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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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金型

夏に、変換電源装置を配り、緊急に時期を早めたため、注文品などを受け取り損ねた人には待望の、秋の帰郷シーズンがやって来た。


今回も全員帰郷予定らしい。


「今回も全員ね」

「そうだな」

「夏の次は、年末じゃなかったの?」

「予約してある電化製品を取りに行かないと、キャンセルになる物があるらしくてさ、まあ、救済措置的に」

「それは、大変ね。私も先日頼んだ型が出来ていると思うから、取りに行きたいわ」


今日は、10月16日(Sの日(おひさまのひ))。戻りは19日(Wの日(みずのひ))の予定だ。


皆、慣れたもので、パウンドケーキは前もって購入予約をし、集合時は、馬車に乗り合わせて転移陣までやってきた。


臨時の帰郷のため、国王一家は予定の調整が間に合わず参加できなかったため、パープル侯爵夫妻が見届け人として参加し、何事もなく今回も転移した。


「ユリ、何処に行けば良い?」

「最初に、型を引き取りに行って、次に、ワンコインショップに、ハロウィンの飾りを見に行きたいと思っているわ」

「了解」


市販には、ユリの望む形の型がなかったため、特注で作ってもらうことになったのだ。


「お待ちしておりました。このような感じになりましたが、よろしいでしょうか?」

「うわー。ありがとうございます。思っていたとおりです!」


世界樹様のクッキーの抜き型と同じ形の、プリンカップ状態の型を作ってもらったのだ。


「では、こちら300、お納めください」

「はい!」


ユリが指輪をはずし、杖に変えようと思っていたところで、質問をされた。


「あの、大変申し上げ難いのでございますが、こちらは、何に使われるのでございますか?」

「この型? 100個は、木の形のクロッカンを作るのに使います。残りは、予備と、抹茶プリンでも作ろうかと考えています」

「そうでしたか。失礼な質問を申し訳有りませんでした」

「何か懸念点でもありましたか?」


少し言いにくそうにしたあと、話し出した。


「当社の若い従業員が、世界樹様のクッキーという魔法のお菓子と同じ形ではないかと言い出しまして、類似品を作る手伝いだったら大変だと、失礼を承知で確認をさせていただいた次第でございます」

「あら、良くご存じですね。世界樹様のクッキーと同じ形のクロッカンを作る予定ですよ」

「え、それは、あの、」


そこでソウが気付き、口を挟んだ。


「ユリ、本物を見せたら良いよ」

「え? うん」


ユリは指輪を杖に変え、まずは世界樹様のクッキーを取り出した。


「良かったらどうぞ。世界樹様のクッキーです」


そしてそのまま、杖で型を触り収納した。

渡した本物のクッキーよりも、何処から出したかさえ分からない杖で触っただけで、300個もの木の形のプリンカップが消えたのだ。


とんでもない勘違いに気付き、顔を青くしたあと、勢い良く床に土下座した。


「大変申し訳ございませんでした! 他国の要人の方が、流暢に話されるとは、考えが至りませんでした」


椅子を避けた時の物音と、謝る声を聞き、他の社員らしき人が駆けつけてきた。


コンコンコン。


「失礼いたします!どうかされましたか?」


ドアを開け、自社の社長が土下座しているのを目の当たりにし、若い従業員は、目を丸くして驚いていた。


「君が、御社の社長に、懸念点を進言したのかい?」


ソウが話しかけると、社長のこの状況は、自分のせいだと気付いたようで、社長の隣に土下座しようとした。


「ちょっと、なんでそうなるんですか! 私は怒ってないし、謝られるようなこともありませんでしたよ!」


ユリの言葉で、頭を下げていた二人は、その場で姿勢を直した。


「とりあえず、まずは椅子に座ってください」


ユリに言われ、椅子に座り直した。


「私がわかりやすく名乗らなかったせいで、何か誤解があったようで、ごめんなさい。私はユリ・ハナノ。皆さんが魔法の国と呼んでいる国で、Alstroemeriaアルストロメリアというお店でお菓子を作っている責任者です。作っていただいた型は、新作のお菓子に使います。こちらで出回ることはないかもしれませんが、誰かの権利を侵害するような使い方はしませんので、ご安心ください」


「え、本物」


若い従業員が、呟いた。


「やはり、謝らせてください! 疑うような真似をしてしまい、大変申し訳ございませんでした」

「えーとね。むしろ知らなかったのに、偽物を防ごうとしてくれたことを、ありがたく思います。世界樹様のクッキーの本物です。うふふ」


ユリは、若い従業員にも、世界樹様のクッキーを渡した。

やはり、クッキーそのものより、パッと杖が現れ、クッキーがいきなり現れたことの方が衝撃だったらしく、渡されたクッキーをじっと見つめていた。


「えーと、仕事の話をしても良いですか?」

「は、はい!」

「今回作っていただいた型と同じようなプリンカップタイプで、猫型もお願いしたいのですが、できますか?」

「はい! 大きさや形の見本はございますか?」


仕事の話になったら気合いが入ったらしく、目に光が戻ったようだった。


「このクロッカンが、出来上がり見本なのですが、向こうで丸形に、この金物を入れ使っていますが、これだとプリンは猫型にならないので、プリンも作れるように、プリンカップ状態の猫型をお願いします」

「かしこまりました。こちらは、すぐに出来上がると思います。3日ほどお待ちください」

「私が次にこちらに来られるのは、3日後の水曜日なのですが、それが無理なら、ソウが取りに伺います」


ユリは、横のソウを手のひらを向けて指し示した。


「3日後でございましたら、可能でございます。すぐに作り始めます。またのお越しをお待ちしております」


今回分は先払いしたが、次回分は、後払いで良いらしい。



そして、転移組が帰ってくる水曜日。

先に取りに行こうと考えたが、衣装を着ているので断念し、転移が終わって着替えてから、型を引き取りに行く事になった。


担当者が変わり、若い女性だった。


「ハナノ様、お待ちしておりました」

「あら、社長さんや、前回の方は、いらっしゃらないの?」

「大変申し訳ございません。今朝方まで作業をしておりまして、ただいま仮眠中でございます。もうそろそろ起こしても良い時間ですので、ご用がおありでしたら、起こして参ります」

「もしかして、私の注文を仕上げるため?」

「えーと、それも若干ございますが、他の注文の急ぎなどがございまして、予定が押したようでございます」

「お宅の会社って、従業員さん、何人いらっしゃるの?」

「事務の私を含めると、5人です」


ソウが現金を取り出し、ユリは、パウンドケーキを1本取り出した。


「こちら、支払い分。特急料金として、確かこちらで『滋養菓子』と呼ばれているパウンドケーキです」

「え! いただいて良いんですか!?」

「ええ、皆さんでお召し上がりくださいね」

「やっぱり、社長、起こしてきます!」

「お疲れなら、寝かせておいたら良いわ。パウンドケーキでは、睡眠不足は解消されないからね。また何か頼むことがあるかもしれませんが、今回もありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ、ご注文ありがとうございました!」


こうして、型が揃ったのだった。

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