女神
知っていることを最初から説明し、メイドには1週間ほど休みを貰った。明日の10時頃連れて戻る予定と説明し、安心させた。
メイドとマグノリアが部屋を退室し、パープル侯爵も退室した。残るローズマリーとマーガレットは、ユリに用があるらしい。
「ユリ様、紫陽花のゼリーは、簡単でございますか?」
「うわ、耳早いね」
ソウは、笑っていた。
「簡単です。ほぼゼリーなので、10歳くらいでも作れます」
ユリは作り方を説明し、二人を納得させた。作ってみたが、上手く行かなかったらしい。花の丸みのために半球型を使うと思い付かなかったようだ。それにしても、何処で情報を得たのだろう。
無事マグノリアを母親に渡し、ユリとソウは自宅に戻ってきた。
午後は、今日もたくさんキャラメルが売れた。
店の営業が終ってから、もう一度様子を見に行ったら、目が覚めたらしく、ユリとソウを見かけたとたん、上体を起こして、お礼やお詫びを言ってきた。
「あら、言葉大丈夫みたいね」
「はい。あの、答えられませんでしたが、黒猫様がいらしたことも含め、回りの話はずっと聞こえておりました」
「意識自体はあったのか」
「マグノリアちゃんは、お母さんに渡してきたから安心してね」
「本当に、何から何までありがとうございます」
「明日迎えに来るまで、しっかり休むようにな」
「かしこまりました」
帰ろうとしたところで、病院の関係者につかまった。
「ホシミさん、お願いがございます!」
「何? ユリなら貸さないよ?」
普段ユリには見せない冷たい態度で、ソウが対応する。
「え?」
「えー!? 私、貸し出されるお願いなの?」
うーんとうなり、話の方向を変えてきた。
「では、1つ質問させてください」
「何?」
ソウが鋭い視線で睨む。
「あのトゲは、大分中に入っており、外から黙視では確認できなかったと思われます。どのようにして判明したのでしょうか? 患者を連れていらしたとき、状況が不明とおっしゃっていましたし、本人から聞いたとは思えません」
治療が出来ない状況下で、詳しく診察をした人がいると、断定して聞いてきていた。
「それがわかったら、どうしたいのさ?」
「恥を忍んでお願いします。我が娘を見てください」
興味本位で知りたいのかと思ったら違うらしい。
「医者として、それで良いの?」
ソウは、大分呆れた様子で言っていた。
「この事で、医師を辞めろと言われれば辞めますし、払えない額の支払いを要求されれば、全ての財を処分して換金し、残金は生きている限り支払い続けます」
あまりの真剣さに、ユリもちゃんと説明しようと思った。
「あのね。私に医療知識はないのです。本人の治す力を借りているだけなので、私が認識できる病や怪我以外は、治せないかもしれないのです。老いも止められませんし、心の病気も無理だと思います。万能な訳ではありません」
「それでもどうか、お願い致します」
その場に土下座する勢いで頼み込んできた。
「じゃあ、お見舞いだけ、伺ってみます」
そして、閉鎖病棟を訪ねた。
窓に鉄の格子が入った病室に、多数の機械と、点滴の管が腕に繋がり、眠りながら暴れるガリガリに痩せた少女がいた。ユリは一目でわかった。この少女は呪われている。
「ソウ、あなたは入ってはダメ」
ユリは、ソウの安全のために黒の結界を展開し、治療を開始した。黒の結界の外に、4色結界も展開し、医師すら入れないようにした。
ユメが受けた呪いと違い、大分軽いものだが、少しずつ確実に命を削っていっている。
黒っぽく淀んで見える心臓と肺の辺りと、何かがまとわりついているように見える額に手を置き、元凶が消えるように願いながら魔力を込めた。煙のような灰色に濁ったモヤが立ち上ぼり、ユリの頭上で光って消えていった。
ユリは離れて全体を見て、肌の色の正常を確認し、結界を全て消した。
少女が目覚める。
「女神様!」
ユリを見て、キラキラした目で見つめてくる。
結界を消したことで、医師が部屋に入ってきた。
「目が覚めたのか! 良かった。良かったぁぁぁ」
「お父様、なんですか、人前で泣くなんて恥ずかしい。それより、夢の中で、女神様に助けられたの! その女神様とそっくりな方が、今、目の前にいらっしゃるのよ!」
「確かに、彼女は女神様だ」
「やはりそうなのね!」
ユリは居たたまれなくなり、退室することにした。
「しっかり食べて体力を付けてくださいね」
「はい。女神様!」
「では、これで」
ユリが部屋を出ると、医師が追って来た。
「あの結局、どこが悪かったのでしょうか?」
「んー、信じられないかもしれないけど、彼女、呪われていました。原因や理由はわかりません」
「呪い!? そりゃ、医学じゃわからないわけだ」
信じてくれるらしい。
「今受けていた呪いは滅しましたが、原因があるなら繰り返すかもしれません」
思い当たるものはないらしい。
「ありがとうございました。このお礼はどのようにしたらよろしいでしょうか」
「ソウ、どうしたら良い? 私は特に希望はないわ」
「なら、口外禁止と、今入院させてる男性の治療費ってことで」
「そんなに安くて良いのですか!?」
「10割負担だぞ? 安くもないだろ?」
「木片を取るために切開はしましたが、部分麻酔ですし、使った薬剤も、抗生物質くらいですからね。あとは検査費くらいです」
「それで良いよ。明日来るからよろしくな」
「よろしくお願いします」
「お待ちしております」
ユリとソウは、やっと自宅に帰ってきた。
「お帰りにゃ。どうだったにゃ?」
「ただいま。気が付いていてね。明日帰ってこられそうよ」
「良かったにゃ」
「よかった、よかったー」
「さあ、明日も頑張りましょう!」




