取分
今日は、キャラメル教室2回目の開催日だ。朝食後、皆で予定を話していた。
「ユリ、結局誰が来るの?」
「マリーゴールドちゃんが参加で、リラちゃんは、集中的にリナーリちゃんの指導をするそうよ」
「あと、4か月だしな。力を入れるよな」
「ユメとキボウはどうするんだ?」
「カンパニュラとプラタナスのところに遊びに行ってくるにゃ」
「キボーも、キボーも」
「ユメちゃん、持っていくのは、サファイアクリームソーダゼリーだけで良いの?」
「他に何かあるにゃ?」
「昨日の、アフォガードとか、話題に上がったりしない?」
「にゃー。あれ、キボウはシロップ味で食べていたにゃ」
「そうね。見たわ。だから、苦手な人用にコーヒーシロップを用意して、苦いの平気な人だけコーヒーをかけたら良いと思うのよ」
「コーヒーシロップにゃ?」
「うん。たぶん美味しいわよ」
「それ欲しいにゃ!」
「なら、用意するわね」
厨房へ行き、糖度の高いシロップに、インスタントコーヒーを濃いめに溶いたものを合わせてコーヒーシロップを作り、持ってきた。
ユリが戻ってくると、ユメが呆れた表情でソウを見ていた。
「ユリ、俺見学に行って良い?」
「私は構わないけど、今日の生徒は、国中の未婚のお嬢さんたち20名よ。他に、いつものメンバーが指導役で、1班に1人付くわ」
軽くソウの表情がひきつっていた。
「あ、うん、やっぱり、ユメとキボウに付いていこうかな」
「私たちに付いてきてどうするにゃ?」
「メイプルも戻ってきたし」
「メイプルと仲良しなのにゃ?」
ユメの純粋な疑問に、「仲良し」とは認めたくないソウは、黙ってしまった。
「ユメちゃん、ソウとメイプルさんは、同じ年なのよ」
ユリの言葉に、ユメが本気で驚いていた。
「ソウの方が、ずいぶん若く見えるにゃ」
記憶のないユメ的には、初めて見たメイプルが、今のメイプルなのだ。
「物理的に10歳離れたからな」
ソウが少し寂しそうに笑った。
「ソウ、お城に行くなら、アフォガードはお任せするわ」
「おう、任された」
ユリは必要なものを揃え、指輪を杖に変え、ポンポンと触り収納していった。
「ユリ、コーヒーサーバーごと持っていくの?」
コーヒーサーバーとは、コーヒーを抽出するときに使う、ガラス製などの容器のことだ。
「パープル邸に、コーヒーがあるか分からないじゃない」
「そういえば、提供された事はないかもな」
思い返しても思い当たらなかったらしい。
「コーヒー作らないのに、何でコーヒーサーバーはあるの?」
「取っ手があって、要領が大きくて、お茶以外にも、出汁を濾したりに使うのにも便利なのよ。コーヒー入れたら、本来の使い方かしらね。うふふ」
「コーヒーシロップは、どうするの?」
「ユメちゃんに渡したのと同じ、デキャンタに入れてあるわよ」
お店で、黒蜜を提供するときに使っている。パッと見は、黒蜜に見える。
「お店に残っているバニラアイスは、持っていって良いわよ。私は、向こうで作って貰うわ」
ユリは、大型アイス箱も杖で収納した。
「そろそろマリーゴールドちゃんが来ると思うから、外に行くわね」
「ずいぶん早くないか?」
「マリーゴールドちゃんが、向こうで着替えるからね」
「成る程な」
ユリは外で待とうと思い、階段を降りた。すると、お店にすでにマリーゴールドはワンピース姿で待っていた。
「あら、いつ来たの?」
「先ほどでございます。おはようございます。ユリ様」
「マリーゴールドちゃん、おはよう」
リラと違って、大声で呼んだりはしないらしい。
「マリーゴールドちゃんは、キャラメルを作るのと、アイスクリームを作るのだったらどっちが良い?」
「どちらでも構いませんが、アイスクリームを作られるのでございますか?」
「たぶん、アフォガードっていう、アイスクリームの食べ方が、話題になると思うのよ。だから、聞かれる前に提供しちゃおうと思ってね。それに、今日指導役で付く人には、新種以外キャラメルを分けないからね」
「ユリ様のご都合でお決めになられた作業を頑張りますので、なんなりとお申し付けくださいませ」
「ありがとう。そろそろ移動するわね」
「お願い致します」
2人で外に出て、パープル邸のユリの部屋に転移した。
「お待ちしておりました」
「マリーゴールド様、こちらへどうぞ」
マリーゴールドは、別の部屋に案内されていった。
