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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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林檎

今日は、10月1日Eの日(だいちのひ)。アルストロメリア会で菊花クッキーを教える予定だ。


数日前にソウに「HMペクチン」を買ってきてくれるように頼んだら、「LMペクチン」を買ってきてしまったが、急いで買い直しに行ってくれた。


HMペクチンとは、ハイメトキシルペクチンの略で、簡単に説明すれば、糖分と酸でゲル化する。

普通のジャムや、パート・ド・フリュイ(ペクチンゼリー)はこちらを使う。


LMペクチンとは、ローメトキシルペクチンの略で、簡単に説明すれば、カルシウムなどのミネラルでゲル化する。

低糖度ジャムや、ミルクベースデザートを作るならこちらを使う。


どちらを使っても、普通のジャムは作ることができる。



「こちらが、ペクチンです。持ち込みましたが、手作りの方法も教えます」


ユリは、粉末のHMペクチンをアルストロメリア会のメンバーに見せた。


昔、リラに王林(おうりん)のジュースを飲ませたことがあったが、そのときリラは青林檎(あおりんご)を知らなかった。この国に無いのかと心配したが、当時のリラが知らなかっただけで、青林檎自体は存在していた。


林檎(りんご)の種類は問いませんが、青林檎を使った方が、出来上がるペクチン液に濃い色がつかず、使い易いかもしれません。私の感想ではありますが、なるべく鮮度の良いもので、酸味の強い品種より、甘い品種の林檎を使った方が、ペクチン濃度が高いように感じます」


ユリは、作り方を書いた紙を貼り出した。


◇ーーーーー◇

青林檎 (王林等)  600g (2~3こ相当)

水       1200ml

レモン果汁    60ml

(orクエン酸     3g)


(1)まず、林檎を良く水洗いします。傷みなどを取り除いてください。

(2)皮を剥かずに林檎を四つ割りにし、種や芯もそのままで5mm程度の薄切りにします。

(3)鍋にカットした林檎、水1200ml、レモン果汁60mlもしくはクエン酸3gを入れて加熱します。酸を加えないとペクチンを抽出できません。

(4)鍋が沸騰したら火を弱め、軽く沸騰させながら蓋をして30~45分くらい加熱をし続けます。

(5)加熱を終えたら、目の細かい布巾で、熱いうちに煮汁を濾します。シノワなどに布巾をおき、布巾の上を縛り、スパテラなどで押すと火傷せず絞れると思います。ただし、平らに押すだけにして、中身を撹拌しないようにしてください。液が濁ってしまうかもしれません。

(6)濾した液がリンゴペクチン液です。容器に入れ、密封して冬箱で保存します。約1週間程度で使いきってください。使いきれないのが判っている場合、製造後すぐに真冬箱での保存をおすすめします。

◇ーーーーー◇


「ペクチン液を使用すれば、ジャムにしても固まらない果物でも、ジャムが作れます。何なら、果肉の無いジュースでもジャムになります。ゲル化させるための条件は、糖分と酸です」


つまり、手作りで作るペクチンは、HMペクチンになる。


「ユリ先生、糖分と酸ということは、お砂糖とレモン果汁を加えればよろしいのでしょうか?」

「その通りです。レモン果汁はジャム作りに必須です。ペクチンを使わなくても同じことが言えます」


酸っぱい味をつけるためかと思って、酸っぱいイチゴには入れないでいたから、イチゴジャムがしっかり固まらなかったのですね。と、何かを悟ったらしい呟きが聞こえた。


「理屈を知ると、失敗が減ると思われます」

「お味以外にも意味がある場合があるのですね」

「少量のものほど、意味がある場合が多いですね」

「こちらを作った後のリンゴは、どうなりますか?」

「廃棄になるので、実がもったいないと感じる方は、良く洗ってから、少し厚目に剥いた林檎の皮と芯だけでも作ることができます。その場合、林檎の皮5~6個分を使ってください」


◇ーーーーー◇ 

(A)

菊花(花弁のみ)   80g

グラニュー糖   180g

リンゴジュース  100ml

粉末ペクチン(25%) 10g

水        120ml

レモン果汁(網濾し) 50ml

◇ーーーーー◇


◇ーーーーー◇ 

(B)

菊花(花弁のみ)   80g

グラニュー糖   180g

水        100ml

液状ペクチン 100~200ml

レモン果汁(網濾し) 50ml

◇ーーーーー◇


◇ーーーーー◇ 

(A)で、作る場合。

(1)菊花は花弁だけを使うので、(がく)から外します。

(2)酢を少量入れた水で花弁を洗います。

(3)沸騰したお湯で茹で、網でしっかり水を切ります。

(4)花弁を鍋に入れ、グラニュー糖とリンゴジュースを加え、少し煮ます。(Bの場合、花弁とグラニュー糖と水を煮ます)

(5)別の鍋に分量の水を入れ、ペクチンを溶かし、弱火で煮溶かします。(80℃以上)(Bの場合、ペクチン液を鍋に入れ、加熱します)

(6)ブクブク沸騰させないように気を付け、2つの鍋を混ぜ、弱火で少し煮ます。

(7)種が入らないように網で濾したレモン果汁を加え手早く混ぜ、火からおろします。

(8)煮沸消毒した瓶に詰め、布を敷いた鍋に入れ、お湯を瓶の肩口まで注ぎ、沸騰させないように15分ほど煮て、中の空気を抜きます。熱いうちに蓋を閉めたら瓶を逆さまにして、冷めるまで置きます。

