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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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開催

会場に流れる音楽が変わり、ライトが少し暗くなった。司会者がマイクを取り、大変長らくお待たせいたしましたと、話し始めた。

歩いていた人も急いで席に座り、会場が落ち着いた。


厳かな音楽に変わり、ライトアップした扉から、キラキラした色打掛(いろうちかけ)のカエンと、派手な紋付き袴姿のフカモリが登場した。カエンは角隠しを被っているので、先ほどの綿帽子と違い、顔がはっきり見える。


「カエンちゃん、素敵ねぇ」

「姉上、嬉しそう」

「カエン、楽しそうだな」


微笑みながらも、しずしずと高砂(たかさご)席へ歩いていった。


「なんか、ド派手な打掛だな」

「本家当主だからな、あれ、ん千万円するんだ」

「さすが、カエン。金持ちだな」


ソウと、父親の炎寿(えんじゅ)が話していた。


「しかも、重量が20kg近く有るんだぞ」

「結婚式の衣装なんて、プライドで着るのよ」


ソウの母親のエリカも、話に加わってきた。


「ユリさんの結婚式の時も、凄くキラキラしていたけど、重たくなかったの?」

「普通がわかりませんが、重くはなかったです」

「か、かあさん、ユリのは、宝飾だけで輝いていた訳じゃないんだよ。あれは主にユリの魔力」

「ソウ君、そうだったの? ユリさんは本当に凄いのね」

「あはは、どうも。そういえば、お義母様はお花の名前ですから、魔力がありますよね?」

「有るのかしら? 良くわからないわ」

「後で、なにかお教えしましょうか?」

「良いの!? 是非お願いするわ!」


エリカは子供のように、ニコニコと喜んでいた。


司会者が演し物(だしもの)を告げた。まずは鏡開きをするらしい。会場に、4()樽が用意された。4斗は、リットルに換算すると、72リットルになる。


日本酒の銘柄の説明がされると、会場から歓声が上がった。どうやら、幻と言われるほどの名酒(めいしゅ)のようだ。何と関係者が挨拶を始めた。杜氏(とじ)なのか酒を我が子と呼んで話している。本日の招待客でもあるらしい。


「一度で開けようと考えずに、ほどほどの力で叩いてください」


あまり思いきり叩き割ると、酒が跳ねるそうだ。洗えるかもしれないスーツならともかく、婚礼衣装にかけるのはおすすめできない。


カエンとフカモリが、2人でひとつの大きな木槌(きづち)を持ち、樽の上側を叩いた。何度か叩き、蓋の木が割れた。


盛大な拍手の後、その酒が振る舞われた。ワゴンにのせた給仕係が、(ます)で飲むか、(かん)で飲むか、冷酒で飲むか、好みを聞いてきた。


「お、お猪口で」


少ないつもりで、ユリが硝子のチョコを指し告げると、(つい)の美しい2合徳利(とっくり)も置いていかれた。選択肢のなかで、実は一番量が多い。


「あわわわわ。どうしよう。こんなに飲めないわ」

「ユリちゃん、残したら飲むから安心すると良い」

「お義父様、お願いします」


披露宴参加者のなかで唯一未成年の(よう)には、尋ねずに白葡萄のジュースを置いていった。


「乾杯の後、ジュースをお持ち致します」


そっとユリにだけ聞こえるように、給仕が去り際に告げていった。


ユリから配りはじめ、(よう)が最後だった。カエンからの指示かもしれない。この円卓は、ユリの隣にソウ、炎寿(えんじゅ)、エリカ、遥、司、(よう)で囲んでいる。


司会者が、乾杯の音頭を取る人を指名し、乾杯の挨拶が行われた。


「幻の名酒だからって、無理にたくさん飲まないでくださいね。飲みきれない分は、希望者にお持ち帰りいただけますので、嗜む程度で楽しみましょう。ツキミカエン様とフカモリハジメ様の明るい未来に、カンパーイ!」


会場に笑いが起こり、皆楽しそうに乾杯をした。

少しして、新郎新婦が一時退場した。衣装替えをするらしい。


その後は、和洋折衷の料理が並び、ユリのジュースも運ばれてきた。ユリはさっさと徳利を炎寿に渡し、久々の、他人が作った豪華なコース料理を堪能するのだった。


飲んでいる人はともかく、料理は割りとさくさく運ばれてきた。丁度お昼ご飯くらいの時間なので、皆お腹が空いているのか、美味しいからなのか、食べるのが早い。


「そういえばソウ、夕飯の注文はしてくれた?」

「勿論。キボウも普通ので良いんだよな?」

「今なら大丈夫だと思うわ」


ユメが気を遣ったのか、お寿司をお土産に頼まれた。ユリが帰ってきてから作らなくて良いようにと考えたらしい。


メイン料理の手前で、新郎新婦が戻ってくるらしく、司会が拍手でお迎えくださいと言っていた。


ライトアップされたドアが開くと、白とピンクの透き通ったような儚げな感じの色の生地で、ドレープもフリルも盛り盛りの豪華なドレスでカエンは現れた。深森は、深緑色のタキシードを着ている。


