外出
「ユリ、クリスマスにシャツありがとう」
「うふふ昨日も聞いたわよ。ソウも髪留めありがとう。昨日は汚れるからか誰も着なかったわね」
ソウがユリにお礼を言うと、ユメが驚いていた。
「あのシャツはクリスマスプレゼントにゃ!?」
「お揃いで作ったのよ」
「作ったのにゃ!? もしかして、一緒に置いてあったマフラーはソウからにゃ?」
「俺からは、ユメとキボウにマフラーを用意したよ」
ユメは部屋に、取りに行った。
「なーにー?」
「クリスマスプレセントだよ。去年、ユリから帽子とカーディガン貰っただろ?」
「キボーの?」
キボウは、どこにあるかわからない様子だった。
「リビングの端にあるミニタンスに、キボウ君の物はしまってあるわよ」
ユリが説明すると、キボウはミニタンスを見に行き、カーディガンを引っ張り出していた。キボウが作っていた折り紙やプラバンなどもそこにしまってある。
シャツとマフラーを持ってきたユメは、改めてユリとソウにお礼を言っていた。
キボウが衣類を頭上に投げ、シャツとカーディガンと以前渡したオーバーオールに着替えた。それを見たユメも、部屋に戻り、着替えてきた。
「あとで、みんなで何処か出掛けるか?」
「出かけるにゃ!」
「でかける、でかけるー!」
「なら、そうしましょう」
ユリとソウが部屋に行き、取り合えず仕事で出かける準備をして戻ってきた。ユリは髪を結いあげ、聖女の正装だ。
「早めに帰ってくるからな」
「ちょっと待っていてね」
「わかったにゃ」
「わかったー」
ユリとソウは、ソウの部屋から転移陣まで転移した。
「ハナノ様、ホシミ様、お待ちしておりました」
「ご苦労様です」
「毎度任せちゃって、悪いな」
パープル侯爵が待っていた。
「ソウ、来たか」
「カナデ、結局何人だ?」
「ソウが言った通り伝えたけど、どうしても帰りたいと言ったのは、3人だ」
「了解。カナデ、ありがとう」
事前に通達したのは、今回の戻りは、1月7日(土)に迎えの予定だが、恐らく2月1日(水)になる可能性が高い。それでも行きたい人だけにして貰ったのだ。
◇ーーーーー◇
ダイゴ・サカキバラ(ピザ・ジェラート)
ススム・タケシタ(お好み焼き・焼そば)
タイキ・マツモト(漢方薬師・看護師)
◇ーーーーー◇
「この3人だ。理由は、仕入れらしい」
カナデ・サエキから、メモを渡された。
「私はソウ君を待っているよ」
「あー、はいはい」
見送りに来ているリツ・イトウに対し、ソウの態度は今日も冷たい。ユリは苦笑し、カナデ・サエキはいつもの事に呆れていた。
理由も伝えてはあるが、ユリの口から予定をしっかり伝えることになった。
「今回、戻りの迎えが1月中に出来ない恐れがあります。それでも、1月7日土曜日に、向こうの集合場所には一旦集まって貰います。その日に迎えが来なかった場合、2月1日水曜日に、再度集まってください。この日は確実に私が迎えに行きます」
希望者が舞台に上がり、揃ったところでユリが最後に舞台に上がり、呪文を唱えた。
「イタアシアヘク・イルバヰアッケキ・オデイナクヌュス」
景色が変わり、ソウビたちが待っているのが見える。
ソウがソウビに再度予定を確認し、ユリが迎え分まで先払いしてパウンドケーキを支払った。
「ハナノ様、無事なお帰りをお待ちしております」
「え?」
今日は、女王として挨拶されたらしい。前回5年かかったことをソウビは心配しているのだ。
「無理難題を頼みに行く訳じゃないから、遅くとも1か月後には帰ってきます」
「はい」
「ソウビさん、今回もよろしく頼みます」
「ソウビさん、よろしくお願いします」
「お任せください」
ソウビに挨拶したあと、ユリとソウは、国内の転移陣に戻ってきた。
「パープル侯爵、馬車で帰る? 転移して帰る?」
「テントの片付けがございますので、馬車で戻る予定でございます」
「毎度ありがとう。次回もよろしくな」
「かしこまりました」
ユリとソウは、家まで転移で戻ってきた。1度リビングに顔を出す。
「ただいまー。着替えてくるわ」
「ただいま。俺も着替えてくる」
「お帰りにゃー」
「おかえり、おかえりー」
ユリとソウは、ユリが作ったシャツとカーディガンを着て、リビングに集合した。
「みんなお揃いにゃ!」
「おそろい、おそろいー!」
「みんな良く似合ってるぞ」
「喜んでくれて、良かったわ」
ユリは珍しく髪を下ろし、ハーフアップにして、ソウから貰った髪飾りをつけている。
「北に氷像を見に行くか、スケートかスキーをしに行くか、南に泳ぎに行くか、花を見に行くか、西に工芸品の冬の市を見に行くか、東に冬山ピクニックに行くか、何処か行きたいところはあるか?」
「南の花って、以前行ったところ?」
「いや、何か背のデカイ花が今咲いているらしいよ」
「それ、見に行くにゃ!」
「はなみる!はなみる!」
ソウは何かを思い出したらしい。
「提案しておいて何だけど、この服装だと暑いかも」
「なら、目的の花を見たあとは、他に行きましょう」
「そうするにゃ!」
