野菜
パウンドケーキが焼けたタイミングで、冷蔵庫に置いていたハンバーグと、型抜きが終わっているクッキーを、オーブンに入れた。少しするとマリーゴールドがやってきた。
「こんにちは。お邪魔いたします」
「マリーゴールドちゃん、いらっしゃい。疲れは取れた?」
「はい、落ち着きました。着替えが楽なのは特権でございます」
確かに、コルセットを使うドレスは、着ているだけで疲労が増す。
マリーゴールドは少しキョロキョロすると、リラに聞きに行った。
「リラさん、ハンバーグはまだ焼かないのでございますか?」
なめ茸ソースのハンバーグを食べるために来たのだ。それは気になるのだろう。
「ユリ様が、さっきオーブンに入れていたから、オーブンで加熱なんだと思うよ」
「オーブンで、ハンバーグが焼けるのでございますか!?」
「鶏丼の時、やっぱりオーブンで、鶏の照り焼きを焼いていたよね」
「確かに、そうでございますね」
ユリも話に加わる。
「オーブンで焼くと、ハンバーグを焦がしたりせず、大量に焼けて良いわよ。それにね、まあ、あまりしないけど、楕円形以外の形に焼くのにも有効なのよ」
「どう言うことですか?」
「ハート、じゃなくて、この国の形や花型に整えたハンバーグとか、フライパンで焼くと多分途中で少し崩れるけど、オーブンで焼けばひっくり返さないから、全く崩れないわよ」
マリーゴールドは、オーブンを覗きに行っていた。上段中段のクッキーの他、下段にて、10個のハンバーグが鉄板にのっているのが見える。
「いっぺんにたくさん焼けるのでございますね」
フライパン一枚で焼くと考えたら、10個同時はかなり厳しい。
オーブンのタイマーが鳴り、ユリがハンバーグを取り出しに来た。
「何分くらい焼くのでございますか?」
「オーブンに入れる前に冷蔵していたら、20分くらいね。捏ねてすぐ少量なら、15分くらいでも焼けるわね」
「手焼きより便利でございますね」
「そうね。上下から熱がかかるからね」
クッキーやハンバーグを取りだし、ハンバーグを皿に盛り付け、大根おろしとなめ茸をのせ、ご飯とサラダを用意して、昼ご飯の用意が整った。そこへ、ソウがちょうど帰ってきた。
「ただいまー。ユリ、紫大根の他、適当に買ってきたよ」
「どうもありがとう。クッキーとパウンドケーキ増産したわよ」
「なら、少し予備をもらおうかな」
ご飯を食べ始めると、ユリが声をかけた。
「味が薄いと感じる人は、ポン酢醤油をかけて下さい」
「あっさりしていて、夏の熱さで食欲が無い日でも食べやすいですね」
「お酢が入っているものは、更にさっぱり食べられるわよね」
昼食が終わると、ソウが肩掛けカバンから変わった野菜たちを取り出した。皆が集まってくる。
「まず、頼まれた紫大根な。これは赤芯大根、これは中が緑色の大根で、これはレディーサラダと言うサラダ用の大根。これは黄色人参、紫人参、赤い金時人参、白い人参。これは紫カリフラワー、オレンジカリフラワー、形が変わっているロマネスコ。味はカリフラワーだな」
「見たことも聞いたこともない野菜ばかり!」
「黄色人参以外、初めて見ました」
リラはユリの話で、大根や人参に、色々な色があること自体は知っていたのだ。ソウもその辺を考慮して、カリフラワー各種も買ってきたらしい。
「これ、いただいてよろしいのですか?」
「ユリからの感謝と、昨日アイスクリームも手伝ってもらったし、みんなも驚いたし、是非受け取ってくれ」
「ホシミ様、ありがとうございます」
「リラさん、何を作るのでございますか?」
「マリー、一緒に考えてくれる?」
「はい!」
ソウは野菜を鞄に戻し、リラとマリーゴールドを連れ、ベルフルールの冬箱にしまいに行ったが、何故かそのまま戻ってきた。
「ユリ、ベルフルールの冬箱が胡瓜だらけだったから、この野菜預かって、リラに渡してくれる?」
