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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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毒茸

今日からクリスマスの売り出しだ。先週までに作りためてきたので安心である。


「おはようございます」

「シィスルちゃんおはよう」


ユリは振り返らず、オーブンを見ていた。


「リナーリも一緒なんですが、良いですか?」

「お、おはようございます」

「おはよう。リナーリちゃんも手伝ってくれるの? ありがとう!」


振り返ったユリが笑顔で答えると、リナーリも笑顔になった。


「あちらは大丈夫なの?」

「リラさんとマリーがいますので、何も問題ありません」

「それもそうね」


ユリは焼き上がったアップルパイを1つ、熱いままカットした。


「これ昨日作ったアップルパイよ。少しだけ冷ましたら、温かいうちに食べてみて」

「うわ、ありがとうございます」

「ありがとうございます。凄い!」


「一緒に紅茶飲む?」

「はい。あ、自分で入れます」

「なら、水にリンゴの皮を入れて沸かして、それで紅茶を入れてね」

「はい」


ユリは焼けたアップルパイを全て取り出しケーキクーラーの上に置き、オーブンの扉を閉め温度を上げた。作業台には、まだ焼いていないアップルパイがたくさんのっている。


「そちらも焼くんですか?」

「1人1カットのみで、売ろうと思ってね。本当は焼きたてが美味しいんだけど、さすがに難しいからね」


少し話し、オーブンが温まったところで次のアップルパイを焼き始めた。


「おはようございます」「おはようございます」

「あら、ちょうど良いところにきたわね。おはよう」


メリッサとイポミアが出勤してきた。


「あなたたちも食べるでしょう?」

「ありがとうございます!」

「わあ、いただきます!」


シィスルが、全員分の紅茶を入れてくれた。


「いいにおーい」

「林檎の匂いがするにゃ!」


ユメとキボウが、キボウの転移で現れた。


「ユメちゃんとキボウ君も食べる?」

「食べるにゃ!」

「たべるー、たべるー!」


ユリは2台目を切り分け、カットした残りは鞄にしまった。


「食べ終わったら、ブッシュ・ド・ノエルの仕上げから始めます」

「はい」「はい」


手早く紅茶のカップを片付け、仕事を始める体制になった。


「これは、ソウに買ってきてもらった、『お菓子の山のきのこ』と言う、市販品です。キノコの笠の部分がチョコレートで、軸の部分がビスケットで出来ています。今回のケーキの飾りに使います。赤っぽい笠に白い斑点のある、紅天狗茸(ベニテングタケ)風と、何だろう? 椎茸(シイタケ)風?があります。ひとつのケーキに、このきのこのお菓子を3つずつのせてください」


ユリは、実物のお菓子を見せた。


「これがお話にあったお菓子なんですね! ユリ様、この赤っぽい方って、本物の(キノコ)は、毒茸(ドクキノコ)ではないのですか?」

「その通りです。よく知っているわね」

「美味しいけど猛毒なので、死ぬ間際に食べたい茸 と呼ばれています」

「酷い名前にゃ」

「私は食べたことはないけどね、茹でて長期間塩漬けして加工すると、食べられるようになる郷土料理だかがあるらしいわ」

「ええー! 食べる方法があったんですか!」

「でも旨味成分がそのまま神経毒らしいから、食べないことをおすすめするわ」

「はい、食べません!」


ロールケーキにコーヒー味のバタークリームを塗り、2cm程の切り株をのせ、三角コームを使い、表面に木の肌のような模様をつけた。

抹茶で緑色に色付けしたバタークリームを使い、(つた)を描き、きのこのお菓子を飾った。


「これが見本です。そんなに難しい工程はないので、作ってみてください」

「はい」「はい」


ブッシュ・ド・ノエルをシィスルとリナーリに任せ、ユリは内倉庫から箱を運んできた。


「メリッサさん、イポミアさん、この箱を組み立ててください。片側だけ閉じて、片側は開けたまま積んでおいてください。こちらの厚紙の上にある、ケーキストッパーの金具をスプーンなどを使い、立てて起こしておいてください」