「ドレスは、新婦自らデザインをし、月見草をモチーフとしているそうです。新郎のタキシードは、新婦が一番映える色をと新郎が生地を選んだそうです」


司会の説明に、会場が感心していた。


そのままキャンドルサービスが始まり、カエンとフカモリがテーブルを回ってくる。


「カエンちゃん、フカモリさん、ご結婚おめでとうございます。和装もそのドレスも似合っているし、とても素敵ね」

「ユリ御姉様、ありがとうございます」

「ハナノ様、どうもありがとうございます」


「カエン、フカモリ、結婚おめでとう。幸せになれよ」

「お兄様、ありがとうございます」

「ソウ様、ありがとうございます」


「ハジメ君、カエン、結婚おめでとう。本当に良かった」

「お父様、ありがとうございます」

「お義父様、ありがとうございます」


「ハジメさん、カエン、結婚おめでとう。とても綺麗よ」

「母上様、ありがとうございます」

「お義母様、ありがとうございます」


「カエン様、フカモリさん、ご結婚おめでとうございます」

「遥さん、ありがとうございます」

「ホシミ婦人、ありがとうございます」


「カエン様、フカモリ君、ご結婚おめでとうございます」

「司さん、ありがとうございます」

「ホシミさん、ありがとうございます」


「姉上、フカモリさん、ご結婚おめでとうございます」

(よう)、ありがとう」

(よう)君、ありがとう。これからよろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


次にフカモリの親族席へ回っていった。


派手なパフォーマンスで、客の見えるところでフランベしたメインディッシュが提供されたあと、祝辞がのべられ、電報が読み上げられ、歌手の生歌が披露され、フカモリの友人らしき数名の素人手品が披露された。


電報の読み上げと一緒に、魔法の国の女王陛下から、滋養(じよう)パウンドケーキ100本と強化クッキー100枚が贈られたと伝えられた。それを聞いたユリは、こちらではそういう名前で呼ばれているのねぇと、感心しながら聞いていた。そういえば、ソウの元職場に行った時に当時の上司が、滋養強壮(じようきょうそう)菓子と呼んでいたなぁと、思い出した。


デザートが提供され、新郎新婦による感謝の手紙や花束贈呈があり、約3時間の豪華な披露宴はお開きになった。


希望者には、鏡割りの時のお酒が、開いていない4合瓶で提供された。ユリは貰おうと考えていなかったが、余るらしく、ソウが全て引き取ると話していた。給仕の担当者は、カエンから、ソウに聞くようにと指示を受けていたらしい。


「ソウ、日本酒どうするの?」

「パープルとか、マーレイとかにどうかと思って」

「それは良いわね!」

「ユリ、料理につかえない?」

「え、高価な日本酒なんでしょ? 勿体ないわ」

「開けた方のお酒の行方が、決まってないらしくてさ」

「封を切った分なら、使っても良いけど、それでも勿体なくない?」

「開けたのは、他人には差し上げられないだろ?」


確かに、開いていない瓶なら喜ばれるだろうが、封を開けてしまった酒は、喜ばない人が多いことだろう。


「んー、なら、シャーベットにして売りましょうか?」

「それが良いかもな。先読みの巫女の慶事で振る舞われた、幻の酒で作ったシャーベットってことで」


名前が長い。ユメがいたら突っ込みを入れてくれただろう。


「お酒の相当額の、パウンドケーキを追加したら良いかしら? 1瓶買ったら、いくらくらいするの?」

「20万円は下らないんじゃないか?」

「え!? あの4斗樽、いったいいくらだったの?」

「1000万円以上じゃないか?」


「いやいや、鏡開きに使う4斗樽の酒は、中身全部酒じゃないんだよ。実際に、鏡開きした直後に、給仕が回ってきただろ? せいぜい1斗(18リットル)程度が入っていて、4斗分買うんでも、残りは1升瓶(いっしょうびん)か、4合瓶(よんごうびん)だよ」


炎寿(えんじゅ)が力説してくれた。

そういえば、広い会場に給仕がたくさんいるとしても、1つの樽から一瞬で汲み分けるのは不可能だ。


少し申し訳なさそうに、話が落ち着くのを待っていた給仕の担当者が、紙に書いたものを渡してきた。


◇ーーーーー◇ 

封が開いている一升瓶  14本(目算で4~5升分)

未開封の四号瓶     18本

樽に余っている酒    およそ17リットル

◇ーーーーー◇


開いている瓶が複数あるのは、披露宴の参加者がおよそ300人だったらしいので、40テーブルくらいあったのだ。


「お義父様、お義母様は、要らないのですか?」

「当然貰ったよ」

「私もいただきました」

「ありがたくいただいたよ」

「私も貰っちゃったわ」


炎寿もエリカも、司も遥も、すでに受け取り、それでも余っている数らしい。


「わかりました。全て引き受けます。皆さんがお帰りになってから、受け取りましょう」


いつまでも会場内に居ては、片付けの邪魔になるかと考え、控え室に戻ることにした。

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