護衛
「ユメちゃん、何の約束をしたのかしらね?」
誰も答えられないので、ユリも後で聞きましょう。と諦めた。それより、確認しておこうと思ったことがある。
「トリヤさん、皆さんから近衛師団が警護に来ていたと聞きましたが、お食事に誘わなくて良かったのですか?」
「近衛師団は、食事時に仕事がありまして、それまでこちらに来ていたようでございます。現在は、別部隊がこちらの護衛任務に付いているものと思われます」
「あら、その方たちは、お昼ご飯はまだなのよね?」
「いえ、早めの昼食を済ませているか、一般人とは違うタイムスケジュールで動いているものと思われます」
「そうなのね。私にはわからないから、来られるなら、おやつだけでも食べに来てと伝えて貰えるかしら?」
「かしこまりました」
少しすると、トリヤを「少佐」と呼ぶ男性2人が店に入っててきた。
「今は少佐ではないよ」
「アメジスト伯爵」
ビシッと敬礼していた。
「ハナノ様から、おやつをご提供いただいた。交代でいただきなさい」
「了解しました!」
ユリがコーヒーゼリーを出そうとすると、メリッサが手伝ってくれた。そして、少し話があると言ってきた。
何と午前中に、ユメが落ち込んでいたと言うのだ。恐らく、世界樹様のクッキーの続きをしないのを見て、黒猫クッキーはユメがいなくても出来上がるけど、世界樹様のクッキーは、キボウがいないと出来上がらないことについて、ふと、自分は必要なのか?と考えてしまったらしい。来客で、話が途中になってしまったけど、居なくなったら寂しいと伝えたと、メリッサは話してくれた。
何て事だ。まずはこのお店の店名について、今度は全員に周知して、ユメにも再び説明しなければ。まずはメリッサに教えよう。ユリは決心したのだ
「メリッサさん、どうもありがとう。このお店の『アルストロメリア』って名前の花ね、私の出身国で『ユメユリソウ』って言うのよ。ユメちゃんあってのお店なのよ」
「そうだったんですね! 他の方はご存じなのですか?」
「どうだろう? 改めて宣言したことはない気がするから、知らないかも」
「内緒なのですか?」
「いえ、誰に伝えても構わないわよ」
メリッサが話しに出すと、イポミア以外は知っていた。マリーゴールドによると、花の図鑑を見たときに、リラから教えられたらしい。
昼休みが終わり営業が始まると、トリヤとエルムは、ユリに挨拶をして、馬車に引き上げていった。警護の騎士は8人ほどいるらしく、4回に分けてコーヒーゼリーを食べに来ていた。
「午前中にいらしていた近衛師団の方々は、全員格好良い女性だったけど、入れ替わった騎士様は、全員男性でしたね」
少し暇になったタイミングで、イポミアがメリッサと話していた。
「そうなの?」
「はい! 凄く格好良い女性の騎士様でした」
「あら、私は女性騎士にはあまりお会いしたことがないような?」
「ユリ様、先日のアルストロメリア会で、王女殿下の護衛で参加されていらっしゃいました、侍女の服を着た背の高い方が、近衛師団長のギプソフィラ様だそうでございます」
ユリの疑問に、マリーゴールドが答えてくれた。
「え!包むのとか、作業手伝っていたわよね? 大丈夫だったのかしら?」
「実は、私も気になりまして、作業をされてもよろしいのですか?と伺いましたところ、手に何を持っていても、目の前の相手の頭まで届く足技が繰り出せるそうでございます」
「えー凄い! ハイキックの達人さんなのね!」
そういえば、背の高い侍女は、包むだけで作るのは参加していなかったなぁとユリは思い出した。班に専門職の料理人がいるからかと考えていたが、そもそも護衛だったらしい。
「ユリ様、コーヒーゼリーのお持ち帰りは可能ですか?」
イリスが確認に来た。
「コーヒーゼリーは冬箱、上のアイスクリームは真冬箱。箱があるなら売って良いわよ。持ち帰りは、ゼリー単品750☆、ミニアイスクリーム単品はココットに入れて250☆ね。グラス返品スタンプは5個よ」
「かしこまりました」
ちなみに、店内飲食のバニラアイスクリームののったコーヒーゼリーは、700☆で提供している。
冬箱と真冬箱の双方と言うのはハードルが高いらしく、持ち帰り注文は、予定どおり少なめだった。
14時過ぎ、リラが様子を見に来た。
「ユリ様、御公務お疲れさまでした。無事なお戻り、安心しました。って、あれ? ユメちゃんは、休憩中ですか?」
「ユメちゃんは、ソウが緊急で迎えに来て、お城に行ったわ」
「あら、そうなのですか?」
「せっかく来たんだから、コーヒーゼリーでも食べていったら良いわ」
「ありがとうございます!」
店の流れを見ていたリラが質問した。
「ユリ様、コーヒーゼリーの持ち帰り売ってるんですか?」
「冬箱と真冬箱の双方が必要だけどね」
「なら、明日は大量に売れますね」
「え?」
「だって、今日周知されて、明日は、みんな持参で来ませんか?」
ユリはマリーゴールドの方を振り向いた。
「予定どおり、200個作りました」
「んー、残ってもどうにかなるから、あと200作ろうかしら?」
ユメとキボウが城に持ち込むおやつがなくなるので、少し控えて作っていたのだ。
話が聞こえたマーレイが、手早く器を洗い始めた。
「気が済んだので、帰りまーす」
「ちょっと、リラちゃん。あちらの皆さんの分も、持ち帰ると良いわ」
「はーい。ありがとうございます」
リラはコーヒーゼリーを自分で仕上げて、7個を器用に指の間に挟んで持ち、マリーゴールドにドアを開けて貰い、ベルフルールに帰っていった。
「トレーや籠を使うという発想はないのかしら?」
ユリの呟きに、マーレイが申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「キボー、きたー」
キボウが1人で戻ってきた。
「お帰りなさい、キボウ君。ソウとユメちゃんは?」
「ユメー、のこるー。ソウ、わかんなーい」
「先に帰ってきたの?」
「ソウいったー。キボー、かえるー、いい、いったー」
「ソウが、キボウ君に帰っても良いよって言ったのかしら?」
「あたりー」
ユメが呼ばれて向こうに行ったから、キボウを返したのだろうとユリは考えた。
「キボウ君、世界樹様のクッキーの仕上げする?」
「キボー、てつだうー!」
マリーゴールドがアイシングを塗ってくれ、キボウは時送りをして仕上げてくれた。
夕方になり、予想よりも早く、コーヒーゼリーは売りきれた。閉店までは30分以上有ったが、明日も同じメニューで販売するので、本日分売り切れとした。
少しすると、ソウとユメが戻ってきた。何でも、帰還を祝う会自体はまだ終わっていないらしく、ソウとユメは、夕飯はこちらで食べたいと途中退場で帰ってきたらしい。
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最後まで護衛で外の馬車にいたトリヤとエルムも呼んで、皆で夕食を取り、解散した。




