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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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退院

10時頃、ソウがユリに告げてきた。


「そろそろ迎えに行ってくるよ」

「1人で大丈夫なの?」

「カルテを見せて貰ったけど、俺より軽いらしいよ」

「なら、よろしくお願いします」


足の腫れが引き、体の浮腫(むくみ)が取れたため、見た目の印象より軽かったことが判明したらしい。ユリを連れて行かない一番の理由は、あちらの医師からユリに直談判をされてしまうのを防止するためなのだが、ソウはそんなことは告げない。


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


ソウは、割りとすぐに帰ってきた。


「ユリ、もってのほか、受け取ってきたよ。あと、あの子供は?」

「お母さんと、外で待ってるって言っていたわよ?」


ユリが外を確認に行くと、マグノリアと母親が、父親に抱きついて、無事を喜びあっていた。


ユリとソウに気づき、お礼を言い続けるので、ユリが遮った。


「はい。感謝するなら、私の言いつけを守ってください。1週間は仕事などを休み、しっかり養生すること。今月中は、無理をしないことです」

「はい」


話の続きはなんだろう?と、期待した目でユリを見ている。


「以上です」

「え? お医者様に()ていただいたお金は、どうしたらよろしいのでしょうか?」


母親が心配そうに尋ねてきた。


「あれ、お金かからなかったのよ。結果的に。だからそこは心配ありません」

「あ、あの、お医者様でも無理だったところを、ハナノ様が助けてくださったと、理解しています。それに報いるためには、何をしたらよろしいでしょうか?」


父親が、更なる質問をしてきた。


「だから、しっかり休んで、体調を整えることです。一番の感謝は、ここまで歩いて知らせに来たマグノリアちゃんにすると良いですよ。私はマグノリアちゃんのために力を使ったのです。年齢よりもかなりしっかりした、本当に親孝行なお嬢さんですね」


