珈琲
すみません、投稿設定を失敗しました。
ユリが厨房に戻ってくると、リラから、冷茶の注文だけ受け付けましたと報告があった。
「あら、あなた気が利いているじゃない」
「ユリ様なら、怒らないと思ってました」
「そんなことで怒ったりしないわよ。皆さんも暑かっただろうし、喜んでいるでしょうね」
「ユメちゃんとキボウ君がコップを持ってきてくれて、メリ姉とミア姉が、お茶を運んでくれました」
「あら、皆さん、ありがとうございます」
しっかり休憩し、昼休みがあけると、すぐに店内がいっぱいになる。そこに慌てた様子のエルムが駆け込んできた。あまりに慌てた様子に、一段落付く前にメリッサがユリを呼びに来た。
「エルムさん、何かありましたか?」
「ハ、ハナノ様、人を募集したと言うのは、本当でございますか?」
「あら、耳が早いのね。でももう締め切りましたよ」
「内容を伺ってもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。お休み明けからキャラメルを販売するので、それを包み紙に包むアルバイトを募集しました。今いる店員だけで作るには、手が足りなくてね。貼り出していた募集要項を見ますか?」
「はい。お願い致します」
ユリは剥がした紙を取りに行こうとした。すると、ユメが持ってきてくれた。
「ユリ、これにゃ?」
「ユメちゃん、ありがとう。エルムさん、これです」
エルムに渡すと、じっくり見て、少し安心したらしい。
「9月中だけなのですね」
「とりあえずその予定です」
長期的な従業員ではなく、短期アルバイトであるとは把握していなかったらしい。
「この紙は何日間くらい貼り出してあったのでしょうか?」
「今日の10時半過ぎから12時少し前くらいですね」
「え? 1時間半!?」
「ええ、お陰様ですぐに集まりました」
エルムに知らせてくれた人が、文字を全ては読めない人だったらしく、歯抜けの情報に、自身で確認に来たのだそうだ。
「もう、募集はされないのでしょうか?」
「同じ作業って飽きるから、毎度3時間も出来ないと思うのよね。リタイアする人が出れば、募集するかもしれませんし、別にキャラメルの販売人を募集するかもしれません」
販売人の場合、接客とお金の計算などを出来る事が条件になる。そういう募集もあるかもしれないとユリが話したことで、気が済んだらしい。
「お忙しいところ押し掛けてしまって、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、いつもありがとうございます」
エルムは納得したのか、帰っていった。
「ハナノ様、キャラメルとは、どのようなものですか?」
ユリがエルムと話していた場所のそばの席にいた客から質問された。
「柔らかいキャンディーです。うっかり流行らせてしまいました」
「うっかりとは?」
「遠出した時に、頑張って歩く小さな子供のおやつにと思って作ったんですけどね。大人にも好評で。うふふ」
「お休み明けから販売されるのですか?」
「その予定です」
ガヤガヤと、購入予定を話し合っている人が多かった。
「あ、開店前から並んだりせずとも買えるようにたくさん作る予定なので、冬箱を持ってくるのだけ忘れないようにおねがいしますね」
「はい。楽しみにしております!」
ユリは厨房に戻り、やっと仕事を始めるのだった。
「ユリ様、注文は落ち着いているので、朝作っていたコーヒーゼリーを教えてください」
「コーヒーゼリーは、半量だけどそのままの配合よ。それを平らに固めてカードで1cm角くらいにカットしたのよ。ミルクゼリーは、仕上がりが同量になるように仕込んで、コアントローではなく、ラムかブランデーに変えると良いわ。今回はラム酒が少量入っています」
「本当に見たままだったんですね」
「完全に新しいものを、あなたがいないときに作ると怒るじゃない」
「あはは」
追加注文されたホットサンドなどを作り、順調にアイスクリームをのせたコーヒーゼリーが売れていた。
「あの、ユリ様。お客様に質問されましたが、私では答えられない料理の質問でして、どうしたらよろしいでしょうか?」
メリッサが、ユリに伝えに来た。
「リラちゃん、今外して大丈夫そう?」
「はい」
「メリッサさん、今行くわ」
「先触れ出しておきます」
先に店に戻るメリッサが、店で声をかけているのが聞こえた。
「今から、ユリ様がいらっしゃいます」
しんと静まり、全員がユリを見ていた。
「メリッサさん、どなたが質問をされたの?」
「こちらのお客様です」
案内された場所に出向き、ユリから質問した。
「メリッサより、難しい料理の質問が答えられなかったと聞き及んでおりますが、どの様な質問でしようか?」
「は、はい! あ、あの、商談相手が、アイスクリームが大好物と聞いたので、アイス箱を購入して、屋敷の料理人にバニラアイスを覚えて貰い、作らせ、もてなしをいたしました。ですが、『今さらどこでも食べられる。こんなもの珍しくもないし、甘すぎて口に合わない』と言われてしまいました。なにかギャフンと言わせられる物はないかと、メリッサさんに相談しておりました」
仕事相手に困らせられるのは、ユリ的にはとても身につまされる。
「その相手の、他に好きなものなどはありますか?」
「コーヒーも好きらしいので、今日のバニラアイスクリームののったコーヒーゼリーを買っていこうかと、メリッサさんに話しかけました」
「成る程、甘すぎないもので、コーヒーやアイスクリームが好物なのですね」
「そうなります」
「でしたら、凄くぴったりなものがあります」
「あるのですか!?」
「自前でバニラアイスクリームを作れるのですね?」
「はい。頑張って覚えて貰いました」
「コーヒーも用意できますか?」
「はい」
「では、深入りの豆を使って、少し濃いめに抽出し、バニラアイスクリームにかけて食べる状態で提供してみてください。見た目を派手にするなら、少しドライフルーツやナッツを飾ると良いですよ」
「コーヒーをアイスクリームにかけるのですか?」
「はい。この料理の名前は『アフォガード』と言います」
ユリから直接教えを受けたのだ。その事実だけでもありがたいと感じたようだ。
「ユリ・ハナノ様、どうもありがとうございます! これで商談が成功しそうです!」
「お役に立てたみたいでよかったです。あ、名前、ハナノで良いですよ。私は戻りますね」
「ハナノ様、本当にありがとうございます!!」
ユリはニコッと笑ってから、厨房に戻った。
勿論、ソウとリラから、「アフォガード食べたい」と言われるのだった。
「はい。ここにエスプレッソがありません。深入り豆も、エスプレッソマシーンもないので、無理ですね。普通のインスタントコーヒーでよければ、少し濃いめに作って、残っているアイスクリームにかけても良いですよ」
「それで充分」
ソウが言ったので、ユリは仕方なくみんなの分を作るのだった。
「うわ、砂糖が入っていないコーヒー苦っ! あれ? ユリ様は食べてみないんですか?」
「午後からコーヒー飲むと、夜、眠れなくなっちゃうからね」
時刻は丁度15時だった。ユリは何時から寝る前提なんだろう?
ソウとマーレイは、とても喜んで食べていたが、リラとユメは、美味しいけどもう良いやと言っていた。キボウは、シロップをかけたして食べていた。
配膳の合間に交代で食べた、イリス、メリッサ、イポミアは、話のネタに丁度良いし、想像より美味しかったと言っていた。
この日再び、魔動力機器コニファーで、アイス箱の在庫が空になる程売れたらしい。




