見てみたいにゃ」

「ユメちゃんも興味があるの?」

「ユリ、群青に見に行くか?」

「あー、そこで揃うなら、それが良いわよね」

「なら、リラちゃん。ちょっと厚着して買い物に行きましょう」



わざわざ着替えてまで群青に見に来たが、今年はもう漁に出ないらしく、帆立や牡蠣などの養殖物しかなかった。


なら、向こうに買いに行くか。と、ソウと話していると、声をかけられた。


「あの、漁協で弾いた魚でよければ、見に来ませんか?」

「え、お魚有るんですか?」

「小さすぎる魚とか、網の中で傷ついて、姿では商品価値が落ちたものは、こちらに持ち込んでいないんです」

「是非見せてください!」


ぞろぞろとついていくと、そこは加工場だった。


「ここで、加工用にさばいています」


名前の分からない魚や、小魚が大量に有った。


「白身魚の擂り身があるわ!」

「そちらは、竹輪や蒲鉾に加工する魚です。皮を剥いで3枚下ろしや5枚下ろしにし、冷水で血や油を良く洗い流してから、擂り身にします」


「伊達巻を作りたくて、白身魚を探していました」

「でしたら、擂り身になったものをお売りしましょうか?」

「どうしよう。それはとても楽だけど、リラちゃんに擂り身も教えないと、次作れないわよね?」

「擂り身にする方法を別で教えていただければ、問題ないかと思います」


そんなやり取りをしていると、出来上がった擂り身を引き取りに来た練り物屋に声をかけられた。ユリを知っているらしい。


「これは、ハナノ様。もしよろしければ、蒲鉾を作るところを見学にいらっしゃいませんか? お料理屋さんをされているとうかがっております。ご興味はございませんか?」

「是非!」


ユリが食いぎみに返事した。


「私も見たいです!」

「私も見たいにゃー!」

「へぇ。俺も見てみたいかも」

「キボーも、キボーも」


加工場で、持ち帰る分の擂り身を分けて貰い、それを杖でしまって、蒲鉾屋について行った。


工房に入る前に手を洗い、割烹着を渡された。ユリはそれを断り、杖を振って自前の割烹着を取り出し着替えた。


キボウは渡された割烹着を着てみたがダボダボで、脱いで返し、何をするのかと思えば、背負っていたリュックサックから自分用の割烹着を取り出し着替えていた。これは、アルストロメリア会から寄贈されたものだ。キボウは、割烹着と白衣の双方を貰っている。


ユリとキボウが自前を着たのを見て、リラが悔しがっていた。


「高級蒲鉾には、鯛を足したりするんですが、普通の蒲鉾と竹輪は、材料的には同じものです。先ほどの擂り身に塩を加え、良く練って使います」


説明を受けながら、職人がいる場所まで案内され、職人たちに紹介された。


「こちらのお客様に、作り方を紹介するように」

「わかりました」


案内してくれた人は誰かから呼ばれて席をはずしたので、最初はおとなしく見学していた。


「あ、板に盛り付けてる!」

「ケーキみたいにゃ」

「ちゃちゃんむし!」


蒲鉾型になり、キボウが、蒲鉾を認識したらしい。


「簡単そうに見えますが、何年か修行が必要なんですよ」

「蒲鉾って、ああやって作るんだなぁ」

「ユリなら出来そうにゃ」

「確かに、ユリ様なら簡単に作りそう」

「んー、やってみないと分からないけど、出来ると思うわ」


ユリの言葉に、作れる訳ないだろうと思ったらしい。


「でしたら、皆さん作ってみますか?」

「是非!」

「私も作りたいです!」

「私もやってみたいにゃ!」

「キボーも、キボーも」

「俺は見学で」


ソウは断っていたのに、ソウの分まで用意されていた。


杉板に、練った蒲鉾の材料を盛り、蒲鉾型に整え、蒸して出来上がる。まずは、職人が見本を見せてくれた。


「最低、5年は修行しないと、綺麗な蒲鉾型にはならないよ」


パレットナイフに似た道具で、板の上に材料を盛り付け、形を(なら)すのだが、初心者には高さが揃わないのだ。全体が山のような形になり、切りはじめと途中の高さが違う蒲鉾が出来上がる。


