餅搗
去年の年末と同じく、餅つきをする。
今回は参加希望者が多いので、人手は充分なのだ。
「おはようございまーす!」
「おはよう。あなた、もう手伝うの?」
「勿論です!」
リラが朝7時に突撃してきた。
「私はこの後、朝ご飯を食べてから本格的に始動する予定よ」
「はい。大根を磨り下ろしたり、きな粉に砂糖を混ぜたり、オゾーニの具材を切ったりしておきます」
「御雑煮は、食べられるの?」
「スープとしていただく予定です!」
「磨った黒胡麻にもお砂糖を混ぜておいてちょうだい」
「はーい」
ユリは、塩漬け桜花の塩抜きをしていたところだった。尚、餡は昨日のうちに炊いておいた。あとは、乾燥ヨモギをふやかそうとしていたところに、リラが来たのだ。
皆の集合は9時の約束なので「8時頃来てくれるとありがたいわ」と話した覚えがある。やはりリラの家の時計は狂っているのではないだろうか?とユリは本気で心配していた。
乾燥ヨモギをボールに入れ、湯を注ぎ、しばらく置いてしっかりふやかす。ユリが作業していると、リラが覗きに来た。
「ユリ様、それはなんですか?」
「これは、乾燥ヨモギよ。草餅の材料の草よ」
「あ、これって、専用の草があるんですね」
「何だと思っていたの?」
「ガーランドクリサンセマムかなって」
「え?」
ユリが分からないでいると、ちょうど階段を下りてきたソウが答えてくれた。
「ユリ、春菊だよ」
「あ、春菊。んー、見た目は似た葉っぱだから、近いと言えば近いかもしれないけど、別種ね」
「そっかあ。花梨花様が、天ぷらを作ってくださったときの葉っぱに似てるなぁ。て思っていました」
「まあ、代用で、作れないこともないらしいけど、入手の困難さは、変わらなくない?」
「あはは、確かに!」
ソウは、ユリの戻りが遅いので、呼びに来たらしい。
ユリは、ふやかしたヨモギを裏漉し器で濾し、集めて固く絞った。割りと粉状だったので、このまま使う予定だ。乾燥状態がカットされていないものなら、絞った後に包丁で細かく刻んでから使用する。かなり細かくしたつもりでも、ヨモギは繊維が残る。
「それじゃあ、私は朝ご飯を食べてくるから、適当に休みながら、あまり頑張りすぎないようにね」
「はーい」
ユリはソウと一緒にリビングに来た。すでに朝ご飯が用意されており、食べるだけになっている。
「お待たせしました」
「リラ、もう来てるのにゃ?」
「そうなのよ。私は8時って伝えたはずなんだけどね」
「リラの家の時計は1時間進んでるのにゃ?」
「うふふふふ、私も同じこと思ったわ」
ユリとユメが笑っていた。
「リラは、実家の方から来てるんじゃないのか?」
「そう言えば、昨日本格的に引っ越しをしたはずだから、そうね」
リラは、マリーゴールドが居るうちは、ベルフルールの上に住んでいたが、マリーゴールドが嫁いで退職したため、完全に兄夫婦(グラン&シィスル)に譲るため、実家に戻ると話していたのだ。
朝ご飯を食べ、厨房に戻ると、リラは隅で咳き込んでいた。
「コンコン、ケホケホ」
「リラちゃん、大丈夫? 風邪引いたの?」
「あ、すみません。昨日の晩から実家なのですが、布団を持って行かなかったので、家に有る布団を使ったら、埃っぽかったみたいで」
ユリは、喉飴を探そうと思ったが、最近舐めた記憶がないので、有っても使用期限切れだろうと、諦めた。
「大根はもう磨った?」
「はい」
ユリは大根おろしのたまっている汁だけを、茶漉しを使って少し取り分け、蜂蜜と混ぜた。
「民間療法だけど、喉に良いらしいから飲んでみて。甘すぎるなら水で薄めると良いわ」
