最終
12月22日(Tの日)
「おはようございます」
「おはよう。マリーゴールドちゃん、ずいぶん早いわね!」
「最終日になりますので、片付けるものなどもございまして、少し早く参りました」
片付ける物なんてあった? ユリは不思議に思ったが、そのままマリーゴールドを見ていた。
「ユリ様、こちらのエプロンは、私がいただいてもよろしいのでしょうか?」
「マリーゴールドちゃんが選んだ生地のは、持っていって良いわよ」
「ありがとう存じます」
記念に欲しいのかな?と考えたが、結婚しても料理やお菓子を作る機会を約束されていたわねと、ユリは思い出した。
「使う予定があるなら、生地も持っていく?」
「よろしいのですか!? ありがとう存じます」
作り方は以前教えたので、生地を渡せば自分で作れることだろう。紐やボタンやファスナーを使わないタイプなので、生地だけあればフリーサイズのエプロンが出来上がる。
ユリは生地の入った段ボール箱を持ってきた。
「好きなだけ持ち出して良いわよ」
好きなだけと言われ、むしろ選べなくなったマリーゴールドだった。
「ユリ様、こちらを購入するとなりましたら、おいくらくらいするものなのでございますか?」
「物によるけど、エプロンが作れる大きさの布は、500~5000☆くらいかしら」
「10倍も価格幅があるのでございますか!?」
「こちらでは全く意味がないんだけど、あちらの国での人気ブランドとか、人気キャラクターが高いのよ。品質の値段とは少し違うのよね。まあ、500☆は激安商品だから、普通は、1000~1500☆あれば、色々な種類を選べると思うわよ」
「私がお願いをしましたら、購入してくださいますか?」
「急ぎでなければ良いわよ」
「ありがとう存じます」
マリーゴールドは、持ち込んでいる物などを片付けているようだったが、落ち着いてきたのでユリは声をかけることにした。
「マリーゴールドちゃん、告知が遅くなってごめんね。足湯遠足と陶芸教室は、参加するってリラちゃんから聞いたけど、いつ帰る予定にしてるの?」
「12月25日Sの日の、ユリ様のご都合が良い時間と考えております」
「それは、何処に送れば良いの?」
「私の生家のハニーイエロー男爵家に、お願いいたします」
「わかったわ。陶芸教室のあと、送迎するわね」
「よろしくお願いいたします」
9時前には全員が揃い、マリーゴールドがロールケーキを巻き、イリスが箱を組み立て、ユメとキボウも手伝い、メリッサに鶏肉をカットしてもらい、マーレイに手羽先をチューリップにしてもらい、イポミアに苺をスライスしてもらい、ユリはショートケーキを作り、カットするために冷蔵した。カットした鶏肉とチューリップはタレに漬け込み、しばらく放置。
「手が空いたら、ブッシュ・ド・ノエルの仕上げお願いします」
ユリとマリーゴールドが本日分のロールケーキを巻き終わり、最初に巻いたものから仕上げていき、ユメとキボウが飾りを飾り、イリスとマーレイがロールケーキを移して、メリッサとイポミアが、箱にしまっていった。
「人数居ると早いわねー」
「ユリ様、外、並んでます」
「明日最終日だから、今日とセットなのかしらね。可能なら、早く開けます」
「キリ良く11時くらいですか?」
「そうね。そうしましょう」
給仕組は準備を始め、さあ開店というとき、リナーリが来た。
「こんにちは。今日もお手伝いに来ました」
「リナーリちゃん、あっち大丈夫なの?」
「リラさんとシィスルさんが居て、足りないことは絶対無いので、きっとこちらは早くからお店を開けるだろうから手伝いに行って、と言われました」
「相変わらずリラちゃんの読みがすごいわぁ。リナーリちゃんありがとう。お願いします」
「はい!」
リナーリは、マリーゴールドに教わりながら、小物ケーキの仕上げを進めていき、ユリはショートケーキをカットし、サンタ苺の作り方を説明し、とりあえず店内分を先に仕上げた。
急いで唐揚げを作り、残りをマーレイに引き継ぎ、小物ケーキの仕上げに戻った。
「おおー!」
お店の方から低い歓声が聞こえる。
「ユリ、ただいま! 子供用のサンタコス入手したよ!」
「ソウ、ありがとう。 キボウ君、この服を着て、お菓子配らない?」
「なーにー?」
「これは、サンタクロース。このショートケーキの上にのっている苺の飾りの、本物の服装ね」
キボウはケーキの飾りをじっくり見てから、ユリから、受け取ったサンタコスチュームを上に放り投げ、パッと着替えた。
「凄ーい!」
「キボウ、凄いな!」
リナーリとソウが声をあげ、マーレイとマリーゴールドは、声を出さずに驚いていた。
