帰郷
11月の終わり頃のある日の朝ご飯の後、ユメが意を決したように頼んできた。
「ユリ、ソウ、私のお別れ会をして欲しいにゃ」
「お別れ会?」
「いきなり居なくなるより、猫の国に帰ると発表して欲しいにゃ」
「え、うん」
ユリがはっきり答えられないでいると、ソウが答えてくれた。
「ユメがそれで良いなら、お別れ会でも何でも開いてやるぞ」
「ありがとにゃ」
ユリは、理解してはいたが、いざ現実が近づいてくると、狼狽えてしまうのだった。
「ユメちゃん、何かして欲しいこととかはある?」
「黒猫クッキーみたいなお菓子を配りたいにゃ」
ハロウィンが楽しかったらしい。
「黒猫クッキー、黒猫ラスク、黒猫サンド、クロ猫ッカン、肉球マシュマロ、何でも作るわよ」
「黒猫クッキーとクロ猫ッカンしかわからないにゃ。ユリに任せるにゃ」
達観した感じのユメに、ユリは動揺を見せないように気を張った。
「日にちの希望はある?」
「12月の真ん中くらいが良いにゃ」
「12月15、16辺りはどう?」
「それで良いにゃ」
ユメは伝えたかったことを伝え安心したのか、ニコッと微笑み行ってしまった。
「ユリ」「ユリー?」
ソウとキボウが、ユリに切なげに呼び掛けた。
「なあに」
その声は涙声で震えており、ソウが抱き締めると、ユリは声を出さずに泣いているようだった。
12月1日(Tの日)、ユメのお別れ会について発表した。
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お客様各位
ユメちゃんが猫の国に帰るため、
きたる12月15日、16日に、
ユメちゃんのお別れ会を開催いたします。
プレゼントは持ち帰れないため、
一切必要ありません。
女性も未成年者も歓迎します。
顔を見に来ていただけると幸いです。
名称 ユメちゃんお別れ会
日にち 12月15日(Tの日)
12月16日(Gの日)
時間 両日共に13時から18時まで
場所 アルストロメリア店内
責任者 ユリ・ハナノ
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「ユリ様、ユメちゃん居なくなっちゃうんですか!?」
貼り出した紙を見て、出勤してきたメリッサが驚いて確認に来た。
「うん。世界樹様から決められた決定事項なの」
「え、世界樹様から、」
相手が神様のため、メリッサはそれ以上言わなかった。
少し早く来たらしいイポミアも、慌ててユリに確認に来た。
「ユリ様、ユメちゃん、居なくなっちゃうんですか!? どうにかならないんですか?」
「あのね。私にはどうにも出来ないの。これでも世界樹様から、1年伸ばして貰ったのよ」
「え」
その後来たマリーゴールドは、ユメの正体を知っているらしく、「寂しくなってしまいますね」とだけ言っていた。
イリスとマーレイもユメの正体を知っているので、無茶な抗議に来たりはしなかった。
お店が開店すると、やはりお客が引き留めていた。
「ユメ様、国に戻られるのですか?」
「そうなのにゃ。物忘れが酷すぎるからにゃ。老衰にゃ。にゃはは」
「老衰って、まだお若いのではないのですか?」
「私はこう見えて、300歳越えてるのにゃ」
「え、えー」
聞いた客は、ユメなりのジョークととらえたのか、物忘れについて労った後、笑顔で帰っていった。
今日のユメは、お店にいて質問を受けていた。
外に呼び出され、子供の質問にも答えているようだった。
この話は方々に伝わり、発表した当日に城やアルストロメリア会からも、お別れ会を開きたいと申し出があった。
ユメに予定を確認すると、お店のお別れ会の前後が良いと言われ、14日(Wの日)に城で開催し、17日(Eの日)に、パープル邸にて、アルストロメリア会主催のユメのお別れ会を開くことになった。
「ユリ様」
「ユリ様、あの、」
「マリーゴールドちゃん、何か言った?」
「あの、大丈夫でございますか?」
「うん、ごめんなさい。ちゃんと仕事するわ」
「いえ、お辛いときは、少し休まれると良いかと思われます」
ユリはマリーゴールドに言われ、ぼんやり考え事をしていたことを反省した。
「少しだけ休憩させて貰える?」
「かしこまりました。1時間くらい1人で何とか致しますので、ゆっくりお気持ちとお体をお休めくださいませ」
「ありがとう」
ユリは冷たい水で顔を洗い、転移して両親のお墓の前に来た。
15分くらい墓石代わりの木をぼーっと見つめ、そして戻ってきた。
「ユリ! いったいどこに行っていたの!?」
戻ると、真剣な顔をしたソウに詰め寄られた。
「両親のお墓に行ってきたわ。心配かけてごめんなさい」
「この国の外に出るときは、事前に教えてくれ」
本気で心配したソウに懇願された。
「ごめんなさい。もうしないわ」
「ユリ、戻ったのにゃ? 何か急用だったのにゃ?」
「ちょっと不足したものを入手しに行ってきたのよ」
「ソウが心配していたにゃ」
「心配かけてごめんなさい」
ソウとユメは、ユリを見て安心したのか、すぐに厨房を出ていった。
「マリーゴールドちゃん、どうもありがとう」
「落ち着かれたようで、何よりでございます」
ユメとソウが行ってからキボウが来た。
「ユリー、キボーわかんない。かみさまのくに、キボーわかる」
「んー、国内に居ないと、私の所在がわからないという意味かしら?」
「あたりー!」
恐らく、ソウからユリの居場所を聞かれて、探したのだろう。キボウにも悪いことをしてしまった。
「キボウ君、心配かけてごめんね。何かお詫びに、欲しいものはある?」
「だいじょぶー」
「そう?なら何か美味しいものを作っておくわね」
「わかったー」
その後ちゃんと仕事をし、マリーゴールドと先の予定を話していた。
「マリーゴールドちゃん、年内はいつまで仕事をするの?」
「はい、ユリ様。ベルフルールの営業予定が、12月22日まででございます。ですので、12月22日Tの日にこちらでのお仕事を最後にする予定でございます」
「送迎するから、声をかけてね」
「ありがとう存じます」
マリーゴールドは年内に、オリーブ・コバルトブルーと婚姻する予定なのだ。この国の年齢は、年始に一斉に歳を取る。1歳でも若く婚姻するためでもある。




