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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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蜜豆

「こんにちは。お手伝いに来たのですが、私が来ても良かったですか?」

「リナーリちゃん、待っていたわよ。今日は、よろしくね」


不安そうだったリナーリが、笑顔になった。


「ユリ、ただいまー。買ってきたよ」

「ソウ、ありがとう!」


ソウはユリに頼まれて、苺を買ってきたのだ。あちらの国のこの時期は、クリスマス前で苺が物凄く高い。


「余っても困らないし、どうせ来週使うだろうと思って、可能なだけ買ってきたよ」


可能なだけ? シィスルも、マリーゴールドも、どういう意味だろうとじっと見ていた。


ソウが鞄を肩から外し、中から苺を取り出した。4パック入り1箱が5段重なった1ケースを、20ケース。つまり、400パックだ。


「よく、揃えられたわね!」

「以前もお世話になった苺農園に、頼んだよ。予冷じゃなく、今朝摘んでくれたそうだよ」


パタパタパタと足音が聞こえ、キボウが駆けつけてきた。


「いちごー!」

「キボウ君、まだ使う前だから、1パックだけね」

「ありがとー!」


苺を頭上に掲げたままくるくる回ったあと、キボウはどこかに転移していった。


「又、世界樹様のところかしらね。さあ、みつ豆を仕上げるわよ」


器に、サイコロ状の寒天、茹でた赤えんどう、各種フルーツ、求肥をのせ、黒蜜を添えて出来上がり。


「『みつ豆』よ。アンコをのせると『あんみつ』さらにアイスクリームをのせると『クリームあんみつ』、これは正しくは、『フルーツみつ豆』ね」

「目に鮮やかでございますね!」

「皆さんは交代で食べてね。キボウ君が戻って来た時に私がいなかったら、誰か作ってください」


イポミアが何かを取りに厨房に来た。


「なんですか、これ?」

「フルーツみつ豆よ。ユメちゃんにお願いね」

「はい。販売はしますか?」

「1200(スター)くらいかな。苺が高いのよ。お店分で、限定40ね」

「売ってきます!」


ソウが渡したので、マーレイも早くから食べ出した。

マリーゴールドがリナーリにも渡したので、2人は食べ始めたが、シィスルが取りに来ない。


「シィスルちゃんも食べるでしょ?」

「良いのですか!?」

「1人だけ食べないつもりだったの?」

「本来、私は残っていない時間なので」

「そんなことは気にしなくて良いのよ」

「ありがとうございます。いただきます」


イポミアが戻ってきた。


「ユリ様、熱いお茶とフルーツみつ豆18ですが、良いですか?」

「大丈夫よ」


又、お茶にいれて黒蜜飲むのかしら? とユリは一瞬思ったが、自由にさせようと何も言わなかった。


ユリとマリーゴールドが作り、リナーリは、じっと作り方を見ていた。


「あ、3時になったわ。マリーゴールドちゃん、お疲れさま。どうもありがとうね」

「お役に立てまして光栄にございます」

「引き継ぎます!」


リナーリが引き継ぎ、てきぱきと動いていた。予定表もほとんど読めるようで、わからない文字だけ聞いてきた。

ちゃんと解らない事を解らないままにせず、仕事を進めていくので、ユリも安心して助手を任せることが出来ると、安堵した。リラやシィスルの指導が、物凄く適切だったのだろう。


マリーゴールドも帰らず、シィスルの試作を手伝っているようだった。


フルーツみつ豆は、あっという間に売りきれた。


「リナーリちゃん、ロールケーキを作ったことはある?」

「無いです」

「覚えたいなら、教えるわよ」

「覚えたいです!」


ユリがリナーリに教えようとすると、マリーゴールドがそばに来た。


「ユリ様、(わたくし)にも教えてくださいませ」

「あ、私も作りたいです!」


シィスルまで名乗り出た。


「あら? 作ったこと無かったかしら?」

「恐らく、リラさんしか作ったことが無いと思います」


よく思い出してみると、モンブランの時は、ユリがロールを巻いて、その後の仕上げを頼んだのだった。


「では、本当に最初から教えます。

普通のケーキに生クリームなどを塗るときは、平らなパレットナイフを使いますが、こういった、平らな面が広い場合は、L字型のアングルパレットナイフを使います」


ユリは、形状の違うパレットナイフを見せた。


「あ、これって、そう言う用途なんですね!」

「出来るなら、どの道具でも良いですが、作業性が良い方が仕事が捗るからね」


ユリは、敷き紙を剥がしたシートスポンジを半分に切り、新しい紙の上にのせた。


「スポンジの端に盛り上りがある場合など、少し斜めに切り落とすと、巻き終わりがきれいになります。コーヒー味のバタークリームを薄く塗ります。巻き始めに少し多めにし、巻き終わりは特に薄くします」