「はい」
リラは素直にそれをそのまま飲みほした。
「あれ、何だか、喉が楽になった気がする」
「本当は、切った大根を蜂蜜に漬けて作るんだけど、すぐ欲しいときは、磨り下ろしと蜂蜜を混ぜるのよ」
「切った大根を蜂蜜に漬けて作った場合、残る大根はどうするんですか?」
「酢と砂糖を加えてそのまま漬ければ、甘酢漬けになるわよ。他の漬け物にも使えるからね」
「凄い! 捨てるところなし!」
「ふふ、そうね」
ユリは、リラを少し休ませ、御雑煮を仕上げ、お湯を沸かし始めた。
8時頃、シィスルとリナーリとイポミアがやって来た。
ほとんど終わっている準備に、リラを見て呆れていた。
「ユリ、何か手伝うにゃ」
「キボーも、キボーも!」
「外に、折り畳みテーブルをいくつか設置してください。厨房に入れない人がたくさん来るので、基本、作業は外か店内になります」
「移動暖炉持ってくるにゃ!」
「手伝います!」
今日はお天気が良く、外はかなり明るく気温も暖かだ。
1回目分の餅米を蒸し始めると、8時半よりも前に、王都組のメンバーがやって来た。
臼と杵の持ち主のヒサシ・ハナダ(焼き鳥・串焼き)と、医師のカイト・サトウだ。
すぐ後から、パープル領のメンバーの、イチロウ・モリ(和食・川魚料理)、ジン・ハヤシ(焼き肉・弁当)、マコト・コバヤシ(ラーメン・中華)の森林コンビと、リツ・イトウとカナデ・サエキもやって来た。
男性参加者がソウを含め8人も居るので、今回は合いの手に移ってくれると言う話もあったが、ユリとリラの他、シィスルが挑戦してみたいと名乗りをあげているので、何とかなるようだ。今回は、20升の予定なのだ。餅つきにして10回分だ。気合いを入れて進行しないと、夕方までに終わらない。
味見だけ参加したい人には、11:30頃来るように伝えてある。
餅米が蒸し上がり、1回目の餅つきが始まった。ハナダとモリが杵を持ち、ユリが合いの手をする。リラは2度目だが、シィスル、リナーリ、イポミアは初めて見た為、「これ、手伝えるんだろうか?」と、悩むのだった。
◇ーーーーー◇
蒸上り
09:00 のし餅×2(1枚約2kg)
09:40 のし餅×2
10:20 のし餅×2
11:00 のし餅×2
11:40 12:15頃から試食、鏡餅~13:00迄
13:10 鏡餅1升、のし餅×1
13:50 桜花×6(5本約700g 残り試食)
14:30 桜花×6
15:10 ヨモギ×6(5本約700g 残り試食)
15:50 ヨモギ×6 出来上がり16:20予定
◇ーーーーー◇
ユリが予定表を貼り出した。9:40蒸し上がりの餅米は、リラが合いの手をして、無事に、のし餅になった。
10:20蒸し上がりの餅米は、シィスルが名乗り出て、おっかなびっくりながらも、合いの手をやりとげた。終わった後、しばらく折り畳みテーブルに突っ伏して伸びていた。
11:00蒸し上がりの餅米は、リナーリが頑張ると名乗り出たが、途中でイポミアに交代し、イポミアは最後までやりきった。
11:40蒸し上がりの餅米は、ユリが再び合いの手をし、順調に出来上がり、試食用に半分程を色々な味付けにちぎって分けた。
御雑煮、あんこ、きな粉、すり胡麻、大根おろし、焼き海苔を用意したため、皆好きなものを選んで食べていた。
ユリの予定では、1升分の餅米(餅にして2kg越え)で、足りるつもりだったが、試食のみの従業員が、ほぼ全員来て、慌てて残りの餅も小さめにちぎり、餅米2升分(餅にして4kg越え)を皆で食べきってしまった。