先に来て用意を済ませていたらしいラベンダーも、一緒にユリを迎えに来ていた。挨拶を済ませたあと、いきなり質問されたのだ。
「あの、ユリ様、お噂を耳にしたのですが、ユリ様から直截指導を受けた商人が、変わったアイスクリームを提供して、大成功を納めたとか。このお話は本当でございますか?」
「あなた、本当に耳が早いわね! それ、昨日の午後の話なのよ? そのアイスクリームは、今日、皆さんにも提供する予定だから、楽しみにしていてね」
「ありがとうございます」
「今日の予定は、先週と同じく、キャラメル数種類を作るのと、バニラアイスクリームを作ります。確かあなたはコーヒーを飲んだことがあるのよね?」
「はい、ございます」
「コーヒーは、気軽に手に入れられるものなの?」
「そうでございますね、貴族や商人などは可能でございますが、平民は、コーヒーそのものをしらないかもしれません」
「なら、今日振る舞っても構わないわね」
ユリが持ち込むのは、インスタントコーヒーをお湯に溶いたものだ。
ユリも白衣と割烹着に着替え、今回は持参したシンプルなブラウスを使うのだった。
今日は、火を使い、煮詰める工程があるため、参加には調理経験があることを条件にあげてある。その上、アルストロメリア会の方で、未婚限定としたためか、初参加の者は少ないらしく、マリーゴールドの知り合いもいるようだった。
前回と同じく、全班が基本と好きな種類2種類を作り、分け合うと言うことで決まった。ユリがキャラメル基本味の指導をしている頃、ラベンダーとマリーゴールドには、バニラアイスクリームを大型アイス箱で作ってもらっていた。
基本味をカットし、包み終ったところで、ユリは皆に声をかけた。
「キャラメルの途中ですが、恐らく話題になると思われる、アフォガードを試食していただきます。バニラアイスクリームに、深入り豆を使ったコーヒーをかけていただくと言うものですが、苦味が苦手な方は、甘いシロップも用意しているので、声をかけてください」
サリーやメイドたちが中デッシャーを使い、アイスクリームを分けていく。大型アイス箱で作り、中デッシャーで分けているので、43人分出来上がった。屋敷にある小さめのカップにコーヒーを注ぎ、全員に配った。最初から苦味は苦手と申し出たのは5人で、ユリとしては、各班に1人くらいいるのねと思っていたが、双方食べるために、名乗り出ただけだったらしい。コーヒーカップに少しずつ分けていた。
「ユリ様、こちらのデザートは、どなたまでご存じなのでございますか?」
「昨日の14時くらいにお店にいたお客さんにしか話していませんが、今日お城にユメちゃんが持ち込むので、バニラアイスクリームを作れるなら、いくらでも広めてくださって結構です」
ラベンダーによると、アルストロメリア会の会員は、全員バニラアイスクリームを作れるらしい。入会時にアイス箱を渡されるので、この会場に来たことがなかったとしても、アイス箱は持っているそうだ。
アフォガードの試食が終り、選んだ種類を皆が作っている間、ユリは新種のキウイフルーツ味を400個作り、参加者20人×4粒、指導補助7人×4粒、ユリの取り分22粒として、合計130個を除き、基本味80個とキウイフルーツ味の残り270個を、屋敷の分として置いていった。
着替え、食事を提供され、今日の会は解散した。
帰りがけ、マリーゴールドから質問された。
「ユリ様、キウイフルーツ味22個は、どうされるのでございますか?」
「双方のお店の皆に、味見として分けようと思ってね」
1人に1個としても半端な数なので、マリーゴールドは気になったらしい。
「いくつか余るようでございますが」
「あ、ユメちゃんとキボウ君に、多めにね」
「それでございましたら、私が受けとりました4粒のうち3粒をお返しいたしますので、ユメちゃんとキボウ君に、5粒ずつにされてはいかがでございますか?」
奇数を返すと言われ、ユリは不思議に思った。
「あれ? あ、そうか。マリーゴールドちゃんの数をいれて18人と数えていたわ。マリーゴールドちゃんは参加したのに、1粒で良いの?」
「お店に戻ってからいただきますので、むしろ皆さんと同じ数の方が」
マリーゴールドが微笑んだ。
「そうすると、マリーゴールドちゃんに5粒(合計9粒)渡したら良いのかしらね」
「はい。皆さんにお渡ししておきます」
帰りはベルフルールの前に転移し、マリーゴールドを送ってからユリは帰ってきた。




