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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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帰郷

11月の終わり頃のある日の朝ご飯の後、ユメが意を決したように頼んできた。


「ユリ、ソウ、私のお別れ会をして欲しいにゃ」

「お別れ会?」

「いきなり居なくなるより、猫の国に帰ると発表して欲しいにゃ」

「え、うん」


ユリがはっきり答えられないでいると、ソウが答えてくれた。


「ユメがそれで良いなら、お別れ会でも何でも開いてやるぞ」

「ありがとにゃ」


ユリは、理解してはいたが、いざ現実が近づいてくると、狼狽えてしまうのだった。


「ユメちゃん、何かして欲しいこととかはある?」

「黒猫クッキーみたいなお菓子を配りたいにゃ」


ハロウィンが楽しかったらしい。


「黒猫クッキー、黒猫ラスク、黒猫サンド、クロ猫ッカン、肉球マシュマロ、何でも作るわよ」

「黒猫クッキーとクロ猫ッカンしかわからないにゃ。ユリに任せるにゃ」


達観した感じのユメに、ユリは動揺を見せないように気を張った。


「日にちの希望はある?」

「12月の真ん中くらいが良いにゃ」

「12月15、16辺りはどう?」

「それで良いにゃ」


ユメは伝えたかったことを伝え安心したのか、ニコッと微笑み行ってしまった。


「ユリ」「ユリー?」


ソウとキボウが、ユリに(せつ)なげに呼び掛けた。


「なあに」


その声は涙声で震えており、ソウが抱き締めると、ユリは声を出さずに泣いているようだった。



12月1日(Tの日(じゅもくのひ))、ユメのお別れ会について発表した。


◇ーーーーー◇ 

お客様各位


ユメちゃんが猫の国に帰るため、

きたる12月15日、16日に、

ユメちゃんのお別れ会を開催いたします。

プレゼントは持ち帰れないため、

一切必要ありません。

女性も未成年者も歓迎します。

顔を見に来ていただけると幸いです。


名称  ユメちゃんお別れ会 

日にち 12月15日(Tの日(じゅもくのひ))

    12月16日(Gの日(きんのひ))

時間  両日共に13時から18時まで

場所  アルストロメリア店内


          責任者 ユリ・ハナノ

◇ーーーーー◇


「ユリ様、ユメちゃん居なくなっちゃうんですか!?」


貼り出した紙を見て、出勤してきたメリッサが驚いて確認に来た。


「うん。世界樹様から決められた決定事項なの」

「え、世界樹様から、」


相手が神様のため、メリッサはそれ以上言わなかった。


少し早く来たらしいイポミアも、慌ててユリに確認に来た。


「ユリ様、ユメちゃん、居なくなっちゃうんですか!? どうにかならないんですか?」

「あのね。私にはどうにも出来ないの。これでも世界樹様から、1年伸ばして貰ったのよ」

「え」


その後来たマリーゴールドは、ユメの正体を知っているらしく、「寂しくなってしまいますね」とだけ言っていた。


イリスとマーレイもユメの正体を知っているので、無茶な抗議に来たりはしなかった。


お店が開店すると、やはりお客が引き留めていた。


「ユメ様、国に戻られるのですか?」

「そうなのにゃ。物忘れが酷すぎるからにゃ。老衰にゃ。にゃはは」

「老衰って、まだお若いのではないのですか?」

「私はこう見えて、300歳越えてるのにゃ」

「え、えー」


聞いた客は、ユメなりのジョークととらえたのか、物忘れについて(いたわ)った後、笑顔で帰っていった。


今日のユメは、お店にいて質問を受けていた。

外に呼び出され、子供の質問にも答えているようだった。



この話は方々に伝わり、発表した当日に城やアルストロメリア会からも、お別れ会を開きたいと申し出があった。


ユメに予定を確認すると、お店のお別れ会の前後が良いと言われ、14日(Wの日(みずのひ))に城で開催し、17日(Eの日(だいちのひ))に、パープル邸にて、アルストロメリア会主催のユメのお別れ会を開くことになった。



「ユリ様」


「ユリ様、あの、」

「マリーゴールドちゃん、何か言った?」

「あの、大丈夫でございますか?」

「うん、ごめんなさい。ちゃんと仕事するわ」

「いえ、お辛いときは、少し休まれると良いかと思われます」


ユリはマリーゴールドに言われ、ぼんやり考え事をしていたことを反省した。


「少しだけ休憩させて貰える?」

「かしこまりました。1時間くらい1人で何とか致しますので、ゆっくりお気持ちとお体をお休めくださいませ」

「ありがとう」


ユリは冷たい水で顔を洗い、転移して両親のお墓の前に来た。


15分くらい墓石代わりの木をぼーっと見つめ、そして戻ってきた。


「ユリ! いったいどこに行っていたの!?」


戻ると、真剣な顔をしたソウに詰め寄られた。


「両親のお墓に行ってきたわ。心配かけてごめんなさい」

「この国の外に出るときは、事前に教えてくれ」


本気で心配したソウに懇願された。


「ごめんなさい。もうしないわ」


「ユリ、戻ったのにゃ? 何か急用だったのにゃ?」

「ちょっと不足したものを入手しに行ってきたのよ」

「ソウが心配していたにゃ」

「心配かけてごめんなさい」


ソウとユメは、ユリを見て安心したのか、すぐに厨房を出ていった。


「マリーゴールドちゃん、どうもありがとう」

「落ち着かれたようで、何よりでございます」


ユメとソウが行ってからキボウが来た。


「ユリー、キボーわかんない。かみさまのくに、キボーわかる」

「んー、国内に居ないと、私の所在がわからないという意味かしら?」

「あたりー!」


恐らく、ソウからユリの居場所を聞かれて、探したのだろう。キボウにも悪いことをしてしまった。

 

「キボウ君、心配かけてごめんね。何かお詫びに、欲しいものはある?」

「だいじょぶー」

「そう?なら何か美味しいものを作っておくわね」

「わかったー」


その後ちゃんと仕事をし、マリーゴールドと先の予定を話していた。


「マリーゴールドちゃん、年内はいつまで仕事をするの?」

「はい、ユリ様。ベルフルールの営業予定が、12月22日まででございます。ですので、12月22日Tの日(じゅもくのひ)にこちらでのお仕事を最後にする予定でございます」

「送迎するから、声をかけてね」

「ありがとう存じます」


マリーゴールドは年内に、オリーブ・コバルトブルーと婚姻する予定なのだ。この国の年齢は、年始に一斉に歳を取る。1歳でも若く婚姻するためでもある。

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