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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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翌日のFの日(かえんのひ)


「おはようございまーす!」


リラが早くから現れた。時刻はまだ8時だ。


「おはよう。大分早いけど、なにかあった?」

「明日は、女性と子供の日ですよね? キャラメルどうするんですか?」

「販売が、私の想定に無かったのよ。どうしようかしらと思っているわ」


リラが、ニヤッと笑った。


「うちの、セリとカンナ、あとクララさんが、手伝いたいと言っているので、今日連れてきても良いですか?」

「え? キャラメル包むの?」

「はい」

「私は物凄くありがたいけど、良いの?」

「キャラメルの現物とお昼ごはんが食べられれば良いそうです」

「え、それはおまけで、ちゃんとアルバイト代払うわよ」

「クララさんは厨房に入れますが、セリとカンナは入れないので、私と父と母とクララさんは、厨房でご飯いただきます」

「あ、席の心配まで、ありがとう」

「声かけてきますねー」


リラは一旦戻っていった。そばで聞いていたのか、ユメがユリの前に回り込んできた。


「ユリ、リラの話は本当にゃ?」

「どれの事?」

「セリとカンナが来るのにゃ?」

「来てくれるみたいよ」

「私とキボウもすぐ手伝うにゃ!」

「ありがたいけど、疲れちゃうからほどほどでお願いね」

「分かったにゃ!」


次に来たのはソウだった。


「ユリ、今日忙しいの?」

「明日営業すると、明日もキャラメルが売れると考えていなかったのよ。リラちゃんは想定していたみたいで、ヘルプを募集してくれたんじゃないかしらね」

「あー、リラらしいな。俺も手伝う?」

「ソウは、何なら手伝いたい?」

「先日俺が頼まれて買ってきた小さい丸製氷皿は何に使うの?」

「明日用のメニューで、九龍球の小さいバージョンね。中に果物を入れないで、サイダーに入れてドリンク風に提供する予定よ」

「それ作るよ」

「ミルク、バタフライピー、イチゴピューレ、キウイフルーツピューレ、黄桃ピューレ、パインピューレで6種類作ります」

「了解」


ユリは早朝焼いたパウンドケーキを切り分け、端を集めたものを、まとめて外おやつに置いてきた。キャラメルは、壁にある冬箱の中なので、既に入れてある。


「コラー!何やっとるかー!」


ユリが厨房へ戻る手前で、外から声が聞こえた。一体なんだろうと思い、ソウを呼んで外を見に行くと、4~5歳くらいに見える子供が、ご近所の人に怒られていた。


「だって、だって、とうたんがぁ」


その子供が泣き始めた。


「なにかあったのか?」


まず、ソウが尋ねた。


「あ、ホシミ様。この子供が、そちらにあるお菓子を持っていこうとしていたもので」


ユリは屈み、直接子供に尋ねた。


「どうしてそのお菓子を持っていこうと思ったの?」


食べようとしたのではなく、持っていこうとしたと言うのに引っ掛かったのだ。


「あのね。とうたんがね。おねちゅがあってね。ちのうもなにもたべてないの。ユリたまのね、ちかくいおかちをね、たべるとね、げんちになるって、おちえてもらったの」


(あのね。父さんがね。お熱があってね、昨日も何も食べていないの。ユリ様のね。四角いお菓子をね。食べるとね。元気になるって、教えてもらったの)


泣いてしゃくりあげながらも、きっちり説明してくれた。


「おうちは近いの?」

「うん」


すると、後ろで見ていたらしいユメが前に出てきた。


「私が見てくるにゃ!」

「ユメちゃん良いの?」

「任せるのにゃ!」


ユメに、製品の方の黒糖フルーツパウンドケーキをいくつか渡し、頼んだ。すると、じっと子供を見ていたキボウが、ユメと子供の手をとり、転移した。


「キボウって、誰の家でも知ってるのか?」

「何か、そうみたいね」


子供を叱ってしまったご近所さんは、居たたまれない様子で立ちすくんでいた。


「お店の治安を守ってくださって、ありがとうございます」


ユリが微笑んでお礼を言うと、自分の行いが間違っていたわけではなかったと安堵したのか、笑顔で頭を下げて、離れていった。


「毎日色々あるなあ」

「本当ね。今時期に熱って、夏風邪の類いかしら?」

「ユメが調べて来てから対処すれば良いよ」

「それもそうね」


9時集合組が集まり始め、リラも、クララとセリとカンナを連れてやってきた。なんと、シィスルとマリーゴールドまで付いてきた。


「シィスルちゃんとマリーゴールドちゃんまでキャラメル包むの?」

「私たちは、キャラメルを仕込もうかと思いまして」

(わたくし)も、お手伝いいたします」

「無計画な私のために、ありがとう。本当にすっぽり、明日の事が抜けていたのよねぇ」


女性と子供の日と、今週はキャラメルを売ると言うことが、別枠で認識していたのだ。


「あれ? ユメちゃんはいないんですか?」

「ユメちゃんは、お父さんが熱があると訴えてきた子供に、キボウ君と一緒に付いていきました」

「え、誰のところだろう?」


リラは、思い当たる家がないか考えているようだった。


『ユメにゃ。マグノリアの父親は、病気ではなく、怪我で高熱みたいにゃ。ユリ、手が空いたら見に来て欲しいにゃ』

『ユリです。今行くから、キボウ君を迎えに寄越してください』


ユメが以心伝心で連絡してきた。ユメの手に負えないらしい。


「リラちゃん、ユメちゃんに呼ばれたから、少し様子を見てくるわ。子供の名前を、マグノリアと呼んでいたわ」

「はい。仕事開始しておきます。え、まーちゃん家?」


「キボー、きたー」

「キボウ君、お願いします」

「わかったー」


キボウが転移したのは、怪我人が横になっているベッドの脇だった。意識の無い男性を、先ほどの子供が心配そうに見ている。


「えーと、マグノリアちゃん? 少しだけ離れてください」

「はい。ゆりたま」


ユリは布団のようなものをどかし、全体を見て、色が違って見えるところを探した。


左の足先が真っ黒で、その黒さが、だんだん心臓に迫っているように見える。これは不味いかもしれない。


足元に回り、見てみたが、トゲのようなものが刺さったままになっていて、化膿しているように見えた。


「ユリ、治療できそう?」

「え、ソウいつ来たの?」

「リラから聞いて、キボウに迎えに来てもらったよ」

「あのね、足に深く刺さっているトゲで化膿しているみたいなんだけど、そのトゲの取り除き方が解らないわ。状態は、大分危ないと思う」

「向こうに連れていって、外科手術をした方が良さそう?」

「最低でも、トゲだけは取り除いて欲しいわね」

「俺より重そうかな? ユリ、向こうの俺の家まで、運んでくれる?」

「わかったわ。ユメちゃん、行ってくるわね」

「頼んだにゃ」


ユリは心臓側に癒しを使い、状態を少し安定させてから転移した。

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