分配
今日は8月26日Eの日。
キャラメル教室第1回目の開催日だ。城からは、サンダーソニアとカンパニュラの他、侍女やメイドたちが複数来ている。作るのは総勢20人の4組らしい。中に、少しおどおどした服装の違う女子がいるのを不思議に思い、ラベンダーに確認すると、なんと、城の厨房からの参加者らしい。身分的には、某貴族の庶子で、まだ独身なので一応貴族の身分があるが、学園にも通っておらず、貴族以外と結婚し平民になる予定だそうだ。本人の希望で学園に行くより料理をしたいと言ったら、城の厨房に放り込まれ、今日は戦力として指名され連れてこられたらしい。そういえば、梅ジュースや梅酒を作ったときも、料理人の格好をした女性が数名いたので、現在の城の厨房には、女性が何名かいるのだろう。
「班分けはどうしますか?」
「ユリ様、条件はございますか?」
「大きいナイフを扱える人が1人いることです」
すると、おどおどしていた女子を指名したのは、カンパニュラとサンダーソニアだった。
「アザレア、わたくしのはんに、はいってちょうだい」
「か、かしこまりました」
カンパニュラに呼ばれ少し青い顔をして、カンパニュラとサンダーソニアと侍女2人がいる班に来た。おどおどしていた女子は、アザレアという名前らしい。
「よろしくお願いいたします」
「アザレア、むしろ私たちがあなたに頼るのよ。よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
暖かく、笑顔で迎え入れていた。
他の班は、ハイドランジアのお付きの侍女たちの班、パウローニアのお付きの侍女たちの班、上級メイドだけの班などがあった。次回開催のために、アルストロメリア会の初期メンバー(マーガレット、サンフラワー、ローズ、カメリア、ピアニー)の班もある。
「作りたい味を決めてください。他の班と違う味を選べば、交換して種類を増やせますよ」
ユリが種類一覧を書いた紙を張り出すと、皆の目が輝いた。
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基本味
紅茶味
コーヒー味
抹茶味
黒糖味
ココア味
ヨーグルト味
イチゴ味
パイナップル味
ブルーベリー味
バラジャム味
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「ユリ様、1つの班で1種類のみでございますか?」
「2種類作っても、3種類作っても良いですよ。ただし、同時に始められないので、その辺を考慮してください」
各班話し合い、3種類作ることに決まったようだ。全班が基本味を作り、その他2種類を話し合いで公平に決めていた。
「作る種類が決まったら、包み紙を取りに来てください。お渡しする配合は40粒ほどなので、倍量の80粒作りましょう。それでも皆さんに分けると、お1人1種類2~3粒ですね」
ユリは、サリーに全員分に食べたい味を聞き、基本味用80枚とイチゴ味用400枚の包み紙を用意させ、計量を頼んだ。
まずは全班が基本味を作るので、ユリはラベンダーに作らせながら、説明をしていった。
カンパニュラとサンダーソニアがいる班に、誰を付けるべきか考えたが、恐らくメインで作るだろう料理人のアザレアと一番話しやすいであろうマリーゴールドを助手に付けた。そのお陰か、怯えることなく、マリーゴールドにしっかり質問しながら作っているようで、回りの全員が安堵した。
ちなみにリラは、初期メンバーのところに呼ばれていて、ユメは、上級メイドのところから呼ばれている。ユリは、ハイドランジアとパウローニアの侍女たちの2班を集中的に見るのだった。
「はい、2種類目は、必ずナイフ担当の方以外が作ってください。2人ナイフを扱えるなら、2種類同時に作っても良いですよ」
決まった味の材料を量らせ、準備が終わると、どの班も1種類の、フルーツ味やヨーグルト味を作っていた。
「はい、そろそろ冷めてきたので、最初のキャラメルをカットします。ナイフで跡を付けてみて、消えるうちはまだ早いです少し残るようになってきたら、本格的にカットを始めます」
ユリが、ラベンダーの作ったキャラメルを少し切って見せ、他の班も切り始めた。残りはラベンダーに任せ、ユリは、イチゴ味の計量したものを作り始めた。
カットの終わったラベンダーに、少しイチゴ味の煮詰めを任せ、包み方を説明する。
「ベタベタさわると指紋や指の跡が付きますので、1人がトングを持ち、並べた紙の上に置いていきます。それをクルっと丸め、必ず同じ方向に、端の紙を捻ってください」
ユリはラベンダーと交代し、ラベンダーは屋敷のメイドたちと紙に包んでいくのだった。
全班が3種類目に突入し、ユリは再びラベンダーと交代し、お茶類の溶かし方を説明した。全班が作り始め少したち、2種類目をカットし始め、問題なく進行していった。
ユリの作るイチゴ味400個の煮詰めが終わり、持ち込んだ天板に流し入れた。軽く冷却魔法を唱え、すぐに回しながら端からカットしていった。他の班は、自分のところが大忙しでユリを見ていなかったので気がつかなかったが、ラベンダーだけは、そばで驚いていた。
「さあ、皆さんで包んでくださいね」
「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」
そして、大急ぎでキャラメルを包んでいくのだった。
「ちょっと、トゥリーパ、それ包み方おかしいわ」
「サリーファンさん、ちゃんと捻っています」
「それだと、ほどけないでしょ?」
「え?」
紙の端を双方逆方向に捻っていたのだ。確かにほどけ難くなるが、とても食べ難くなる。
サリーは、1つ食べる真似をして見せ、端を逆に捻ると食べにくいことを見せて教えていた。
「あれ? サリーさんって、本名はサリーファンさん?」
「はい、ユリ様。登録名は、サリーファンでございます」
サリー改め、サリーファンは、長年勤めるメイドとして愛称で、サリーと呼ばれているらしい。
「私知らずに、勝手に愛称呼びしてしまって、ごめんなさいね」
「いえ、ユリ様が謝られるなど、とんでもございません。どうぞお好きなようにお呼びくださいます様に、お願い申し上げます」
「ありがとう」
本人の許可も貰ったので、以降も「サリー」と呼ぶことにする。
ユリはアーモンドダイスを入れたタイプも80粒作り、リラとは違い、ナイフでカットして仕上げた。
「各班の80粒を、15粒ずつ交換し、残る5粒ずつを、私の作った15粒と交換しましょう」
つまりユリは、ラベンダーの分を確保するために、アーモンドダイスを入れたタイプも作ったのだ
「ユリ様、5粒ずついただくと、私が一番多いことになりますが、よろしいのでしょうか?」
「帰ってから渡す分もあるでしょう?」
「ありがとうございます」
リラとマリーゴールドは、欲しければ自分で作れるだろうし、ユメとキボウは、頼まれればユリが作るので、アルストロメリア会で全種類作ったキャラメルは受け取らなかった。
「全種類交換した上で、不足と思う種類を作りたい班は、どうぞ」
もちろん全班が再挑戦を希望し、イチゴ味を作っている班が多かった。ユリは、ユメ、キボウ、リラ、マリーゴールドが唯一食べていないバラジャム味を作った。
「ユリ様、これで全ての種類でございますか?」
「考えて思い付くものを作るなら、牛乳で煮出す段階で、ミントの葉や生姜などを使い、さっぱりするものや、ジャムの種類を変えるとか、紅茶とジャムをあわせた物とか、他にも美味しそうなものはできると思いますよ」
「お城に戻ってから、試してみることに致します」
「質問などは、直接が難しそうなら手紙でも受け付けますよ」
「ユリ様、お心遣い、感謝申し上げます」
こうして、第一回キャラメル教室は解散になった。




