秋鮭
9月13日(Fの日)
リラが出勤してきた。
シィスルもついてきて、オーブン1か所を使い、100℃で赤紫蘇を乾燥させている。
「今日はマリーゴールドちゃんは来ないの?」
「マリーは、方々に手紙を書くらしいです」
そこへ、ソウがやってきた。
「お、リラ来たか」
「ホシミ様、おはようございます」
「おはよう。秋になったから、鮭を取ってこようと思ってるんだけど、ベルフルール的に、いつが良いとか都合ある?」
「鮭!! 今日でも明日でも、いつでも大歓迎です!」
「なら、明日取りに行くか」
お店が休みの明日、行く予定らしい。
「明日なの? なら、私も行こうかしら」
「ユリが来るなら、弁当持っていって、ゆっくりするか」
「私も行きたいにゃ」
「キボーも!キボーも!」
日程と参加者が決まった。
「リラ、どのくらいあれば良いんだ?」
「以前見た大きさなら、4~5匹有れば、丸一日鮭フライの日になります」
「何日分要るんだ?」
「Eの日、Sの日、Mの日の3日間くらい出せると良いなと思います」
「15匹か?」
「3日間開催なら他の料理も出ると思うので、合計で10匹くらいです」
「イクラはどうする?」
「お店には使わないので、1匹分くらいで良いです」
ソウがリラと話している間、ユリはメモ用紙10枚に、同じことを書いていた。
◇ーーーーー◇
______さんへ
秋鮭の季節になりました。
今年は、事前に集計することにしました。
欲しいものに○をつけてください。
生筋子 1腹
いくら醤油漬け 1瓶
丼ご飯 1膳
丼酢飯 1膳
生鮭 (必要量も記入)
鮭フライ 1人前
タルタルソース 1人前
ポン酢 1人前
軽食とおやつの店 アルストロメリア
店主 ユリ・ハナノ
◇ーーーーー◇
「ソウ、又配ったりもするんでしょ? これ聞いて欲しいんだけど」
「おう」
「ユリ、私とキボウが半分行ってくるにゃ」
「え、ユメちゃん、良いの?」
「任せるのにゃ」
「まかせる、まかせる!」
「ユメ、キボウ、ありがとな!」
「あの、私が言うのは失礼かもしれませんが、領主様のお屋敷の厨房にも、お持ちできますか?」
「あ、そうね。前に持ち込んだわよね」
ユリはもう一枚メモを書いた。
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生鮭要りませんか?
どのくらいあれば、調理に使えますか?
ユリ・ハナノ
◇ーーーーー◇
「そうすると、結構な量だな」
「あの、私も捕まえるお手伝いに連れていってください」
「リラちゃんも来る? 良い魔法の訓練になりそうね」
ソウとユメとキボウは、メモの手紙を持って、各所を回ってきた。
パープル侯爵家
生鮭5匹分
カナデ・サエキ
いくら醤油漬け、酢飯、生鮭2切れ、鮭フライ、タルタルソース
リツ・イトウ
いくら醤油漬け、酢飯、生鮭半身、鮭フライ、タルタルソース
イチロウ・モリ
生筋子、生鮭1匹、鮭フライ、タルタルソース
ジン・ハヤシ
いくら醤油漬け、酢飯、鮭フライ、タルタルソース
マコト・コバヤシ
いくら醤油漬け、酢飯、生鮭半身、鮭フライ、タルタルソース
ヒサシ・ハナダ
生筋子、いくら醤油漬け、酢飯、生鮭1匹、鮭フライ、タルタルソース、ポン酢
ダイゴ・サカキバラ
いくら醤油漬け、酢飯、鮭フライ、タルタルソース
ススム・タケシタ
いくら醤油漬け、酢飯、鮭フライ、タルタルソース
カイト・サトウ
いくら醤油漬け、酢飯、鮭フライ、タルタルソース
タイキ・マツモト
いくら醤油漬け、酢飯、鮭フライ、タルタルソース
小計
生筋子2腹
いくら醤油漬け 9瓶分
ご飯 無し
酢飯 9杯
生鮭 8匹と2切れ
鮭フライ 10人前
タルタルソース 10人前
ポン酢 1人前
ベルフルール
生鮭 10匹
