募集
朝ご飯のあと、ユメとキボウは畑を見に行き、8時過ぎには厨房へ来た。
「ユリ、何から手伝うにゃ?」
「キボーも、キボーも」
「ちょっと、ユメちゃんもキボウ君も、まだかなり早いわよ? 少しゆっくりしたらどう?」
「ユリは仕事してるのにゃ」
「私は責任者だからね。他の人はまだいないでしょ?」
ユメは少し何か考えたらしい。
「昔の私は何時から手伝っていたのにゃ?」
「え? いつ頃の事を聞いてる?」
「世界樹の森に行く前にゃ」
結界を作る祈りに行く前の事だろうか? それともおやつを持って日参する前の事だろうか? どちらの事だろうとユリは考えた。
「10月? いえ、2月頃ね。特に忙しい日以外は、大体10時や11時頃から手伝ってくれていたわね」
「10時や11時まで、私は何していたのにゃ?」
「どこかにお出掛けしたり、お部屋にいたりしていたわよ?」
2月は、城に行ったり、ユメは色々バタバタしていた。
「キボウはどうにゃ?」
「2月頃のキボウ君なら、世界樹様のクッキー以外手伝っていなかったと思うわ」
なぜか、キボウまで驚いていた。
「ユリ、1人で大変じゃないのにゃ?」
「この時間は、準備をしたりしているだけだから、大変じゃないわよ。見たいなら見ていても構わないけど、あまり早くから頑張ると、疲れちゃうわよ?」
部屋に戻るつもりはないらしい。
「今日は何を作るのにゃ?」
「サファイアクリームソーダゼリーを作る予定よ」
「あーおーぜーりー!」
「やっぱり手伝うにゃ!」
「ありがとう。疲れる前に休むようにしてね」
ユメとキボウは、楽しそうに計量を始めていた。
ユリは、器具類の準備のあと、イーゼルにのせるメニュー表を休憩室で書き、厨房に戻ってきた。すると、ユリが書いておいた予定表にある全ての計量を終わらせたらしく、ユメとキボウは仕事を探しているようだった。
「ユメちゃん、キボウ君、何か飲む? デザートは、コーヒーゼリーならあるわよ」
「たべるー、たべるー!」
「ユリ、アイス多めでも良いにゃ?」
「構わないわよ。ゼリーだけ買って帰った人もいたらしいからね。アイスクリームはあまっていると思うわ」
ユメはアイスクリームを2つのせてコーヒーゼリーを食べていたが、キボウはアイスクリームは1つで、ガムシロップを溢れそうなほどかけて食べていた。
「キボウ君、コーヒーゼリー、苦い?」
「あまいー」
「あ、まあ、そうね。ガムシロップたくさんかけているものね。ガムシロップをたくさんかけないと、苦くて食べられない?」
「わかんない」
「もう少し苦くないコーヒーゼリーがあったら嬉しい?」
「たべるー!」
「作るのにゃ?」
「二人が計量を終わらせてくれたから、きっと時間があまると思うのよ。だから、試作してみるわね」
ユリは手早くコーヒーゼリーを10個分計量し、バットに固めた。次に甘いミルクゼリーを作り、1cm角にコーヒーゼリーをカットし、容器の半分くらいまで入れ、ミルクゼリーをギリギリまで冷やし、同じ容器に注いだ。出来上がったのは20個だ。
「コーヒーゼリーは砕いても良いんだけど、平均的に混ざるように、今回はカットしました。冷えたら食べてみて良いわよ」
勿論といわんばかりに、ユメが冬箱を持ってきて充填し、キボウが時送りをしていた。
「美味しそうですね。おはようございます。ユリ様」
「ユリ様、おはようございます」
ユリの後ろから声をかけられた。なんと、リラとメリッサは少し前に来ていて、ユリが何か作っているので、リラは声をかけずにじっと見ていたらしい。メリッサはすでに予定表に沿って仕事を始めていた。
「あら、気が付かずにごめんなさい。2人ともおはよう」
「ユリ様、これはなんですか?」
「甘口のコーヒーゼリーを、キボウ君に作ってあげようと思ったのよ。みんなの分まであるから食べたら良いわ」
