給仕
今日はお店がお休みだが、最近ユメが休みの日でも 7時過ぎに起きてくるようになったので、4人揃って朝ご飯を食べている。
「ユメちゃん、持っていくもの、カレーでも良いかしら?」
「良いと思うにゃ! 私が盛り付けられるにゃ」
「キボーも、キボーも!」
昨日のカレーは、一人前換算で、40食分以上余ったのだ。
「お皿は、あちらで借りようと思うのよ」
「それが良いと思うにゃ」
「カレー旨いのに余ったんだな。まあ、ホットサンドが凄かったからな」
「余ったと言っても、元々の予定よりは売れているのよ。追加分が、半分くらい余ったのよ」
ソウがせっかく材料を揃えてくれたのに余らせてしまったと、ユリは残念に思っていた。
ユメは何か考えた素振りをすると、突然慌て出した。
「ユリ、ごめんにゃ。これ預かっていたにゃ」
王国旗のマークの入った封筒を差し出された。
受けとり中身を読むと、カンパニュラからの依頼で、責任者にはサンダーソニアの名があった。内容は、もうすぐ帰ってくるメイプルたちの歓迎のお菓子を、個人的に作ってほしいというものだった。
「あら、ちょうど良いから、私もカンパニュラちゃんに会って直接聞くことにするわね」
「ありがとにゃ」
「そうか、帰ってくる時期だな」
ソウは少し楽しそうに笑っていた。
「ソウ、ご飯を持っていきたいから、運ぶのだけ手伝ってくれる?」
「勿論。あれひとりで運ぶのは無理だろう? で、ご飯は何に移すの?」
「炊飯器ごと?」
「まあ、ユリとユメしか使わないなら問題ないか」
1升炊き炊飯器3台、カレーの入った寸胴鍋1つ、結構な大荷物だ。
ユリは、仕上がっている1人前の一皿と、手鍋に入れたビーフカレーと御櫃に入れたご飯とココットに入れた胡瓜の漬け物をキボウとユメに頼んだ。片手に一皿を持ったキボウと、ココットと御櫃と手鍋に手を掛けたユメを伴って、キボウは転移していった。その後、ユリとソウは、炊飯器と寸胴鍋とジッパーバッグに入った胡瓜の漬け物を城に運んだ。
夏板に寸胴鍋をのせていると、部屋に来たメイドが驚いていた。
「ユ、ユリ様、本日は、アルストロメリア会でございますか?」
一瞬なんで?と思い、すぐ理解した。
「今日のおやつに食事物を持って来たから、エプロンなのよ」
「ユリ様が、給仕されるのでございますか!?」
「ん?だって、ユメちゃんもいつも手伝っているでしょう?」
「あ、あの、少しお待ちくださいませ」
アワアワしたまま、下がっていってしまった。
そして駆けつけてきたのは、サンダーソニアだった。
「サンダーソニア殿下がお見えになりました」
「ユリ、立ってないで座って」
「うん」
「入室を許可する」
ユリが座ると、ソウが入室許可を出し、サンダーソニアが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ユリ様、給仕をされると伺いました。城での給仕は、メイドたちに任せてはいただけませんでしょうか?」
「構わないわよ。なら、担当する人を呼んでもらえる? 説明するから」
「かしこまりました」
その後、ハイドランジアも駆けつけてきた。ソウは笑っていたが、ユリは、ユメが反対しなかったので、そのまま来てしまったけど、ユメは記憶がなかったと、反省した。
担当として来たのは、ユリも顔を会わせたことがある料理人と、メイド頭らしき、年配のメイドだった。
料理人は、ハイドランジアから渡されたらしい、電子秤を持参してきた。
「あなたの担当って、デザートやフルーツカットよね?」
「はい!ハナノ様。現在は、総料理長をしております」
「あら、昇進おめでとう」
「あ、ありがとうございます!」
そこへ、人をかけ分けるように、ユメとキボウが現れた。
「お待たせにゃー」
「キボー、きたー」
「あ、ユメちゃん、給仕は、任せてくれって言われちゃったわ」
「そうなのにゃ?」
「キボーは? キボーは?」
「キボウ君もね」
「せっかく、見本を見せようと思っていたのにゃ」
「なら、ユメちゃんとキボウ君が、料理長さんとメイド長さんに教えたら良いと思うわ」
「そうするにゃ!」
「キボーも、キボーも!」