いくら 1腹分
賄い用・配布用
生鮭 4匹(フライ用3、予備1)
いくら合計 15腹くらい
「計算してみたら、生鮭22匹だわ。うち2匹はそのまま渡すとしても、20匹はこちらでおろさないとね」
「イクラ、足りるのにゃ?」
「生鮭の方が多いから、大丈夫よ」
そんな取り決めをして、鮭を獲りに行く事になった。
翌日の9月14日(Wの日)
「ユリ様、昨日言われた着替えを持ってきました」
「はい。預かっておくわね」
ユリは、リラから預かった服を杖で収納した。
「出発できるか?」
「大丈夫よ」
「つかまってー、つかまってー」
ソウ以外の全員がキボウに掴まった。全員を運ぶには遠いので、先にソウに行き先を教えて貰い、キボウが皆を転移させた。
転移先は、来たことがない場所だった。
「あら、結界が見えるのね」
以前、群青領で屋形船で結界にぶつかったときは見えていなかった結界が、うっすら見えるようになった。単体の結界はおろか、全ての結界を張れるようになり、ユリのレベル的なものが上がったのだろう。
「見えるのにゃ!?」
「見えるのか!?」
「何か見えるんですか?」
ユメもソウもリラも何も見えないらしい。
「なら、ユメちゃんは、あまり海側に入らない方が良さそうね。河口付近には近寄らないでね」
「わかったにゃ」
「今は、小潮で干潮だから、一番水位が低い時間なんだ。2時間以内を目標としてくれ」
護岸工事されているらしい積まれた岩に、水位の痕が残っている。
「川の中に張る結界は、円よりレモン型に張ると、水の抵抗が少ないよ」
水上を歩いて行き、ユリは足元の川に結界を張った。
「レモン型に張った後は、どうしたら良いの?」
「川下側を水が抜けるように網状や、穴を空けるんだけど、出来そう?」
「レモンの下側を切るイメージかしら?」
「それで出来そうならそれで!」
あっさりユリは成功した。
「出来たわ! これで良い?」
「お、ユリ凄いな。それで中にいる、顔の優しいのだけ陸にあげてくれ」
「ええー!」
「あ、ユリ様、私が見分けます!」
リラがユリの結界内にいる雌の鮭だけ引き取りに来た。
結界の高さは水面と変わらないので、何とかまたいで中に入って来た。リラはびしょ濡れだ。水中の結界はまだ上手に張れないらしい。
「ホシミ様、鮭どうしたら良いですか?」
「俺が活け締めと血抜きをするから、川岸に持ってきてくれ」
戻るには、リラは又びしょ濡れになってしまう。
キボウが転移してきた。
「リラ、シャケー!」
「あ、はい、これとこれとこれです」
「わかったー」
キボウがソウのところまで運んでくれた。
ユリはすぐとなりに更に結界を作り、水を抜いてから、最初の結界と繋げ、リラを移動できるようにした。
リラが魚を選ぶと、キボウが運んでくれる。
これを繰り返し、シャケの雌を合計で18匹を確保したところで、ソウが言った。
「イクラ分を確実に確保したから、あと4匹は雄でも良いぞ」
「ユリ様、卵がない以外にも何か違うんですか?」
「味が濃いかな」
「なら、雄も食べてみたいです」
雄雌2匹ずつ捕まえて、鮭獲りは目的を果たした。
「リラちゃん、一旦うちでシャワーを浴びて着替えましょう。このままでは風邪をひいてしまうわ」
ユリはリラを連れて1度家に戻った。予想して、風呂を沸かしておいたのだ。リラに風呂を貸し、着替えを置いて廊下に出た。リラが風呂に入ったあと、脱いだ濡れた服を洗濯機にいれ、スイッチを入れた。
暇なので、いくらの醤油漬け用のたれを作り、火にかけている途中で、リラが階段を下りてきた。
「ユリ様、お風呂ありがとうございました」
「ちゃんと温まった?」
「はい!温かかったです」
鍋が沸騰したのでコンロからおろし、布巾をかけてから、皆の元に戻った。