「そういえば、胡瓜10kgあるのよね。うふふ」
ユリはソウから変わり野菜各種を受け取り、指輪を杖に変え、収納した。
「なんであんなに胡瓜だらけなんだ」
「あら、うちにはその10倍くらいあるわよ」
「え?」
マーレイから頼まれ、知り合いの八百屋の注文ミスで大量に余る胡瓜を引き取ったと説明した。
「へぇ、なら、パリポリの胡瓜の漬け物作ってよ」
「わかったわ。明日仕込むわね」
ユリの、ソウへの返事に異を唱えたのは、リラだった。
「えーー! 明日なんですか?」
「だって今日は無理じゃない?」
「まあ、確かに」
仕事のあと、シィスルとグランを迎えに行くのだ。
「明日仕込むときに、声かけてもらうのはダメですか?」
「私は構わないけど、忙しいんじゃないの?」
「まあ、多分そうですけど、私は本当は休みなのです!」
リラが休みを主張するのは珍しい。但し、結局仕事をするためではあるが。
「そういえば、マリーゴールドちゃんにはクッキーを持っていったけど、シィスルちゃんには良いの?」
「あ、それ、キャラメルを持って行ってもらえませんか? あちらも商売なので、話題のものの方が良いと思うんです」
「いつ作るの?」
「昨日作りました! 約160有るので、キボウ君個人に10、ユメちゃんとキボウ君に50、ベルフルールに50、シィスルの実家に50で分けようと思います」
「わかったわ。持って行けるようにしておいてね」
「はーい」
全員休憩に入り、ユリは外おやつに、リンゴゼリーを出してきた。冷茶は、ソウが持ってきてくれた。
厨房に戻ると、何かを探しているユメが待っていた。
「ユリ、福神漬の残りはどこに有るにゃ?」
「え、あー! 足りないかも」
カレーを追加したのだ。どう考えても、追加した80人前分が足りない。
「キボー、てつだう?」
「あ、うん、キボウ君ありがとう。でも、大根も蓮根も茄子もないのよ。胡瓜しかないわ」
後ろからついてきたソウが、提案した。
「ユリ、胡瓜ならいっぱい有るんだから、パリポリ漬け作れば良いじゃん」
「添えの漬け物が変わるくらいなら、許容範囲かしらね?」
「今から作るなら、手伝うぞ!」
「手伝うにゃ!」
「てつだう、てつだう!」
お昼休みだが、胡瓜の漬け物を急いで作ることになった。胡瓜を刻んでいると、走って来る人がいる。
「ユリ様ー、勿論手伝います!」
リラとマリーゴールドが、駆けつけてきた。ユリは連絡していない。
「なんでわかったの?」
「ユメちゃんが教えてくださいました」
「とても助かるけど、」
「いただいたお野菜が多すぎますので、その分と言うことで!」
「ありがとう。よろしくお願いします」
胡瓜のカットをリラとマリーゴールドに任せ、既に切ってある胡瓜、約10本分を量って塩をした。ユメは調味料の計量をし、ソウは生姜の千切りを作っている。
ユメに量ってもらっていた調味料を沸騰させ、水気を絞った胡瓜を加え、鷹の爪も加えた。
「キボウ君、一時間お願いします」
「わかったー。いちじかーん!」
すっかり冷めた胡瓜を、液体ごとジッパーバッグに入れ、充填した冬箱に入れた。
「キボウ君、1日お願いします」
「わかったー。いちにちー!」
ユリは胡瓜の漬け物を冬箱から取りだし、袋を開け、みんなに試食を配った。
「美味しいー!」
「福神漬よりも食べやすいにゃ」
「ご飯が欲しくなるお味でございますね」
「これこれ、これ旨いよな」
「パリパリポリポリ、パリパリポリポリ!」
「評判良さそうね。時間があるときに胡瓜を刻むことにするわ」
ユリは刻んである残りのきゅうりも引き取り、同じようにキボウに時送りを頼み、仕上げた。1袋が40~50人前だ。
昼休みから戻ったメンバーにも、胡瓜のパリポリ漬けを試食してもらった。おおむね好評で、むしろ追加を頼まれた場合の心配までされた。




