表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

681/689

本格

「ユメちゃん、何かしたいこととかある?」


お昼ごはんのあと、手の空いたユリが尋ねた。


「おうちのピザが食べたいにゃ。ユリが作れるってソウが言ったって、日記に書いてあったにゃ」


日記に載っていたピザとは、餃子の皮で作ったミニピザのことかしらとユリは考えていた。


「その日記には、他に何て書いてあるの?」

「ユリがいなくてにゃ、ソウとキボウと一緒にピザを食べたにゃ」


当然、ユリには思い当たることがない。


「ソウ、何のこと?」

「酒配ったときに、王都で食べたんだよ」

「てことは、本格イタリアン?」

「まあ、そうだな」


アルストロメリアではピザトーストを出しているが、ケチャップしか使っていないので、本格的なピザを作るなら、生地やソースを作らないとピザが作れない。


「今から準備して夕飯に食べるのでいい?」

「手伝うにゃ!」

「キボーも、キボーも!」

「俺はどうすれば良い?」


「生地とソースの材料はほとんどあるけど、上に乗せるトッピングがないのよ。ユメちゃんと相談して買ってきてもらえる?」

「モッツァレラチーズとか?」

「うん。そういうの。生バジルもないからね。私はトマトソースとピザ生地を作るから、よろしくね」

「了解」


「あ、リラちゃんにも聞いてみましょう」

「リラを泊めても良いにゃ?」

「リラちゃんの都合が合うなら構わないわよ」


昨日のリラは、悩むユリのために皿うどんを提案したのだ。知らない料理も教える必要があるだろう。


手分けをしたのか、なんと、ソウとユメが具について相談している間に、キボウがリラを連れてきた。


「ユリ様!ピザを作るって、キボウ君から聞きました!」

「ユメちゃんのリクエストでね。ピザトーストではない、ピザを作るから、リラちゃんもどうかなって思ってね」

「お声がけくださり、ありがとうございます!!」

「作るのから関わる?」

「勿論です!」


リラはちゃんとエプロンを持参してきていた。


「あと、キボウ君が伝えたか分からないけど、もし予定が大丈夫なら、泊まっていってね。これはユメちゃんから頼まれたのよ」

「ありがとうございます!」


ユメはソウとの話が終わったのか、作るのを手伝うつもりらしい。


「ユメちゃん、キボウ君は?」

「キボウは、ソウと何か話してたにゃ」


どうやらキボウは、そのままソウについていったらしい。キボウ君って、国の外に出られるのかしら?と、ユリは不思議に思っていた。


「では、始めましょう。強力粉、薄力粉、塩、水、ドライイーストを用意します」

「はい」「わかったにゃ」


リラとユメが、材料を用意していく。ユリは器具の準備をした。


「粉は混ぜてふるいます。ドライイーストにぬるま湯と砂糖ひとつまみを入れて、溶かします」


ユメが粉をふるい、リラがドライイーストに砂糖とぬるま湯を入れて溶かした。


「粉に塩を加えて、分量の水の95%と、発酵したイーストを加え、手につかなくなるまでこねます。たくさん作るなら、ミキサーをフックに変えて混ぜると良いです」

「95%で、残りはどうしますか?」

「固さの調整に使ったりしますが、今回はぬるま湯で発酵させたドライイーストなので、たぶんその水は使いません。生イーストで仕込んだときや、ぬるま湯溶きしない配合のときは、その水が全部入ると思います。パン類のレシピの水は、5%くらい調整のつもりにすると作りやすいと思うわ」

「ぬるま湯溶きするのとしないのの差はなんですか?」

「夏ならそのまま加えても良いけど、冬は寒くて発酵しにくいからね。ちなみに、ひとつまみの砂糖は、イーストのためのご飯のようなものです。発酵を促進させます」

「味のため以外に、砂糖が入るんですね!」


ユメとリラがこね始めたが、ユメがパワー不足で、途中でユリに交代した。


「まとめたらボールに入れて、ラップフィルムか、固く絞った濡れ布巾をかけ、南向きの窓辺などの暖かい場所に置くか、加湿したホイロで発酵させます。家庭で冬に作るなら、低温の炬燵(こたつ)に入れると良いです」

「こたつ?」

「2階にあるから、あとで見ると良いわ」

「はーい」


簡単に片付け、次はトマトソースだ。


「カットトマト缶、玉葱(たまねぎ)大蒜(にんにく)、塩、コンソメを用意します。玉葱と大蒜は微塵切りにして、オリーブオイルなどで香りが出るように炒めます。トマトと塩とコンソメを加え、焦がさないように煮詰めます。粒々な感じでよければそのままで、滑らかにしたい場合は、ミキサーなどで撹拌します」


ユメが缶詰を開け、ユリとリラが野菜をみじん切りにした。


「ケチャップも、こんな感じに作るんですか?」

「ケチャップは、もっと入る物が多いと思うわ。たしか、お酢とかお砂糖とかスパイス類も入れるはずよ」

「あ、確かに。ケチャップって、少し酸っぱいですよね」


少し深めの鍋に入れ、ユリが焦がさないように混ぜていた。


「ユリ、混ぜてみたいにゃ」

「ユメちゃんどうぞ。跳ねるときがあるから気を付けてね」

「わかったにゃ」


ユメは軍手をして肌を露出しないようにして、鍋を混ぜ始めた。


「ユリ、ただいま」

「ただいま、ただいまー」

「ソウ、キボウ君、おかりなさい」

「おかえりにゃ」

「おかえりなさいませ」


「ピザ用チーズ、クワトロミックスチーズ、モッツァレラチーズ、生バジル、ペパロニ、チョリソー、オレガノ、アンチョビ、マッシュルーム、生ハム、鶏もも肉を買ってきたよ」