ところがユリはあっさり綺麗な蒲鉾型に仕上げてしまった。


「お嬢さん、作ったことがあるのかね?」

「いえ、今日初めて作りました」

「え、えぇぇぇ」


褒めるより、むしろドン引きぎみだ。

そして、リラもあっさり、綺麗な形に作って見せた。


「私も出来ました!」

「嬢ちゃんは、何度目かだよな?」

「私も初めてです!」


ユメとキボウは、職人たちが想定する初心者だったらしく、変に安堵した表情を見せていた。


「どういうことなんだ!? 何で角が出来るんだ!」

「普段ケーキを作っているので、こういった作業に慣れているのかもしれません」

「あ、そういうなにかなんだな。そうだよな。あーよかった」


無理矢理納得したらしく、次は竹輪をと、行程をすすめようとしていた。


「ユリ、仕上げてくれ」


ソウが降参し、どうしても蒲鉾型にならないものをユリに渡してきた。


「私が直しちゃって良いの?」

「このままじゃ蒸せないだろ?」


確かに、同時に仕上げないと、蒸して貰えないだろう。


「わかったわ」


ユリは少し盛り直し、パレットナイフのような道具を杉板に擦り付けるように形を整え、端はナッペの技術を使い、綺麗に処理した。


「出来たわよ」

「上手いもんだなあ」

「ケーキに綺麗にクリーム塗るのと一緒なのよ」

「成る程なあ。だからリラも出来るのか」

「たぶんそうね」


蒲鉾は少し置いた後、蒸し器で蒸してから渡して貰えるらしい。


「では、竹輪は、台の上に、このように擂り身を伸ばし、この棒に巻き付けるかたちで巻き取ります」


擂り身を広げる大きさを示され、竹で出来た棒を渡された。広げる大きさは、竹の2回りほどで、これはすぐに出来上がり、すぐに焼いて貰えるらしい。


意外なことに、ユリやリラよりも、ユメとキボウの方が早く仕上げた。


「出来たにゃ!」

「キボーも、キボーも!」


2人は手に持って喜んでいる。焼く係が受け取り、すぐに焼き始めた。


どうも、ユリとリラは丁寧に綺麗に伸してしまい、重なる部分が上手く付かずに、巻きが緩んでずれてしまうらしい。


「俺も出来た!」


ソウにまで先を越され、ユリとリラは焦って仕上げた。


「なんとか出来たわ」

「蒲鉾よりも難しかったです」


ユリとリラが手間取ったことに、蒲鉾職人たちが安堵していた。


竹輪は、焼き鳥の焼き台のような、向こうと手前に棒が引っ掛かる場所がある器具の上で、転がしながら焼き、あの独特の焼き模様がついて焼き上がった。


「熱いうちに食べてみると良い。旨いぞ」


竹の棒がついたまま渡され、ユメとキボウがそのままかじりついてみた。


「熱いにゃー」

「おいしー! おいしー!」


次にソウが渡された。


「旨いな」


やっとユリとリラも渡された。


「美味しい!」

「出来立て、初めてだわ」


フーフーと冷ましていたユメも、やっとかじりついて、美味しいと喜んでいた。



「蒲鉾はもう少し時間がかかりますので、よろしければ、売店の見学をどうぞ」


案内をした人が戻ってきて、少し離れた店に連れていってくれた。


店では、おでん種などの、練り物製品全般を販売していて、棚には、はんぺんや伊達巻も並んでいた。


「はんぺん、売っているのね」

「あー、でも、このはんぺん、ユリの想定するはんぺんより、蒲鉾に近いかもな」

「艶の感じからすると、そうみたいね」


「何が違うんですか?」

「まあ、配合だと思うけど、もっとふわふわな感じなのよ」

「ふわふわのはんぺん。どんなのだろう?」


ユメとキボウが、なにか食べながら戻ってきた。


「ユリ、あれ買ってにゃ」

「かうー、かうー!」


何かと思って付いていくと、揚げ蒲鉾らしきものの試食をしたらしい。


「どれが欲しいの?」


ユリの問いに悩むユメとキボウに、お店の人が声をあげた。


(たこ)烏賊(いか)、ひじき、青海苔、芋だよ」


指を指しながら教えてくれた。


「ソウとリラちゃんも食べる?」

「1つ食うか」

「いただきます!」


「俺、イカで」

「たこにするにゃ!」

「キボー、みどりー」

「何かおすすめを!」

「私はお芋にしましょうかね。キボウ君は青海苔で、リラちゃんはイカが美味しいと思うわよ」

「それにします」


「タコ、青海苔、お芋を1つずつ、イカを2つ下さい」

「今食べるかい? 持ち帰るのかい?」

「今食べます」

「なら、揚げたてを用意するから、少し待っててくださいね」

「ありがとうございます」


店内にテーブルと椅子があり、そこに座って待っていると、お茶と一緒に揚げたての大きな揚げ蒲鉾が運ばれてきた。


皿の方に蛸や烏賊の絵が描いてあり、緑色の皿が青海苔で、真っ白な皿が芋らしい。


「分かりやすいわね」

「ひじきの場合、黒い皿か?」

「そうかもしれないわね」


美味しいと皆が満足しながら食べた。芋は、ジャガ芋だった。


「売り切れだったものは、何だったんでしょうか?」

「紅生姜にゃ。試食を貰ったにゃ」

「赤い皿か」

「そうね。それも美味しそうね」


食べ終わり談笑していると、まだ少し温かい出来立て蒲鉾を届けてくれた。経木(きょうぎ)と熊笹に包まれている。


「あ、笹だ! この木みたいなのは何ですか?」

「これは、経木。杉とか(ひのき)とかを薄く削って作るのよ。元々はお経を書く為の木だったから、経木と言うらしいわ。お刺身の魚を買ったときに、くるまれていなかった?」

「本当に木なんだ! え、うーん、薄い木の包み、見たこと有るような無いような」


「ユリー! ちゃちゃんむし、つくるー!」

「キボウ君、茶碗蒸し食べたいの?」

「あたりー!」

「では、帰って、伊達巻と茶碗蒸しと、色々作りましょう」

「手伝うにゃ!」

「てつだう、てつだうー!」

「わあ、久し振りー」


案内の男性は、話を聞いていたようで、声をかけてきた。


「ハナノ様、百合根と椎茸と三つ葉もお持ち帰りになられますか?」

「有るんですか?」

「はい。少しお待ちください」



こうして材料も無事に手に入れて、色々作るのだった。もちろんキボウ用には、栗の甘露煮を入れて茶碗蒸しを作ったのだった。

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