麺棒を紙の下にセットし、スポンジの端を一斉に持ち上げた。


「最初の部分を少し畳むように押さえたあと、紙を向こうへ引っ張るようにして、巻きます。カードや定規などを使って、紙の上から少し巻きを絞め、そのまま紙で巻いて冷蔵します」


「なんだか簡単そうに見えますが、きっとやってみると難しいんですよね」

「まあ、やってみちょうだい」


ユリに促され、3人は順番にクリームを塗り、巻いてみていた。


「この状態のお菓子を、スイスロールというのよ。名前の理由は知らないけどね」

「このクリーム、良い匂いですね」

「コーヒー味のバタークリームだからね。少し食べてみる?」

「良いのですか?」

「30分くらいしたら切ってみるので、その時にね」


ユリが普通のパレットナイフでクリームを塗り、あとは巻くだけの状態で渡すと、シィスルとマリーゴールドがいくつか巻き、気が済んだらしく、試作に戻っていった。


何本も巻いているうちに30分経ち、ユリは、リナーリが最初に巻いたものをカットして見せた。


巻きが甘く、空間が開いている。


「うわ、空洞がある!」

「少し、巻きと締めが甘かったわね」

「これ、どうなりますか? 使えますか?」

 

「味見で食べちゃうから気にしなくて良いわよ。見ていたけど、他は大丈夫そうだったわ」


ユリは1cm幅にカットし、小皿にのせ、無料で配るように促した。


「味見に食べてみて」

「はい。いただきます」


リナーリはパクッと食べた。


「何だか、食べたことの無い味だけど、美味しいです」

「あれ? コーヒー味の生チョコは食べたこと無い?」

「無いと思います」


ユリは指輪を取り出し、杖に変え振った。


「はい。これがコーヒー味の生チョコよ。どうぞ」


リナーリは素直にこれも食べた。


「あ、似たような味がします。これ、物凄く美味しいですね!」

「それは全部あげるから、取り敢えずは冷蔵庫にでもしまって」

「はい!」


リナーリは、意欲的にロールケーキを巻き続けた。

その他の雑用はユリが行い、リナーリには、集中してロールケーキを作らせた。


作業も効率良く、大分早くなった。


キボウがふらふら戻ってきたので、残してあったフルーツみつ豆を渡すと、喜んで食べていた。


「ユリ様、試作で作ったパイは、キボウ君に渡しても良いですか?」

「お店で食べないように伝えてね」

「はい」


チラッと見たが、カラフルなリーフパイだけで、特に変わったものを作った様子はなく、リナーリが不安にならないように、残っていたのだろうと、ユリは理解した。


「シィスルちゃんとマリーゴールドちゃんも、夕飯食べていくでしょ?」

「よろしいのですか?」

「勿論よ」

「ありがとうございます」

「ありがとう存じます」


もうすぐ閉店なので、注文品も多くない。


「ユリ様、真っ赤なリンゴが大量です!」


イポミアが厨房に駆け込んできた。


「イポミアさん、何の事?」


すぐにメリッサが、正確な話を届けに来た。


「ユリ様、ユメちゃんへの貢ぎ物として、林檎をお持ちしましたと言う人が、大量の林檎をお持ち込みになって、とにかく凄い量です」

「お店に顔出すわ」

「はい!」


ユリがお店に行くと、麻袋と木箱に入った、紅玉に見えるリンゴが大量にあった。


「イリスさん、マーレイさんを呼んで、いくらくらいになるか計算して貰ってください」

「かしこまりました」


麻袋のそばにいる男性に、ユリは話しかけた。


「ユメちゃんのために、たくさんの林檎をありがとうございます」

「ハナノ様、どうかユメ様がお好きなお菓子に変えてください」

「はい。確かに承りました。ただ、ユメちゃんが1人で食べるには多すぎますので、お店で買い取らせてください」

「あ、そう言われれば、そうですね。こんなに食べられないですね」


我に返ったのか、頭を抱えていた。


「ユリ、美味しくしてにゃ」

Sの日(おひさまのひ)に、アップルパイを作りましょう」

Sの日(おひさまのひ)!是非手伝わせてください!!」

「リラちゃん、ありがとう」


マーレイは、農家から直接買ったときと、八百屋を通して買った場合の価格を計算してくれた。農家から直接買ったときの額を現金で支払い、八百屋との差額分に当たる金額は、各種お菓子を渡した。これで、相手の面目も立つだろうし、損もさせないで済むと思われる。


「結局、押し売りに来たみたいになってしまって申し訳ありませんでした」

「いえいえ、素晴らしい林檎ですね。ユメちゃんに美味しいおやつを作りますね」

「よろしくお願いします!」


深く頭を下げたあと、大量のお菓子と共に帰っていった。


その後、店は時間になり閉店し、大変だったお店でのユメちゃんのお別れ会は終了した。

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