ユリがニコッと笑い、マグノリアが一番に反応した。


「ユリたま、どうもありだとざいまつ!」

「はい、どういたしまして」


両親は、呆気に取られたままだ。


「ユリー、キボー、てつだう?」

「マグノリアちゃんを送ってくれるの?」

「あたりー!」


キボウの後ろにユメがいた。ユメが頼んだのかもしれない。


「キボウ君と手を繋いでください」

「は、はい」

「いくよー」

「本当にありが」


言いきらないうちに、キボウが転移してしまった。

ソウとユメと3人で少し笑いながら、厨房へ戻った。


「無事に戻ってこられたみたいで、良かったですね」

「リラちゃん、仕事任せてばかりでごめんなさいね」

「いえいえ、もし感謝して貰えるなら、今日は2冊と言うことで」


リラはブレない。


「あのね、徹夜で読まないなら、何冊でも構わないのよ?」

「ちゃんと寝ます! ありがとうございます!」


ソウが鞄から荷物を出すと、ユメとリラが見にきた。


「これなんにゃ?」

「これが菊の花ですか?」

「『もってのほか』と言う名前の食用菊です」


薄紫色の菊の花だ。茎や葉が無く(がく)付きの花だけが袋に詰め込まれている。


「キボー、きたー」

「キボウ君、お帰りなさい。送迎ありがとう」

「よかったねー」


リラは、ラング・ド・シャ作りに戻り、手を動かしながらも話に参加していた。


「そのお花をどうするのですか?」

「この菊の、花弁(はなびら)だけを使います。(がく)をはずして、ごみや枯れている花を避けて、全て(むし)ってください」

「わかったにゃ!」

「キボー、てつだう!」


袋を逆さまにして菊をボールに出した。


「ユリ様、このお花は、何になるのですか?」

「本当は、酢の物を作りたいところだけど、今、料理をほとんど出していないからね。だから、ジャムにしようと考えているわ」

「薔薇以外もジャムになるのですね!」

「作ったことはないけど、桜や桃や金木犀(きんもくせい)の花もジャムが売っているのを見たことがあるわよ。作るのは初めてなのよ。美味しく出来ると良いわね」

「味に想像が付かないので、楽しみです」

「私も楽しみよ」


ユリとリラは、お店の注文をこなしながら、矢車菊をのせたラング・ド・シャを作り続けていた。花を飾るのは、マーレイが大分手伝ってくれた。


「ユリ、菊の花弁、分けたにゃ!」

「ユメちゃん、キボウ君、どうもありがとう」

「よかったねー」

「次は何するにゃ?」

「花の重さを量ってから、お酢を少しいれた水で、花弁を洗います」


ユリは手早く重さを量った。大きめなボールに酢水を作り、花弁をざっと洗っていく。


「私が洗うにゃ!」

「キボーも、キボーも!」

「では、お願いします」


ユメとキボウに任せ、ユリはグラニュー糖やペクチンを量るのだった。


「全部洗ったにゃ。結構汚れが沈んでるにゃ」


水の底に、細かい汚れが沈んでいた。


「綺麗に見えても、結構汚れが付いているんですね」


覗きに来たリラが感心したように言っていた。


「花は土で育てるからね。ラング・ド・シャが終ったら、絞り出しクッキーを作ります」

「はい。予定数まで、あと少しです!」


ユリは洗った菊に水とグラニュー糖を加え、加熱し始めた。同時進行で、ペクチンも加熱していく。


鍋を覗きに来たユメが、何か手伝いたいのか、キョロキョロしていた。


「ユメちゃん、レモン汁が必要なんだけど、お願いできる?」

「任せるのにゃ!」


ユリは手持ちからレモンを数個渡し、レモン絞りをユメに頼んだ。


花の状態のときは薄紫色だったが、花弁を毟ると付け根は白いので、鍋に入っている菊は最初の印象より更に薄い色をしていたが、火が入っていくと、少しだけ色が濃くなったように見えた。それでも薄紫色だ。


「ユリ、レモン絞れたにゃ」

「ありがとう。茶漉しを通しながら、ユメちゃんが加えてみる?」

「やってみるにゃ!」


ユメがレモン果汁を加えると、それまで薄紫色だった菊の花弁は、はっきりした色合いの、美しい赤紫色になった。


「色が変わったにゃ!」

「アントシアニンね」

「それ、なんにゃ?」

「酸性で赤系統、アルカリ性で青系統に変色する色素ね」


「バタフライピーと同じですね!」

「リラちゃん、その通りよ」


別鍋で煮溶かしていたペクチンも加え、菊の花弁のジャムを作った。


「赤っぽい方が、美味しそうに見えるにゃ!」

「そうね。美味しそうに出来て良かったわ」


「ユリ様、ラング・ド・シャ終わります。次、絞り出しクッキーで良いですか?」

「ジャムを少し冷ましたいから、明日分の水玉サイダーの水玉を先に作りましょう」

「手伝うにゃ!」

「キボーも、キボーも」


「あれ? ユリ様、寒天(ふや)かしてないのですか?」

「あ、それね。粉寒天を使うから、潤かしておかなくて使えるわ」

「おおー! 牛乳、バタフライピー、苺、キウイフルーツ、黄桃、パインで6種類ですよね」

「その通りです。ユメちゃんとキボウ君は、牛乳とバタフライピーの担当をお願いします。リラちゃん、2種類何が良い?」

「なにか差がありますか?」

「イチゴとキウイフルーツは、種があるので、型に流し込んだあと蓋を慎重にする必要があります」

「なら、苺と黄桃を担当します」


水を火にかけ粉寒天を加え煮溶かし、加えるフルーツピュレや牛乳なども軽く温めている時、ユメが質問した。


「ユリ、これで何人前なのにゃ?」

「123人前ね」


ユリが答えると、ユメは、穴の数を数え始めた。


「・・・120、121、122、123。123にゃ!」


1枚で123玉作れる製氷皿が3枚ずつなので、水玉サイダーに3粒ずつ使うと、ちょうど123人前になる。(合計18枚ある)


牛乳やフルーツピュレを混ぜたあと、50度くらいまで下がるのを待ち、そっと3 枚の製氷皿に流し込み、更に慎重に蓋を閉めた。


「ユリ様、この、残ったのはどうしますか?」

「それは、ココットに注いでおいてくれる? 明日の外おやつに使います。ユメちゃん、ミルクは、少し少なめに注いでください」

「わかったにゃ」


各自2種類目を作り、バタフライピーの寒天は、ミルクの上に流し入れてもらった。

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