「ソウ、ありがとう。鶏って、照り焼き?」

「うん。そのつもり」

「うふふ、わかったわ」


ユリが笑ったことを、ユメとリラは不思議に思ったらしい。


「ユリ、何が面白かったのにゃ?」

「テリヤキチキンだけ、本場のピザじゃないのよ」


本場の定義にもよるが、「pizza(ピッツァ)」ではなく「ピザ」と仮名で言っている時点で、本場でもなんでもない。


「本場にこだわるより、ピッツァは旨い方が良いだろー?」

「美味しいのが良いにゃ!」

「はい!美味しいが一番大事です!」

「おいしー、だいじー!」

「はいはい。ちゃんと作るから安心してください」


いつのまにか、トマトソースを混ぜるのは、リラに交代していた。


「トマトソースは、そのくらいで良いわ」


ソウが持ち込んだ、ハンドブレンダーで撹拌した。


「ユリ様、それ、なんですか?」

「ハンドブレンダーという道具で、ミキサーの刃の部分だけのような器具ね。お店には使っていないから、初めて見たわよね」

「ミキサーを洗わなくて良いのが良いですね!」

「そうね」


ユリは鶏肉を取り出した。


「テリヤキチキンは、あなたが知っているテリヤキチキンだから、特に説明はしないけど、他のピザについて、先に勉強しましょう」


ユリがテリヤキチキンを作っている間に、ソウにピザの種類について、説明してもらった。


ソウは、何種類かを説明していた。

マルゲリータ(トマトソース、モッツァレラチーズ、生バジル)

マリナーラ(トマトソース、アンチョビ・オレガノ・オリーブオイル、ニンニク)

パルマ(トマトソース、生ハム・ルッコラ・モッツァレラチーズ)

クワトロフォルマッジ(モッツァレラチーズ・ゴルゴンゾーラ・パルミジャーノ・ゴーダチーズ&あとがけ蜂蜜)

テリヤキチキン(溶けるチーズ、テリヤキチキン、照り焼きのタレ、マヨネーズ)


どこから持ってきたのか、ピザ屋のチラシらしきものを見せながら説明していた。


「テリヤキチキンが出来たわ。具材を適度に切ったら、ピザ生地をのしましょう」


ペパロニや、マッシュルームをカットした。

生地は発酵し、パンパンに膨れていた。


「凄いにゃ」

「大きくなった!」


ユメとリラが大興奮だ。


「これを潰して、まとめて、1つずつの重さに切り分けますす」


ユメとリラがやりたがったので、任せた。


「全員参加で生地を伸しましょう」


ユリが少し笑い、ソウにも生地を手渡した。


「え、俺も作るの?」

「せっかくだから、1枚作ってみたら?」

「あ、うん」


キボウはニコニコして、生地を受け取っていた。

取り合えず、残りの全ての生地をユリとリラが素早く丸め、固く絞った濡れ布巾をかけた。


「麺棒でも手でも良いので、丸く平たく伸します。ある程度薄くなったら、そのままでも良いけど、やってみたい人だけ挑戦してください」


ユリは、親指、人差し指、中指の3本だけを広げてたて、その上に生地をのせ、手首をクルッと捻り、生地を高く飛ばした。

落ちてくる生地を手のひらでキャッチし、何度か繰り返した。生地は、遠心力で更に薄く伸び、平たく大きくなっていく。


「うふふ、こんな感じよ」

「うわー! 凄ーい!」

「ユリ、凄いにゃ!」

「すごーい、すごーい!」

「俺、無理」


ソウは以前も見たことがあったらしく、やる前から諦めていた。


「気の済む厚さに伸ばしたら、好きな具をのせてね」


ユリはソウの分まで生地を伸し、天板にのせ、ソウに渡した。笑顔になったソウは、持っていた生地をユリに返し、好きに具を並べ始めた。


「うわ、穴空いたー!」

「飛んでったにゃー」

「キボー、できたー」


え?と全員が振り向くと、きれいに伸びた生地をキボウがユリに渡した。ユリはその生地を天板にのせた。


「キボウ君、凄いわね! 好きな具をのせてね」

「わかったー」


キボウがトマトソースをたっぷり塗って、好きな具をのせていた。


「キボウ君に負けたー」

「キボウ凄いのにゃー」

「失敗した生地は丸めて、他の生地で作ってみて」


リラとユメは生地を交換し、伸していた。


「1人あたり5枚分あるから、色々作って食べてみると良いわ」


2枚目を作るキボウを見て、皆が気づいた。

魔法で飛ばしている!

ユリの技術力と違い、安定して空中で回していた。


「あー、以前見たわ。眠っているリラちゃんを空中で回転させてたわ!」

「え、私、空中で回ってたんですか?」

「ほら、足を痛めた時、本読みながら机で寝ちゃったでしょ?」

「あー!あの時。そういえば、なんで休憩室に布団で寝ていたんだろうと不思議でした」

「キボウ君が魔法で運んでくれたのよ」


リラは、慌ててキボウの前に来た。


「キボウ君、あの時はありがとうございました!」

「よかったねー」


ユリほどは無理でも、本人が納得できる程度には伸せるようになり、リラもユメも楽しくピザを作って食べたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