「そうする! そうするー!」
ソウはキボウを連れ、転移していった。すぐに戻ってきたキボウが、ユリとユメを連れ、転移した。
「うわ、初夏の陽気ね」
「だいたいこの時期でも15~20℃有るらしいからな」
「上着は脱ぐのにゃ」
「うわぎー」
ユリは、ユメとキボウから脱いだカーディガンを預かった。
「花はどこにあるのにゃ?」
「上にあるぞ」
皆で上を見た。いや、見上げた。節の有る太い茎、まるで竹のように高く伸びた植物。
「竹のごとく高いのね」
「みえなーい」
上の方にたくさん花がついているのは見えるが、遠すぎる。
「8~10mくらいになるらしいよ。日本だとせいぜい3~4mだよな」
「少し高い所から見渡せると良いわね」
「丘の上の展望台から見れば、高すぎず低すぎず、ちょうど良いかもな」
少し移動して、丘の上に有る東屋に来た。
ガゼボと言うより、東屋という表現がぴったりな感じのシックな建屋だった。
「なんて花なのにゃ?」
「皇帝ダリア」「木立ダリア」
ユリとソウが違うことを言った。
「何て言ったのにゃ?」
「ソウが言ったキダチダリアが日本での正式名称で、コダチダリアやコウテイダリアとも呼ぶのよ」
広げた手のひらよりも大きな花で、ピンク色に近い薄紫色の花びらで、一重の花と八重の花の種類がある。ここにはないが、違う花色も存在する。
「凄いのにゃ。大きな花なのにゃ」
「知ってる皇帝ダリアよりも、花がたくさん咲いているわね」
「どっさり咲いている感じだな」
ユメがキョロキョロしていた。
「キボウは、どこに行ったのにゃ?」
「え?」
「本当に居ないな」
みんなでキョロキョロ探してみたが見当たらない。
「キボウくーん」
「キボウー」
「キボウどこにゃー?」
パッとキボウが転移で現れた。
「なーにー?」
「どこに居たのにゃ?」
「はな、みるー」
「座らなくて良いのにゃ?」
東屋を見回すと、ニコッと笑って座っていた。
「まだ少し早いけど、お昼ごはん何か食べる?」
「次行く予定のところは、たぶん寒いから、花見ながらならここが良いぞ?」
「食べるにゃ!」
「たべる、たべるー!」
ユリはおにぎりとサンドイッチを取り出し、皆に選ばせた。
おにぎりは重箱に入っていて、くっつかないようにオーブンシートで仕切られた小振りなものが並んでいる。少しだけ上に具がのせてあり、中身がわかる。1帖を6切りした大きさの海苔を添えてあり、パリパリ海苔を巻きたい人に用意してあるのだ。
サンドイッチの入れ物と、おにぎりの重箱ごとユメとキボウの間に置き、ユリとソウが取りに行くかたちにした。
両手におにぎりとサンドイッチを持ち、交互に食べながらソウが何か悩んでいた。
「ユリ、おにぎりとサンドイッチのツナマヨって、何か違うの?」
「同じでも良いんだけど、おにぎりの方がマヨネーズが少なめで、ツナを良く潰してあるわね。サンドイッチの方は、少量のケチャップが入っているわ」
「へえ、やっぱり違うのか」
味の違いが不思議だったらしく、同時に食べることは少ないので、この機会にと聞いてみたようだ。
「そういえば、イチゴ練乳飴があと6本有るわよ」
「キボー、たべるー!」
「私も食べたいにゃ!」
「俺も1本貰って良い?」
「足りなければ、帰ってからいくらでも作るわよ」
キボウ3本、ユメ2本、ソウが1本食べていた。
「食べ終わったら、次行くか?」
次に来たのは、水仙が咲いている、かなり寒い場所だった。
「上品な良い香りがするわね」
「良い香りなのにゃ」
「いいにおーい、いいにおーい」
「もう少しあとだと、梅も咲いているらしいんだけどな」
蕾の大きくなった梅の木の根本に、たくさんの水仙が咲いていた。
「これ、全部水仙にゃ?」
「水仙の種類によって、咲く時期に大分開きがあるからね。まだ花がないのもあるわね。その小さな感じのは、水仙の原種だと思うわよ」
急に温度差の有る場所に来たので、ブルっと寒さに震えた。
「ユメちゃんとキボウ君、カーディガン着た方が良いわ」
「寒いにゃ。上着も着るにゃ」
「さむい、さむーい」
キボウは言うだけで、あまり寒くはないらしい。ユメとユリだけ慌ててカーディガンを着て、さらに上着を着込んだ。
「寒いから、花を見たら帰るか」
「そうね。風邪を引いたら困るわね」
少し歩き、違う種類をいくつか見てから、家に戻ってきた。
「ユリ、リビングに、炬燵モドキ置かないか?」
「それ何だったかしら?」
「あ、ユリ居なかったか。以前、店の明かりに、魔力ランタン取り付けたことがあるだろ? あれ、パープルに譲って貰ったんだけど、その時他の不用品も貰って、その中にどう見ても炬燵があってさ。それも貰ったんだよ。向こうの家に置いてあるけど、こっちに持ってくるからさ」
「なら、座布団も欲しいわね」
「ついでに持ってくるよ」
ソウが取りに行ってしまうと、キボウが騒ぎ始めた。どうやら、イチゴ飴を作って欲しいらしい。
ソウが戻るまで、イチゴ飴や、その他の果物も使い、キボウが食べたいだけ作ったのだった。