「はい」「はい」


箱は、メリッサとイポミアに任せた。


「ユリ、私とキボウはどうしたら良いにゃ?」

「クリスマスバージョンの、世界樹様のクッキーを作ります。まずは、いつもの通りにクッキーを作りましょう」


ユメとキボウにクッキーを任せ、ユリは細かい作業を進めていった。


イリスとマーレイが来たので、出来ているブッシュ・ド・ノエルを、ケーキストッパーのある厚紙にのせ、箱にしまっていってもらった。


皆と相談し、お昼ご飯は11時から食べた。イリスとマーレイには、お昼ごはんと一緒にアップルパイを出した。


予想通り、早めに並んでいる人が数人いた。


「開店は12時からですが、外は寒いので中でお待ちください」


店内は、トロピカル魔動力機器が作った「移動暖炉」があり、かなり温かい。外おやつの場所にも置いてはあるが、店内に入るつもりの客は、遠慮してか外おやつの場所には行かない。


イーゼルにのせるメニューと、テーブルに置くメニューを用意し、各所に配置した。


「本日限定アップルパイ? なんだこれ!?」


店員に聞きたそうにしているが、まだ営業前の忙しい時間だと理解しているため、仕事の事は聞いてこない。


そこへ、フラフラとキボウが歩いていった。何かを探しに来たらしい。


「キボウ様、このアップルパイとは、」

「なーにー?」

「持ち帰れるのでしょうか?」


キボウは少し考えてから答えた。


「キボー、わかんない」

「キボウ、何やってるのにゃ」


ユメがキボウを呼びに行ったので、大丈夫だろう。

そのままユメが答えたので、キボウに質問した客は納得したらしい。


少しして、予告した開店時間になり、全ての席も埋まり、全席からアップルパイの注文が入った。イリスたちが聞いて回ったが、温めたものと常温のものがあるとの説明に、全員が、おすすめの方でと答えたらしい。


慌ただしくアップルパイを温め、全席に提供した。おすすめの通り、アップルティも一緒だ。


「シィスルちゃん、向こうは今も、配膳は2人?」

「今は、交代要員の1人が増えましたが、配膳するのは2人です」

「と言うことは、アップルパイ8切れ持っていけば、足りる?」

「はい。ありがとうございます! 連絡しておきます!」


そして取りに来たのは、グランだった。ユリとしては、リラが来ると思っていたので、少しだけ驚いた。


「ハナノ様、いつもありがとうございます」

「グラン君、食べるときは、5分くらい窯に入れて温めると、更に美味しいわよ」

「わかりました。リラに温めて貰います。ありがとうございます」


グランはすぐに帰っていった。


「シィスルちゃん、グラン君に連絡したの?」

「いえ、リラさんに連絡しましたが、変に気を遣われたみたいです」


シィスルは苦笑(にがわら)いしていた。


明日分のロールケーキのシートスポンジを焼いていて、オーブンからはココアの香りがする。


「ユリ様、持ち帰り可能なケーキ全種類と言われたのですが、いくつまで可能ですか?」


メリッサが確認に来た。


「1日が、1人で持ちきれる量なら良いわよ」

「えーと、4個入りの箱2段にして、両手で持つなら、」

「それだと16個ね」

「そんな感じで伝えておきます」

「お願いします」


小型ケーキは16種類も出していないので、16個も買って帰る想定の人は早々いないだろう。しかも、お一人様1回限りのブッシュ・ド・ノエルは、4個入りの箱より大きいので片手が塞がる。


「ユリ様、薪のケーキは、私も買って良いですか?」

「え、欲しいの? 味見だけで良いなら、夕飯の時に切り分けるわよ」

「もちろん食べたいですが、グランさんにも食べて貰いたいなぁって」

「そう言うことなら、1つ持ち帰って良いわ。6人前あるから、あちらで分けると良いわよ」

「どうもありがとうございます」


14時頃、リラとマリーゴールドが顔を出した。。


「ユリ様、アップルパイありがとうございます。皆喜んでいます」

「あ、リラちゃん、ブッシュ・ド・ノエルも持ち帰ってくれる? えーと、6人前だから、」

「なら、私が食べないで、明日こちらで食べて良いですか?」

「それで良いの?」

「はい」

「なら、それでお願い」


ユリは、一切れ分を切り分けようと考えていたが、リラが気を利かせてくれた。



クリスマスの売り出し1日目は、特に問題もなく、平和に終了した。


夕飯の時に、ブッシュ・ド・ノエルを皆の前でカットし、ユメとキボウが選んだあと、他のメンバーにも好きな場所を選んで貰った。リラのために1カット取り分け、ユリの鞄にしまった。残る1カットは、キボウがおかわりして食べていた。

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