ユメとキボウにカレーの盛り付けの指導を任せ、ユリは、カンパニュラを呼んで貰った。カンパニュラは勉強中らしい。
「それなら、私が移動するわ」
さすがにエプロンをはずし、ワンピース姿になり、部屋を移動した。サンダーソニアはついてきたが、ハイドランジアはユメがいるのでそのまま部屋に残るらしい。ソウも自室なので、残るようだ。
カンパニュラが学習しているらしい部屋に通された。
「ユリさま、おこしくださり、ありがとうございます」
「お勉強中にごめんなさいね。どんなケーキが良いのか聞きに来ました」
カンパニュラは、ハイドランジアの誕生日に作ったような、自分で作れるケーキが第一希望で、第二希望は、華やかな夏らしいケーキを注文だった。
「それなら、帰ってくるのはTの日よね、前日のWの日に、フルーツたっぷり寒天のケーキを作りましょう。サンダーソニアちゃんと一緒なら、カンパニュラちゃんも作れるわよ」
「ユリさま、ありがとうございます!」
「場所は、ローズマリーさんに相談してみるわね」
あっさり決まり、ユリはソウの部屋まで案内して貰い、ソウと一緒に、炊飯器と洗ってある寸胴鍋を持ち帰るのだった。
すでに部屋にユメやハイドランジアはいなかった。
「ソウ、私はローズマリーさんに会いに行くけど、どうする?」
「俺は出掛けてくるよ」
一旦家に荷物を置きに帰った後、ユリは1人でパープル邸に転移し、ローズマリーを呼んだ。
すぐに現れたローズマリーは、今、ユリに会いに行こうとしていたと話していた。
「行き違いにならなくて良かったわ」
「アルストロメリア会についてでございますね」
「それもあるけど、お願いもあってきました」
「どのようなことでございますか?」
「来週の8月31日Wの日に、カンパニュラちゃんがメインの寒天のケーキを作りたいんだけど、場所を貸して貰えないかしら?」
「かしこまりました。王妃殿下より打診がございまして、空けてございます」
「ありがとう!なら、アルストロメリア会の話をしましょう」
「明後日の予定のままで、ご都合の方はよろしいでしょうか?」
「大丈夫よ。希望者多数で、2週開催もあると考えていたから、今度のEの日も次のEの日も、そのつもりでいるわ」
「2週開催でもよろしいのですか?」
「良いわよ。うちで、大量に作ったのよ。キャラメル自体は特に問題ないけど、紙に包むのが大変で、1人あたり100個以上包んで、包むのだけ人を雇おうって話になるくらいだったのよ」
「おいくつ作られたのでございますか?」
「基本600、イチゴ600、パイナップル80、ブルーベリー80で、1360粒ね」
「そちらで、何日分でございますか?」
「ベルフルールと半分ずつにしたから、うちの販売分は600ね。これで購入個数制限を合計2個としても、多分2日は持たないわ。使用人を大勢連れて、人数分購入って貴族がいっぱい来るのよ」
ローズマリーは驚いた顔をして、笑いながら話すユリを見つめていた。
「使用人連れの貴族の注文を、お断りにはならないのですか?」
「それ断っちゃうと、ご婦人やお子さんの代理で買いに来た人に、売れなくなっちゃうからね」
「調整が大変なのでございますね」
「あ、これ、話に出たパイナップル味とブルーベリー味。3個ずつしかなくて悪いけど、お味見にどうぞ」
「ありがとうございます」
早速食べてみるらしい。
「甘くて美味しいですね」
「とりあえず、販売は基本味とイチゴ味の予定ですけど、他の味の希望はありますか?」
ユリのこの質問に、ローズマリーは少し困ったように笑った。
「大変申し訳ございません。屋敷の者と分けてしまったため、全てのお味はいただいていないのでございます」
切り分けようと考えはしたが、上手く切れなかったらしい。
2つずつしか渡さなかったのだ。娘のマーガレットや使用人にも分けたのだろう。
「アルストロメリア会では、何味を作りましょうか? 複数候補を用意し、希望の味を作るようにしますか?」
「それでございましたら、皆で少しずつ交換できますね」
全員が違う味を作ると、予定が決まった。
ユリは家に帰り、胡瓜の漬け物を、大量に作るのだった。