「キボウ君、似合うわぁ。格好良いわね!」
「キボー、かっこいー。キボー、かっこいー」
「ユリ、何配るの? 世界樹様のクッキーは配れないだろ?」
「イチゴパルミエよ。昨日作っておいたわ」
「イチゴパイー!」
籠に入れて渡すと、キボウは揚々と片手に下げ、お店に行った。
「ユリ、私も何か配るにゃ?」
「配りたければ用意するけど、手伝ってくれるなら、仕上げをしてくれると助かるわ」
「仕上げが良いにゃ!」
「疲れる前に、休んでね」
「わかったにゃ」
ユメは楽しそうに、ケーキの仕上げを手伝っていた。
先に出したクリスマスケーキや唐揚げを食べ終わり、軽食の注文が入り始めた。
ソウがホットサンドを担当し、マーレイとマリーゴールドとリナーリに、先に昼休憩に入ってもらった。今日は、11:30と12:30からの交代だ。イリスたちには、30分ずらした交代をしてもらい、まずはイリスから休憩に入るらしい。
ユリが昼食を提供し、厨房で食べ始めた。
「この骨付きの唐揚げは、なんで骨がついているんですか?」
「ベルフルールでも一度ご覧になりませんでしたか?」
リナーリの質問に、マリーゴールドが答えていた。がしかし、そう言うことを聞きたかったのではないらしく、首を傾げていた。
「リラちゃんは教えてくれなかったの?」
「リラさんに聞いたら、作り方を教えてくれました」
「あー。これは、チューリップ唐揚げと言う名前でね。あげる前のお肉状態の時に見ると、花のチューリップのような見た目なのよ。手で持てるから食べやすいでしよう?」
「はい! お花の形なんですね」
やっと納得の行く回答を得たらしく、ニコニコしていた。なんと、マリーゴールドまで感心して聞いていたのだ。
「リラちゃんは言わなかったの?」
「ベルフルールでは、骨付き唐揚げという名前でございました」
「あら、そうなのね」
後日リラに聞くと、メニューで「チューリップ唐揚げ」と書いたら、花の唐揚げと勘違いされ、いちいち説明するのが面倒臭くなり「骨付き唐揚げ」に名前を変更したらしい。
「ユリー、イチゴパイ、ないー」
キボウが、イチゴパルミエが無くなったと報告に来た。
「追加持っていく?」
「もってくー」
キボウの持つ籠に、イチゴパルミエを詰め込んだ。
「無理しない程度に、頑張ってねー」
「わかったー」
50枚くらい籠に入っていたので、キボウが食べたのか、外でも配ってきたのか、減りが早い。まだお店は2回転目くらいなのだ。
「イチゴパルミエ、足りるかしら」
「私が見てくるにゃ」
ユメが観察してくると言って、あとをついていった。
しばらくして戻ってきたユメによると、キボウは外に並んでいる人と、ご近所の子供に配っていて、キボウ本人は食べていなかったらしい。
「ユメちゃんどうもありがとう」
「キボウは偉かったのにゃ」
12時になり、イポミアが休憩に入った。ユメも一緒に休むと言い、ユリは2人前の昼食を作った。
「お姉ちゃん、この骨付きの唐揚げは、お花のチューリップに似ているから、チューリップ唐揚げって言うんだって」
「へぇ、リナ、ちゃんと勉強してるのねぇ」
知ったばかりの知識を披露していて、皆、微笑ましく見ていた。
「ユリ様、作っている時も不思議でしたが、作るのは難しいですか?」
「最初は少し梃摺るけど、慣れれば簡単よ。まだあるから作ってみる?」
「はい!作ってみたいです」
イポミアは、妹が作れるようなので、姉として、作れるようになりたいらしい。
「ユリ、私にも教えて欲しいにゃ」
「ユメちゃんも覚える? なら、休憩明けに教えるわね」
「ありがとにゃ」
最初の休憩組が戻ってきて、ユリは4人前の昼食を作り、キボウを以心伝心で呼んでから、交代した。
返事はあったが、キボウはすぐには戻ってこなかった。
「キボウは呼んだの?」
「作ってすぐに呼び掛けたら、返事はしていたのよ」
「なら、そのうち戻ってくるだろう」
ユリがソウとメリッサと作業台のそばの椅子に腰かけると、やっとキボウが現れた。
「キボー、きたー!」
「キボウ君、お疲れ様」
イチゴパルミエが残り3つの籠を返された。
「キボウ君、ご飯の後はどうするの? 休憩してから、またイチゴパルミエ配る?」
「くばるー!」
「無理しない程度にお願いね」
「わかったー」
結局、キボウが1日で配ったイチゴパルミエは、250個を越え、配る予測より少し多めだが、キボウが全く食べずに配ったらしく、減りかたはユリの予想よりは少なかった。
ユリが休憩に行く前に、イポミアとユメにチューリップ唐揚げを教えると、2人とも割りとあっさり覚えたのだった。
今年もよろしくお願いいたします。




