生姜
朝の掃除が終わったあと、ユリは厨房を片付けていた。
「おすしー、しろー、なにー?」
「なあに、キボウ君」
「ユリ、キボウがさっきから何言ってるかわからないにゃ」
どうやら、ユメに言っても伝わらずに、ユリに言いに来たらしい。
「お寿司に入っていた白いもの?」
「それー」
「んー、ご飯じゃないわよね。烏賊?」
「それは私も聞いたにゃ。違うらしいにゃ」
ユメは、ソウに借りているタブレットで、寿司の画像を出し、聞いてみたけど、ダメだったらしい。
「んー、もしかして、ガリ? 甘くて辛くてしゃきしゃきしてた?」
「あたりー!」
「ガリがどうしたの?」
「たべるー」
「ガリを食べたいの?」
「おいしー!」
「じゃあ、作りましょう」
「あれ、作れるのにゃ!?」
昨日食べた寿司のガリを気に入ったらしい。
「お手伝いしてね」
「わかったー!」
「私も手伝うにゃ」
ユリは畑に行き、生姜を1株抜いてきた。
「これは新生姜です。葉を落とし、良く洗って、切り分けます」
ハウスものは初夏から出回るが、露地物の新生姜は、9月頃から出回る。畑に植えた生姜は、まさに今が旬なのだ。
ユリが葉を切り落とすと、ユメとキボウが、洗ってくれた。
「汚れの他に、枯れた茎の残りも綺麗に取り除きます。爪やスプーンなどで掻くようにすると取りやすいですよ」
「洗ったにゃ!」「あらった、あらったー!」
「綺麗に洗えたら、しっかり水気を拭き取り、繊維にそって、包丁で薄切りにするか、スライサーで薄切りにします。薄切りは私がしましょう。ユメちゃんとキボウ君は、甘酢を量ってください」
ユリがスライサーで生姜の薄切りを作る間に、甘酢の計量を頼んだ。
「量ったにゃ。他にすること有るにゃ?」
「お湯を沸かしておいてください」
「わかったにゃ」
お湯が沸く頃、ユリのスライスも終わった。
「沸いたお湯に、スライスした新生姜を入れ、少し茹でます。ごく薄切りなら1~2分、少し厚切りなら3~5分くらいかしらね」
これはスライサーでスライスしたごく薄切りなので、2分ほど茹でた。ザルに取り、水気を切り、軽く塩を振った。
「お塩を振ったら少し置いて、しっかり絞って水気を切ります」
ユリが生姜を絞ると、面白がって、ユメとキボウも手伝ってくれた。結構しっかり絞る必要がある。
「絞った生姜は、瓶に入れます。そこに、量ってもらった甘酢を入れて、軽く解して明日まで待てば出来上がりです」
「凄いにゃ!」「できたー、できたー!」
「生姜の切り落とした赤いところを入れると、うっすらピンクになる筈なんだけど、なぜかいつもならないから、ほんの少し、赤梅酢を加えて色付けしても綺麗です。生姜の色のままでも美味しそうだけどね」
珍しく、時送りをしないで、明日まで待つらしい。
生姜を茹でたお湯を、捨てずに火にかけ始めた。
「ユリ、それはどうするのにゃ?」
「うふふ、あるものを作ります」
鷹の爪(とうがらし)とシナモンスティックとローリエと粒黒胡椒を少量加え、1/3くらいになるまで煮詰めていく。
「なんか、顔がピリピリするにゃ」
「ピリピリ、ピリピリ!」
「あー、顔洗った方が良いわよ。そばで見てると全身生姜臭くなるわ」
ソウが階段を下りてきた。
「何やってるの? 上まで凄い匂いするけど、生姜?」
「ガリを作ったから、茹で汁を煮詰めているわ」
「あー、成る程」
それ以上聞かないソウを不思議に思ったらしい。
「ソウは、何が出来るのかわかるのにゃ?」
「ユメとキボウも知っているものが出来るぞ?」
話しているうちに煮詰まり、網で濾してから、三温糖を混ぜ良く溶かした。
「冷えたら、炭酸で割って飲むと良いわよ」
「もしかして、ジンジャーエールにゃ?」
「正解」
三温糖を使ったことでわかったらしい。三温糖は、ジンジャーエールにしか使っていないからだ。
「ユリ、新生姜があるなら、佃煮も作ってよ」
「良いわよ。切るの手伝ってね」
ユメとキボウが、畑から新生姜を抜いてきた。
「下処理は、同じよ」
しっかり洗ったあと、今度は厚切りのスライサーでスライスし、包丁で細切りにした。もちろん最初から包丁で細切りにしても、好きな方で良い。
細切りになった新生姜を、10~15分くらいしっかり茹でる。時期を逃しひねに近い生姜の時は、もう少し長く茹でると良い。
茹で終わったらザルに上げ、水気を切り、別の鍋に入れて調味料を加えて火にかける。
結構水分が出てくるので、根気よく強すぎない火で鍋を混ぜ続ける。
出来上がったら皿に取り、白煎胡麻をふりかけ、出来上がり。
「調味料入れた後の煮詰めるのが大変なのか」
「いつまでも水分が出るのよね。でも強火だと焦げるし」
「さっそく食べよう!」
「急いでご飯を作りましょう。午後からは、栗剥き隊が来るからね」
「今年も来るんだ」
以前も、たくさん手伝いに来てもらった。
「もちろん、リラちゃんも来るらしいわ」
「リラは、いつが休みなんだ?」
「本来は、水土らしいけど、うち手伝っているし、ちゃんと休んでいるのかはちょっと謎ね」
「ユリが店とかアルストロメリア会とかの時手伝うだけなら、ユリよりは休めてるんじゃないか?」
「私もそう思っていたんだけど、シィスルちゃんやマリーゴールドちゃんに聞くと、なんだかんだお店に居て、仕事しているらしいのよね。だから、ここに来ている方が、むしろ休めていると思いますって言われちゃったわ」
「ははは。なら、秋鮭でも褒美にやるか」
「それは良いわね。欲しがっていたものね」
キボウは厨房をフラフラしていたのに、ユリとソウの話が聞こえていたらしい。
「しゃけ?」
「キボウ君、ソウが、鮭捕まえてきてくれるって」
すぐさまソウに駆け寄っていった。
「いつー、いつー?」
「リラに予定を聞いてからな」
「リラ、きく?」
このままだとリラを召喚しかねないので、ユリが声をかけた。
「とりあえず、ご飯食べましょう」
炊き立てご飯に新生姜の佃煮を出すと、皆大喜びで食べた。
「ピリッと辛いのに、甘くて美味しいにゃ!」
「去年(6年前)もそう言っていたな」
「おいしー、おいしー!」
「キボウも気に入ったか。新生姜の佃煮、本当に旨いよな」
「みんなが喜んでくれると、作った甲斐が有るわぁ」
ガリは今日はまだ食べられないが、新生姜の佃煮を食べて、特にキボウが喜んでいた。ユリは小さなおにぎりを作り、キボウに渡した。
「キボウ君、新生姜の佃煮を入れたおにぎりよ。リュックサックに入れておけば、いつでも食べられるわよ」
「ユリ! ありがとー!」
予想はしていたが、やはりリビングから転移で消えた。
「世界樹の森に行ったんだろうな」
「世界樹様のところにゃ」
「そうかもしれないわね」
後片付けをしていると、リラが呼ぶ声が聞こえた。
「ユリ様ー!」
栗剥き隊が来たのだろう。




