表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

637/689

子守

ソウの部屋からは、ソウが病院に直接転移した。

ベッドだけがある部屋からソウは出ていき、すぐに医師らしき人たちがソウと一緒にやってきた。


「ホシミさん、この方はどうしたんですか?」

「幼い子供が、父親が熱があって何も食べないと訴えてきたんだよ。だから詳しいことはわからないけど、左足にあるトゲが元凶で熱が出ているようだよ。支払いは俺が責任持つから見てやってよ」

「わかりました」


医師が診察している間、ユリはソウに伝えた。


「言葉通じないから、向こうの文字で簡単に何か書いておいてもらえる?」

「そうだな。どうしてここにいるのか、説明を書いておくか」


翻訳の魔法は、本人に意識がない時にかけても、効かないかもしれない。ソウはユリの読めない文字で、何か書いていた。


「ホシミさん、もしかしてこの方、言葉が通じないんですか?」


ソウの書いていた紙を見て、日本語でも英語でもドイツ語でもないと気が付いたらしい。


「文字は確実に書けないが、気が付いたあとなら、何とかするから。ちなみに、書けないが読めるようにはなると思うぞ」

「あー又、極秘案件系なんですね。了解しました」


ユリはこちらに来たときに一応、ウカユノフと、患者の耳元で翻訳の呪文を唱えておいた。


「一旦戻るけど、又来るからよろしくな」

「はい。お待ちしてます」


ユリとソウは、自宅まで戻ってきた。


お店には、マグノリアを連れたユメがいて、なぜか一緒にキャラメル包みを手伝っていた。


「ユリ、どうだったにゃ?」

「入院させてきたわ。意識が戻ったら、連れて帰ってくるわ」

「ユリたま、とうたん、だいじょぶ?」

「大丈夫よ。お医者様に悪いものを取り除いて貰うからね。マグノリアちゃん、おうちに一緒に住んでいるのは、お父さんとマグノリアちゃんだけなの?」

「うん!」

「なら、とりあえず、ご飯はここで食べましょう」

「どうもありだとざいまつ!」


そこへ、リラが説明しに来た。


「ユリ様、まーちゃんの母親は、領主様のお屋敷でメイドをしているので、休みの日には戻ってきているはずです」

「なら、あとで伝えに行きましょう」


ユリがいなかった間の仕事は、リラがきっちり進めておいてくれていた。

当初の予定の2倍のキャラメルが出来上がっていく。


12時になりトュリーパが帰り、皆で昼ご飯を食べ、手術も検査も終っただろうとソウに言われ、再び病院を訪ねた。


「あ、ホシミさん、ちょうどよかった。左足切断の同意書にサインしてください」

「え? 切断するの?」

「待ってください。元凶は取り除けたのですか?」


小さなトレーにのった何かの欠片を見せてくれた。


「はい。腐敗した木材のようでした。かなり深く刺さっていました。ですが既に手遅れで、神経が壊死するのも時間の問題なのです」

「少しだけ時間をください」

「構いませんが、あまり時間がありません」


ユリが、左足に手を置き、毒になるものを無くなるように願った。すると、深緑色のような、紫色のようなもやが立ち上がり、ちりちりと小さな火花をだし消えていった。


ユリは少し離れて見渡し、告げた。


「これで大丈夫だと思います」


素人目にも、顔色がよくなったように見えるし、腫れて黒ずんでいた足の色も綺麗な肌の色に近くなっていた。


医師は、足の包帯をほどき、縫合した傷の上のテープを、ベリっと剥いでいた。


「うわ、傷自体が無くなってる!」


「ユリ、連れて帰る?」

「今連れて帰ると無理しそうだし、一晩預かってもらって、明日迎えに来たらどうかしら?」

「なら、そうしよう。よろしく頼むよ」

「は、はい、」


ソウは、紙に文字を書き足して、置いてきた。内容は、マグノリアを預かっているので安心するように。と書き足したのだ。


「ユリ、木の実持ってる? 持っているなら1つ食べて」

「あ、そうね。こういうときに食べたら良いのね」


ユリは木の実を食べ、二人で自宅に戻ってきた。


「マグノリアちゃん、お父さんの手術も無事に終ったから、明日には会えると思うわ。でも、しばらくおうちでゆっくりするようにね」

「ゆりたま、どうもありだとざいまつ!」


ゆっくり話を聞くと、家は商売をしていて、マグノリアは普段は父親と一緒に店番をしているらしい。ユリは近所だと勝手に思っていたが、住まいはパープル邸がある城下町にあるそうだ。なんとマグノリアは、1度来たことがあるここまで1人で歩いてきたらしい。無料のお菓子やパウンドケーキのことは、店に来る客が話していたのを聞いて知っていたのだとか。


「マグノリアちゃん凄いわね。1度来ただけなのに、歩いて来られるなんて!」

「あ、うん。そうだな」


ユリの関心ポイントが、少し他人とずれている。


「休み時間のうちに、母親を訪ねるか」

「そうね」


マグノリアを連れ、パープル邸のソウの部屋に転移した。

ハンドベルを鳴らし人を呼ぶと、マーガレットが顔を出した。


「ホシミ様、あ!ユリ様! え、そちらのお子さんは?」

「この子の母親がここのメイドらしくてね。普段子守りをしている父親が入院したから伝えに来たのよ」

「えーと、メイドの名前はなんでしょうか?」

「マグノリアちゃん、お母さんの名前はわかる?」

「かーたん!」


親の名前は知らないらしい。リラに詳しく聞いてくればよかった。


「ちょっとメイド長に聞いて参ります」


マーガレットが退室してから、メイドがお茶を持ってきた。


「あ! かーたん!」

「え? マグノリア?」


物凄い偶然なのか必然なのか、メイドはマグノリアの母親だった。


「何でマグノリアが、ユリ様とホシミ様と一緒にいるの?」


呆気にとられ呟いていた。


「あなたがこの子の母親か?」

「は、はい!マグノリアが何かしましたでしょうか?」

「そうじゃない。この子の父親が高熱を出して何も食べないからと、うちに来たんだ」

「え、あの人が?」

「足を切断する寸前だったけど、明日には無事に帰ってくるよ」

「え?え?え?」


マグノリアは走りだし、母親だと言うメイドにしがみついて泣き出した。

そこへ、パープル侯爵とローズマリーとマーガレットとサリーが来た。


「ホシミ様、うちのメイドにご用と、」


メイドに小さな子供がしがみついて泣いているのを見て、パープル侯爵たちは呆気にとられていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