◇ーーーーー◇ 


家庭用に販売している粉末のペクチンは、すでにグラニュー糖と混ぜてあるため、そのまま水に入れられるが、単体のペクチンを手に入れた場合は、ペクチンの3倍以上のグラニュー糖とまぜてから使う。ペクチンの濃度は、水分の1%(0.5~2%)程度がジャムの目安。4~5%有ると、パート・ド・フリュイの固さになる。


「ユリ先生、ジャムの入った『瓶』を、煮るのですか?」

「ジャムの中の空気を抜くために行います。これをするかしないかで、日持ちが違います。翌日から食べ始めて3日もせず食べ終わるなら、しなくて構いません」

「ユリ先生、最後に瓶を逆さまにするのはなぜですか?」

「これ、実は、私もわかりません。なぜか皆しているので、書いておきました。しなくても構いません。それよりも、熱い瓶の蓋を閉めるので、やけどに注意してください」

「あの、お土産にいただいたクッキーのジャムは、黄色と赤色のセットでしたが、今日は紫色のジャムなのでしょうか?」

「その、紫色の菊で、赤いジャムを作ります」


写していた人も写し終わり、取り敢えず質問もないようなので、実践することになった。


黄色い菊と、紫色の菊のジャムを作る班に分かれ、同時に作業を開始した。又、同じ班内には、搾り出しクッキーの種を作る人も居る。


「搾り出しクッキーが難しいと感じるなら、型抜きクッキーで、同じ型を2枚抜き、1枚だけ中心を他の小さい型で抜いて重ねても作れます。持ち帰ることを想定しないなら、別々に焼き、ジャムをサンドして仕上げても構いません。ジャムもお好きなジャムをお使いください」


「ユリ先生、では、バラジャムでも作ることができるのですね!」

「その通りですが、色味がはっきりしたジャムの方が、きれいに仕上がります」


今日は、誰も連れてきておらず、助手を頼んでいないので、ユリは作っていない。各班を見て回っている。


「ユリ先生、関係無さそうな話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「何ですか?」

「お花のジャムですが、他にどんな花がジャムになるのですか?」

「そうですね、毒がなく、味か、香りの良いものが良いと思います。食品ではありますが、ナス科は全て駄目です」

「具体的には、なにかございますか?」

「んー、今時期なら金木犀とか、ジャムになるらしいですよ。私は作ったことがありませんが」

「なぜご存知なのにお作りになられないのですか?」

「金木犀の花は小さいので、集めて処理するのが大変なのです。一度集めてみましたが、量ったら、ジャムを作る量にならず、仕方なくお酒に漬け込みました。そして、そのままになっています」


各班、ジャムが出来上がり、ボールに移し、ゴムベラで混ぜながら氷水に当て冷ました。


「お店では、私はスプーンで絞り出したクッキーの真ん中にジャムをのせていたんですが、ユメちゃんやリラちゃんから、コロネに入れた方がやり易いと言われました。コロネを作りたい方は、こちらの三角に切ったフィルムを差し上げます」


一応スプーンでのせてみてから、全班がコロネ用のフィルムを取りに来た。ユメとリラが正しいらしい。


全員が、自分が絞り出したクッキーにジャムをのせたようなので、釜担当のメイドが、天板を取りに来た。


お茶室に移動し、反省点や、ジャムにすると美味しいものの話で盛り上がっていると、焼けたクッキーと紅茶が運ばれてきた。


「少し冷めたら、味見してみましょう」


それぞれが、綺麗そうな見た目のクッキーを残し、試食用を選んでいた。


「あら、短時間しか火を通していないのに、柔らかいですわ!」

「想像より、かなり美味しいです」

「花の香りの印象から、苦味が効いたジャムが出来上がると考えておりました」

「リンゴ味が入っていますのでね」

「黄色はより黄色く、紫色は赤紫色になるのですね」

「レモンの量を減らすと、もう少し紫寄りな色になります」


「先ほどの話ですが、酸っぱいお茶に使ったローゼルですが、ジャムにすると美味しいですよ。生のローゼルが手に入るなら、果物のジャムと同じように作れますが、乾物しか手に入らないのなら、一度ふやかしてから使ってください」


「ユリ先生、青いお茶はどうですか?」

「バタフライピーは、難しいです。花弁が火を通しても柔らかくならずに、質量も無いので、花弁ごと入れてもゴミか浮遊物に見えますし、レモン果汁を加えてしまうとピンク色に変わってしまい、青い花の存在意義が保てません」


LMペクチンを使って、青いジャムを作れないこともないのだが、固体がないジャムはかなり異質で、使い道にも大分困る。

作ってみたい人がいるならレシピを書くが、まあ、需要はないものと思われる。


「なにか他に面白いジャムはございますか?」

「お店で作りましたが、皮を剥いた茄子のジャムは、素材を当てられる人が誰もいませんでした」

「そのお話だけ存じておりましたが、事実だったのですね」


「私は好みませんが、ニンジンやトマトなどのジャムも存在しますし、生姜のジャムは、ピリ辛で美味しいらしいです。芋類、豆類は、ジャムと言うより、アンコのようなものが出来上がります。それはそれで美味しいですけどね」


「教えてくださったペクチンを使った、変わったジャムはございますか?」

「固まりにくい果物以外なら、それこそ、この紅茶を固めることもできますし、食べられる花、野菜、何でも作ってみたら良いと思います。風味の薄いや濃すぎる野菜は、果物を混ぜて作ると良いですよ。赤いリンゴの皮だけでペクチンを作った場合、そのまま砂糖とレモン果汁を加えれば、綺麗な赤い透き通ったジャムができます。今回のクッキーなどに使っても綺麗ですよ」


林檎の皮だけでジャムができると言う話が、衝撃的だったらしく、何人かが、作ってみると話していた。


今回のアルストロメリア会も、無事終了した。

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