「白い部分は、ミルクゼリーですか?」
「そうよ。少しゼラチン弱めになっているわ」
「冷えたから食べてみるにゃ」
「キボーも、キボーも」
ユリの意向どおり、キボウは何もかけずに食べてみてくれた。
「おいしー!」
「食べ口が優しくなったにゃ。これも美味しいにゃ」
時間になりイポミアも出勤してきた。
「イポミアさんも来たから、みんなで食べてみたら良いわ」
「来るなりおやつ! あ、皆さんおはようございます」
リラ、メリッサ、イポミアも試食してみて、食べやすいと言っていた。
「ユリ様、これも売りませんか?」
「手間かかるわよ?」
「ババロアを作るよりは簡単だと思います」
「まあ、それもそうね」
とりあえず、予定どおりサファイアクリームソーダゼリーを仕込み始めた。ユメとキボウのために、クッキー生地を作り、型抜きを頼んだ。
少し仕込みが落ち着いた頃、イリスとマーレイが野菜を持ってきた。イリスは入り口でマーレイに会ったらしい。
「揃ったところで、皆さんに相談なんだけど、来週からキャラメルを始めます。紙に包むのだけ人を雇おうと思います。何か意見はありますか?」
「何人くらいですか? ユリ様はどんな風に予定していますか?」
「せいぜい3~4人かしら、最大で同日は6人まで。時給1000~1500☆くらいで、1時間ならおまけキャラメル3個付き。2時間ならおまけ6個。3時間ならお昼ごはん(もしくはキャラメル10個)つきで、9時からと考えているわ」
「年齢性別等の制限はありますか?」
「仕事をしっかり出来るなら、特に制限はありませんが、今いるメンバー誰かの知り合いが望ましいです」
ここで一番知り合いが多いのは、マーレイだ。リラも多いが、リラの場合範囲が広い。
「募集を張り出してしまうと、意図せぬ応募を断るのが大変そうで」
「あー、貴族の方とかですか?」
「それもそうです」
「他にもあるんですか?」
「パープル邸のメイドさんたちとかね」
イリスだけが、納得したように頷いていた。
「あ!それシィスから聞いた! 領主様が、メイドが20人くらい辞めるって言い出して困ってるって話だ」
リラは知っていたらしい。
「あら、知っていたのね。メリッサさんが来る前に、配膳の人を増やそうって話を広報誌のエルムさんにしたら、お屋敷のメイドさんが、こぞって応募しようとしたのよ」
「でも、今回は短期だから、メイドさんたちでも構わないのではないですか?」
「それって、休みの日に来るってことでしょう? 働きすぎよ」
「ユリ様、その他の人も、普段はどこか他で仕事をしている人だと思います」
この国の平民に、専業主婦と言う概念はない。シーミオを見ているメリッサの両親も、農家を営んでいる。裕福な家庭以外は、子供も働いていることが多い。
「あ、そうなのね。ご婦人方が無理なら、子供たちはどうかしら?」
「決まった場所がなくても、おおよそ決まった仕事をしているので、むやみに空けてしまうと、仕事や場所を取られることになります」
そう言えば、リナーリが働きたいと言ったとき、そんな説明をされた。
「なら、募集を掲示しましょう」
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短期お手伝い募集
内容 キャラメルの包装など
時給 1000☆~
時間 9時から12時迄の1~3時間
人数 同日最大6人迄
期間 9月の営業日(7日を除く)
重要 キレイ好きで、他メンバーと仲良くできる人
特典 1時間ごとに、キャラメル3個のおまけ付き
3時間はキャラメル1個と賄い付き
もしくは、キャラメル10個
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