交代
ユリは、少し早めに戻ってきた。
「シィスルちゃん、今日はどうもありがとう。時間分のお給料の他、お菓子を買ってきて貰うからね」
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
シィスルは仕事を片付け、お昼ご飯を作ろうとしていた。
「シィスルちゃん、私が作るわよ」
「ユリ様、まだお昼休みではないですか。どうかお休みなさっていてください」
「うふふ、どうもありがとう。なら時間までここに座っているわね」
マリーゴールドも少し早く来たようで、準備のために今日の予定表を見ているようだった。
「ユリ様、こちらに書いてございます、キノコメレンゲとは、どのようなものでございますか?」
シィスルが笑った。
「シィスルちゃんにも聞かれたんだけど、直径2cmくらいのメレンゲと、5mmくらいの縦長のメレンゲを作って、組み合わせてキノコ型にします。クリスマスケーキの飾りに使います」
「是非作らせていただきたいと思います」
「これもシィスルちゃんにも説明したけど、時間が取れなかったら、市販品を使おうかと考えています」
「そのような市販品があるのでございますか?」
「市販品は、メレンゲじゃなくて、ビスケットとチョコレートで出来ています」
ユリの説明に、シィスルが乗り出した。
「そうなのですか!? なら、尚更 是非見たいです!」
「私も見てみたいと思います」
「ソウに買ってきて貰うわね」
丁度ソウが帰ってきた。
「ただいま。俺がなんだって?」
「ソウお帰りなさい。山のキノコのお菓子、少し買ってきて貰える?」
「構わないけど、何かあった?」
「今日、シィスルちゃんやマリーゴールドちゃんが手伝っているのよ。それで、見てみたいと言う話になってね、お手伝いのお礼も兼ねてね」
「了解。いくつか買ってくるよ」
話ながらも作っていたシィスルが、料理を皿に盛り付けた。
「あと1分有るので、ユメちゃんに提供してきますね」
「ありがとう」
「俺はどこで食べれば良い?」
「ユメちゃんの横か、厨房か」
「ユメの横は良いんだけど、店の客に影響しないか?」
「なら、厨房でお願いします」
確かに怖がる人は居るかもしれないけど、一番の理由は、色々めんどくさいのだ。ユリのそばでソウは食事を始めた。
ユリは厨房に立ち、頼まれる注文をこなし始めた。
「ユリー。キボー、おかしー、なーい」
「リーフパイが無くなったの?」
「あたりー」
「今少し手が離せないから、これが片付いたら作るわね」
「わかったー」
お店から、シィスルがイポミアを連れて戻ってきた。
「ユリ様、リーフパイ作って良いですか?」
「シィスルちゃん、ご飯食べないと」
「あ、食べてからですが、試作したいものがありまして」
「そういうのなら良いわよ」
少し手が空き、ユリはリーフパイを作ってキボウに渡した。
シィスルは、イポミアと一緒に食事をして、少し休んでから、試作を始めた。
マリーゴールドは、予定表通りに作業を進めている。
「そういえばマリーゴールドちゃん、明日はどうする?」
「明日でございますか?」
「アルストロメリア会が有るのよ。お菓子は作らないけどね」
「リラさんがご無理されないように、私が出席するのは構わないのですが、私が伺って、何をしたらよろしいのでしようか?」
製造の助手をするわけではないので、確かに何のために行くのかと聞かれると、答えようがない。
「そうねぇ、今日リラちゃんがしている、ユメちゃんの助手かしらね?」
「それでしたら、私がお手伝いいたします」
リラは断われない立場なので、無理を言われたら、無理にでも動くと思われる。
「シィスルちゃん、そういうわけで、リラちゃんではなく、マリーゴールドちゃんをお借りします」
「はーいと、私が返事をして良いのかわかりませんが、わかりました。リラさんには、こちらで静かにしていて貰うことにします」
「なんなら、今日、本をたくさん持たせて帰すから、明日本を読んで静かにしていてもらうという手もあるわよ?」
「あ、それ良いですね。明日読みきれない量でお願いします」
リラは、読書の時間再びだ。
「食べ終わったにゃ。食べ終わったから、休憩するにゃ」
ユメが、食器を持って厨房へ来た。ユメは髄分とゆっくり食べたらしい。
「ユメちゃん、しっかり休んでね」
「ありがとにゃ」
イリスとマーレイが戻ってきて準備を終えた頃、リラとメリッサが昼食のため、厨房に来た。
「はい。ご飯できているわよ」
「ユリ様、上に本を見に行って良いですか?」
「帰りに5冊くらい貸し出すから、ご飯食べてから見たら?」
「はい!」
ソウは食事のあと、すぐに出掛けていった。時間指定の荷物が届く予定らしい。
「リラちゃん、明日、アルストロメリア会には、マリーゴールドちゃんを連れていくわね」
「はーい。助手としての参加が最後になりそうですもんね」
「あなたは、あまり動き回らずに、静かに過ごしてね?」
「はーい。シィスルに怒られない程度にしまーす」
洗い物をしていたマーレイが、残念そうにリラを見つめていた。
リラは食べ終わるとユリに声をかけ、又、階段を駆け上がっていった。
「シィスルちゃん、明日、大丈夫かしら?」
「本を読んでいる最中は、さすがに大丈夫だと思いますが、思いますがぁ、思いたいです」
「明日ね、今日1日おとなしくしたら通常に戻って良いけど、動き回るなら翌日も安静です。って、伝えてみて」
「はい! そのとおりに明日伝えます!」
マーレイとマリーゴールドが、ホッとしている様子だった。
ユメが戻ってきて、30分間イリスが担当した。
リラはお昼休みの時間が終わる頃、本を5冊抱えて戻ってきた。休憩室に置いておくらしい。
冷蔵庫を見ていたマリーゴールドが、わからないものがあったらしく、悩んでいた。
「ユリ様、この透明なものはなんでございますか?」
「それは、甘味の無い寒天です」
「何に使われるのでございますか?」
「ユメちゃんのおやつに使いますが、どうせ食べたい人が出ると思うので、たくさん作りました」
「準備万端でございますね」
「3時頃出す予定なので、手が空いたら準備しましょう」
ユリは、さっとメモを書き、必要なものをマリーゴールドに教えた。
「ユリ様! パイ少しと、ココア、粉糖、蝶豆粉、苺粉、抹茶粉、紫芋粉、南瓜粉を使っても良いですか?」
「シィスルちゃん、構わないわよ」
マリーゴールドがユリのメモの材料を揃え、その間にユリは作ってあった求肥をカットした。
「ユリ様、それはなんですか?」
「これは求肥よ。鮎とか、にゃんこ焼きに使ったわね」
「あ! 巻巻だ!」
シィスルは思い出したらしい。
「ユリ様、揃えました」
缶詰のミカンとパイナップル、茹でた赤エンドウや…黒蜜等をマリーゴールドが缶等も開けて、使えるように揃えてくれた。
「ありがとう。あとは、ソウが戻って来たら仕上げるわ」
ユリは、寒天をサイコロ状にカットした。
倉庫側の入り口から、誰かが入ってきた。