「ハナノさん、どうする?」
「うちの分の、のし餅1枚分で清算で」
「了解した。なら、次のは、全部鏡餅だな」
リラが合いの手をし、餅が出来上がり、全て鏡餅として整形する。
アルストロメリアは、1月全休業なので、鏡餅は作らなかった。
ハナダが去年と同じく1升サイズの鏡餅を作り、残りを希望者で分けた。
シィスルはリラに教わりながら、ベルフルールに飾る小さな鏡餅を作っていた。
再びシィスルが合いの手をし、出来た餅に塩抜きした桜を混ぜ、重さを量りながら分けた。5つをなまこ餅にし、残りを食べたい人に分けた。20個程に切り分け、海苔を巻いたり、そのまま食べたりした。
皆「美味しい」と喜んでいた。
次は、イポミアが最初から合いの手をし、最後までやりきっていた。その餅も桜花餅にし、同じように分けた。
次にユリが合いの手をしようとしたら、リナーリが再び挑戦したいと申し出た。無理そうならリラが引き継ぐと言うので任せると、頑張って最後までやりきっていた。これは最初からヨモギを混ぜてつく、よもぎの草餅だ。
量って分けた5つをなまこ餅にし、残りをきな粉にまぶして配った。初見の人たちは、抹茶味だと思って食べたら違ったと驚いていた。
最後は、リラが合いの手をし、やはり同じように餅を分け、試食も配った。従業員の皆は、草餅の正体が分からないまま美味しいと食べていた。
餅をついたメンバーは、のし餅を1枚、桜花餅と草餅を1つずつ受け取ることになる。
10個ずつ出来た桜花餅と草餅は、ユリが3つずつ受け取り、のし餅もソウの分として1枚受け取った。
手伝ったリラ、シィスル、リナーリ、イポミアに何が欲しいか尋ねると、今まで見たことがない、料理になったものが食べたいと言い、餅は辞退された。
ユリが話している間に、ソウとキボウが、餅ごと送り届けたらしく、気が付くと誰も残っていなかった。
「あら、残っているのは、私たちだけなのね」
「そうみたいですね」
「あなたたちの都合が良いのなら、今から何か作りましょうか?」
「はい!私は大丈夫です!」
「私たちも大丈夫です!」
リラとイポミア&リナーリ姉妹は大丈夫らしい。
「私は、グランさんに聞かないと」
シィスルが悩んでいると、リラが兄に以心伝心を送ったらしい。
「シィスル、勉強なら頑張ってくるように、だってさ。あはは」
すぐにシィスルも確認したらしく、問題無いようだ。
「さて、何にしましょうか。リラちゃんも知らないものっていうのは、難しいわね」
ユリは、たこ焼きかピザでも作ろうかと考えていたが、8人前作るのは大変そうだなと悩んでいた。
「ユリ様、皿うどんが食べたいです!」
「あなた、それで良いの? 食べたこと有るわよね?」
「はい」
リラの発言に、シィスルやイポミアが「食べたい!」と同意していた。
「ちょっと、材料を揃えてくるわ」
ユリは、転移して買い物に来た。無人スーパーで手早く必要なものを購入し、ソウに作ってもらった認証キーで支払った。タッチ決済のような仕組みだ。
ユリは急いで戻り、早速調理を開始した。
リラは一度作っているので勝手をわかっており、シィスルやリナーリに指示を出し、野菜を切っていた。
「イポミアさん、調理する?」
「はい! 私も調理したいです!」
「では、私が茹でた素麺を、このくらいの束にまとめてください」
「はい!」
皆で皿うどんを作り、シィスル、リナーリ、イポミアが、物凄く喜んで食べたのだった。そしてなぜか、ユリはフルーツ飴を作ることが決定していて、今日も作るのだった。




